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メカアクション満載の大活劇。歴史改変SF大作『メカ・サムライ・エンパイア』 評論家・堺三保「文庫解説」先行公開

 『メカ・サムライ・エンパイア』(ハヤカワ文庫SF)
 ※書影はAmazonにリンクしています。

前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』が星雲賞海外長編部門を受賞、本屋大賞翻訳小説部門2位となった、SF作家ピーター・トライアス。その彼の待望の続篇メカ・サムライ・エンパイアが発売される(中原尚哉 訳、2018年4月18日発売)。ナチス製バイオメカと巨大メカの戦闘シーン満載の歴史改変SF大作の魅力を、評論家・堺三保氏による「解説」でご紹介します。

解説
堺 三保(評論家)

 一昨年翻訳出版され話題となった歴史改変+巨大ロボSF『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続篇が本国アメリカに先駆けて登場した。それが本書『メカ・サムライ・エンパイア』である。
 この連作は、第二次世界大戦で日本とドイツが勝利し、アメリカ合衆国が日本とドイツに分割統治されてしまって、日本軍、ドイツ軍、そしてアメリカ人テロリストの三者がそれぞれ権謀術数を巡らし暗闘を続けているという、実にグロテスクなディストピアを舞台に、運命に翻弄される人々の姿を描いている。
 主に一九八八年を舞台にしていた『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』から一転、本作では主人公を含む登場人物たちがほぼ一新され、一九九四年から一九九六年にかけての出来事が綴られている(物語そのものも本作だけで完結しているので、前作を未読の方でも大丈夫。そういう方は本作を先に読んで、できればさらに前作に遡っていただきたい)。

 前作ではなによりもフィリップ・K・ディックの高い城の男の影響が大きく見受けられ、特に『高い城の男』に登場する奇書『イナゴ身重く横たわる』に相当するものとして、『USA』なるゲームが登場、日独が敗れた時間線(つまり我々の世界)の存在を暗示するという大きな役割を担っていた。また、主人公はゲームのデザイナーであり、(作中では「メカ」と呼ばれる)本物の巨大ロボに搭乗するのではなく、あくまでもゲームの中での戦闘でその手腕を発揮していた。もちろん、本物の巨大ロボ同士の戦いも登場するのだが、そこではあくまで主人公は傍観者だったり、逃げ惑う立場であったりしていたので、(文庫版のカバーは都市内に屹立するメカのめちゃくちゃかっこいいイラストが描かれていたので)ちょっとした「カバー詐欺」じゃないかという意見も出たり出なかったり。
 だが、本作は心配ご無用! 今回は前作以上に巨大ロボ戦が目白押しなのだ。しかも、今回の主人公はメカに乗って戦って戦って戦いまくる! 前作の主人公ベンは、少々お腹の出てきた中年男性だったが、本作の主人公マックは高校を卒業しようとしている若者だという点も大きな違いだ。マックは物語の序盤ではまだ高校生であり、メカのパイロットを目指して帝国試験に備えているのだが、そこでトラブルに巻き込まれ……、という展開となる。このあたりはまさに、『機動戦士ガンダム』や『超時空要塞マクロス』といった巨大ロボアニメとかなり近い感じの導入部だと言えるだろう。
 いや、前作で強烈な印象を残した女性メカパイロット久地樂(くじら)の二代目が登場、先代同様切れの良い大阪弁をまくしたてつつ大活躍するし、美人女性メカパイロットたちまでマックの戦友として登場するなど、まさに気分は巨大ロボアニメそのものと言ってもいいかもしれない。ぜひともメカアクション満載の大活劇を御堪能いただきたい。

 また本作では、前作でほのめかされていた程度のドイツとの確執、そしてドイツによる世界制覇の陰謀が語られ、日本対ドイツの緊張感が高まっていく。作者の謝辞によれば、すでに次回作も書く気満々なようなので、もしかしたら本シリーズは『高い城の男』よりも佐藤大輔の『レッドサン ブラッククロス』のような日独決戦架空戦記に近いテイストの大長篇戦記へと成長していくのかもしれない。
 もちろん、前作同様、全体主義的な独裁政権の圧政下というグロテスクな世界観は、本作でもがっちりと描写されている。本シリーズがユニークなのは、他民族に征服された国家を、被支配者側からではなく、支配者側から描いているところにある。特に本作では、前作以上にそこが明確に描かれている。年代が十年近く進んで、日本によるアメリカ支配がさらに強固になりつつあるだけでなく、前作の主人公ベンと、本作の主人公マックとでは、その育った環境がずいぶん違うからだ。ベンの両親は抗日派の疑いをかけられて処刑されたが、マックの両親は対日テロ組織との戦いで死んでいる。ベンとマックでは世代の差だけでなく、両親の記憶という点からも、日本合衆国、すなわちUSJという国の見え方がかなり変わってしまっているのである。マックにとってUSJは、生まれたときから慣れ親しんだ国であり、その国民であることへの疑念はないのだ。
 先に言及した『高い城の男』はもちろん、日独が第二次世界大戦に勝利した世界を描いた作品は、レン・デイトンのSS‐GB、ロバート・ハリスのファーザーランド、マリ・デイヴィスの英国占領、アラン・グレンの鷲たちの盟約、ジョー・ウォルトンのファージング三部作》等々、枚挙にいとまがないが、それらの作品はいずれも被支配者側の視点から描かれ、いかにして反抗するのか、もしくは順応するのか、が描かれていた。そのほうが(虐げられている)主人公たちに感情移入しやすいし、なによりも、どちらの側が正義かがはっきりするからだ。
 ところが本シリーズはその構図を逆転させ、主人公たちが状況の異様さに無自覚でいる姿を見せることで、全体主義国家の歪さを逆説的にあらわにすることに成功している。それはまた、自分たちが暮らしている社会の現状に、無自覚に順応している我々読者に対して差し出された歪んだ鏡像でもあると言える。イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領誕生、日本の政界スキャンダル、中国の国家主席任期延長など、タガが外れたかのような昨今の世界情勢の中、我々もまた本シリーズの主人公たちのように、異様な状況に順応してしまっているのではないか。そんなことも問われているように思えるのだ。

 ところで、本シリーズにおける歴史改変の大きな要素の一つに、科学技術の発展速度の違いがある。戦闘用人型巨大メカの開発はもちろん、電子技術、特にコンピュータ関連技術の進歩が、我々の世界よりもかなり早いのだ(なにしろ前作の舞台であった一九八八年時点ですでにスマホとほぼ同等の通信端末「電卓」が日常的に利用されている)。
 その進歩の過程は本文中のそこここで語られてはいるが、本当にそんな急速な発展は可能なのだろうか? 筆者はそこにさらなるSF的アイデアの可能性を妄想してしまっている。すなわち、この作品の世界における科学技術の進歩は、未来、もしくは平行宇宙といった、外部からの介入によって人知れず行われているのではないだろうか。もしそうだとすると、この先シリーズが進んでいけば、いつかは歴史改変がらみの大ネタが炸裂して、時間改変戦争SFに化ける可能性もあったりして(いや、あくまでも、筆者の妄想だが)。

 ともあれ、前述したように作者はすでに続篇を構想中のようで、次はいったい何年頃を舞台にどんな物語が展開するのか。そして、USJという国は、いかなる二十一世紀を迎えることになるのだろうか。妄想を膨らませつつ、新たなる物語が届けられるのを待ちたい。

  二〇一八年三月

『メカ・サムライ・エンパイア』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』のように、新☆ハヤカワ・SF・シリーズとハヤカワ文庫SF(上下巻)の同時発売で、日本先行発売です(本国アメリカでは9月発売)。

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