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[恋]と[怪]どちらから読みますか? 伴名練『日本SFの臨界点』ふたつの序文

SF作家の伴名練氏が今、いちばん読んでほしい作品を集めたアンソロジー『日本SFの臨界点』[恋愛篇][怪奇篇]という2つに分冊された本書の序文を同時公開します。恋と怪、あなたはどちらを先に読みますか?

日本SFの臨界点_横長パネル

日本SFの臨界点[恋愛篇]序文

伴名 練

『日本SFの臨界点[恋愛篇]』をお届けする。本書は、SFであり恋愛成分を含む作品を中心に、私の好きな短篇を集めたアンソロジーだ。

 恋愛要素を絡めたSFは、長くに渡って愛され続けてきた。

 一九五九年発表の、時間を越えて手紙をやりとりするジャック・フィニイ「愛の手紙(机の中のラブレター)」のアイデアは、SFジャンル外にまで変奏され続けているし、ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」梶尾真治「美亜へ贈る真珠」小林泰三「海を見る人」のような時間SFロマンスはオールタイムベストの常連。

 人造人間テーマの古典的作品である一八八六年のヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』は恋愛小説でこそないが、恋人に失望して理想のアンドレイド(アンドロイド)を創ろうとする話だし、タニス・リー『銀色の恋人』(ハヤカワ文庫SF)は女性側から男性型ロボット(アンドロイド)への恋愛を描き、特に女性の書き手に影響を与えた。

 論理が支配する世界を描く小説において、感情が支配する恋愛のエッセンスは、広い読者を獲得する武器のひとつになったのだろう。

 もっとも、このアンソロジーは当初の予定では、私の好きな作品の中で抒情的な作品を集めて『ロマンチック篇』あるいは『恋愛・抒情篇』とでもする予定だったものが、編纂中に少しずつ恋愛の方に重点が置かれていった、という経緯があり、収録作のうち全く恋愛でないもの一篇(しいて言えば家族愛)、恋愛色がそう強くないものも数篇含まれている。看板に若干の偽りありだが、人間の心の襞を書いた名品ぞろいではあるので、小説としてご満足頂けると思います。なるべく広い読者に届けられるように心がけたつもりだが、全作品個人短篇集未収録というラインナップなので、SFマニアの方々でも買って損はさせません。

 先に収録作のあらすじをざっくり紹介すると、遠宇宙にいる男から恋人のもとに届く、何通もの手紙によって浮かび上がる物語「死んだ恋人からの手紙」、超能力者たちが暮らす東欧の小さな町に踏み入れた男が出会うファンタジー「奇跡の石」、人間が少しずつ生まれ、少しずつ死んでいく異世界の家族ドラマ(非恋愛小説)「生まれくる者、死にゆく者」、悩めるライトノベル作家を切実な過去が追ってくる「劇画・セカイ系」、中世から電話が存在した改変歴史ヨーロッパ幻想「G線上のアリア」、近未来のAR溢れる京都を舞台にしたガールミーツガール「アトラクタの奏でる音楽」、信号待ちの短い時間に男と女の間で起きる奇妙な現象を描く「人生、信号待ち」、数字にまつわる超知覚をもった少女の見る異邦の世界「ムーンシャイン」、竹取物語をベースに一九世紀末ブラジルで繰り広げられる求婚話「月を買った御婦人」。前半に柔らかめの話、後半に歯ごたえのある話が多いです。

 アンソロジーは前から順に読むべきという話があるが、別にどこから読んでもいいし、苦手と思った作品は後回しにして先に他から読んで大丈夫です。中学時代に買ったSFアンソロジーの頭二作が好みではなかったのでそのまま放置、やっと読み切ったのが大学三年でその時初めて非常に好みの作品に出会った──という私の経験を反面教師にしてください。

 収録作はいずれも私が好きなものだが、中でも「他人にあらすじやアイデアを紹介しただけでも面白さが伝わる」作品が集まっているはず。私も大学SF研時代、会員からあらすじやアイデアを聞いて興味が湧き読んだ作品は無数にあり、そういう記憶は自分のSF体験の中でも大切なものだ。皆さんも、ぜひ周囲の人に作品を紹介し布教してみてください。

 各短篇の前には、著者紹介を三ページずつとっているが、各作者の目ぼしいSF短篇についても紹介している。興味が湧いた方はそちらにもどんどん手を伸ばしてみて頂ければ幸いです。「そんなこと言われても掲載媒体がレア過ぎて手に入らないぞ」という短篇もたくさんあるが、そういうものについては、各社編集者の方がぜひ短篇集を出して手に入りやすくして下さい。先に予告しておくと、多くの著者紹介が、「早く短篇集を出してほしい」的な文言で〆られておりしつこいくらいだが、これは社交辞令でもなんでもなく、この本を読むかもしれない(早川書房含む)各社編集者へのメッセージかつプレッシャーである。こういう面白い作品がたくさんあるのに放っておくのはよくないでしょう。

 そんな訳で、まずは作品をお楽しみ頂ければ幸いです。

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日本SFの臨界点[怪奇篇]序文

伴名 練

『日本SFの臨界点[怪奇篇]』をお届けする。本書は、SFかつ広義の怪奇(ホラー)テーマにおさまる、またはおさめたいと思って強引に私が選んだ作品を集めたアンソロジーだ。

 SFと怪奇テーマの相性の良さは遥か昔から証明されている。

 何しろ現代SFの祖と呼ばれることが多い、メアリ・シェリー『フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス』からして、科学者の生み出した「フランケンシュタインの怪物」を巡るマッドサイエンスホラーである。

 また、日本のSF史を紐解けば、第一回(一九六一年)ハヤカワ・SFコンテストでトップ(佳作第一席)だった山田好夫「地球エゴイズム」は宇宙生物ホラー。日本SFの歴史はSFホラーと共にあったと言っても過言ではない。あまりにも有名な怪談「牛の首」を書いた小松左京を筆頭に、星新一、筒井康隆も含む「御三家」をはじめ、日本SF第一世代作家も優れたホラー作品を多数発表している。それ以前まで遡れば、海野十三夢野久作蘭郁二郎の怪奇小説が日本SFの先駆となっていた部分もある。

 もっとも、怪奇篇といっても、本書で「怖い」ことを主眼に置いた作品はそんなに多くない。グロテスクだったりコミカルだったり幻想的だったり、世にも奇妙な物語的だったり嫌な話だったり異形譚だったり、と趣向は様々。軽く読めるショートショートから中篇サイズのものまで長さもバラバラで、一番新しいものは二〇一六年発表、一番古いものは六十年近く前と、年代も分かれている。とにかく単に私が好きだとか読んでほしいと思うものを集めた一冊であり、なるべく光の当たっていない作品を取り上げたので、三本を除いて個人短篇集未収録という、比較的レアな掘り出し物が集まっているはずだ。

 先にざっくり内容をご紹介すると、驚くべきインディーズバンドを描くロックノベル「DECO-CHIN」、バカ話系ショートショート二連発(グロテスクな現象に見舞われた男「怪奇フラクタル男」/大阪特有のトラブルを解消する珍発明ヌルが生む騒動「大阪ヌル計画」)、人間が増えすぎてギチギチの状態で暮らす悪夢の社会「ぎゅうぎゅう」、タイムマシンを相続した男の行末「地球に磔にされた男」、人間の脳に干渉する奇妙な結晶を巡るサスペンス「黄金珊瑚」、日常的に血まみれになってしまう家族のドタバタ「ちまみれ家族」、実態不明の閉鎖環境で繰り広げられる狂気のディスカッション「笑う宇宙」、遠未来の異形の少年によるボーイミーツガール「A Boy Meets A Girl」、人間を奴隷化した獣人たちの織り成す攻城戦「貂の女伯爵、万年城を攻略す」、戦前の北海道の診療所に担ぎ込まれた女性の症状を巡る幻想「雪女」。前から読んでも好きなところから読んでもOKです。

 各短篇の前には作家紹介ページが設けられている。ここは通常、著者の経歴や受賞歴を羅列すべき箇所ではあるが、本書では各作家の作品、とくに短篇に重点をおいて紹介している。今時、検索画面に作家の名前を打ちこめば受賞歴などの基本情報は大体出てくるし、Amazonにあらすじが書いてある長篇よりも、内容を知りにくい短篇を紹介した方が短篇読者へのガイドになると思ったのである(基本的には三ページにおさまっているが、ググっても基本情報が出てこない作家に関しては五ページになっています)。作品を読んで興味をお持ちいただけたらぜひその作家の別の作品にどんどん手を伸ばして頂ければと思います。

 著者紹介の中には、やれ自作が影響を受けたとか、やれ思い出深い作品だとか、個人的な思い入れなどを書いて出しゃばっている部分もあるが、私がかつて読み、参考にしまくったブックガイドは、そういう個人的な観点が多分に含まれるものばかりだった(そしてそういう部分が他の作品にも手を伸ばすきっかけになった)ので、先人にならった次第である。

 手軽に使えるSNSなど生まれていなかった時代の作品も多く、当時の読者は、面白いと思ってもその感想を作者や出版社に届けづらかったに違いない。なので、一冊読み切らなくても、好きだとか面白いとか思った短篇があればぜひ作品・作家タイトルと一言感想などを呟いて頂けたら幸いです。たまにアンソロジーとか雑誌に短篇が載るだけでなかなか短篇集が出ない作家にとっては執筆のモチベーションを維持するのが大変なので(経験者談)。

 それではどうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

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ありがとうございます!今日のおすすめは『三体』です。
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