「三種の神器」に税金はかかるのか? 滝鼻卓雄『記者と権力』(早川書房、4月20日発売)から番外篇を特別公開!
4月20日に発売される『記者と権力』は、読売新聞東京本社社長、巨人軍オーナーを歴任した滝鼻卓雄氏による渾身のジャーナリズム・エッセイ。今日は番外篇として、滝鼻氏が記者時代に取材した、「天皇家の相続問題」についての1篇をご紹介!
突然のことだった。論説委員を務めていた昭和64年(1989年)1月、昭和天皇が亡くなられて数日後のこと、論説委員会のデスクから「新天皇には相続税の納税義務はあるのか。それとも非課税になる制度はあるのか」を調べろという、“取材命令”が飛んできた。とんでもないことを聞くデスクだと思ったが、調べてみる価値はありそうだと考えて、取材を始めた。
国家、国民の象徴である天皇とファミリーはそもそも私有財産を持っているのだろうか。どこからか怒られそうな想像をすれば、万が一この国の政治体制が崩壊して、天皇をはじめとするファミリーが国外に脱出しなければならないような事態になった時、かなりの規模の財産を必要とするだろう。ダイナスティ(君主)としての地位を確保するためには、私有財産は絶対に必要だ。
取材のターゲットとなったのは、宮内庁、東京国税局、麹町税務署、税理士、弁護士などなど。やがては天皇家の戸籍謄本に相当する「皇統譜」を管理している法務省にも話を聞いた。
だんだんと分かってきたのは、天皇や皇族方にも私有の財産があり、所得税や相続税の支払い義務があるということだった。公務にかかわる宮廷費、内廷費には所得税はかからないと定められているものの、本の印税や原稿料などの収入は課税対象になる。
相続についても、昭和天皇の崩御によって、現在の天皇と皇太后(当時)が遺産相続人となり、約18億7000万円を受け継いだ。ほとんどが金融資産であとは美術品だった。天皇が約4億円の相続税を納め、皇太后は配偶者控除によって非課税が適用された。
財産の中でも注目されるのが、「三種の神器」の扱いである。
草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、八咫鏡(やたのかがみ)の三点。これこそ天皇家に伝わる正統の証だ。三種の神器は、皇室経済法で「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」と定義され、非課税であることが明記されていた。皇室に伝承されている由緒物は他にもあるようだが、私の取材では詳細は分からなかった。それこそタブーの核心かもしれない。
ところで、現在、天皇の「生前退位」が国会などで論議されている。天皇ご自身が、いつごろからそのようにお考えになったのかは、私には知るよしもなかったが、ひとつ気になることがある。
天皇が皇位を皇太子さまに譲位した場合、三種の神器は相続ではなくて贈与になる。だが、皇室経済法は天皇の終身在位を前提にしているため、贈与を非課税とする規定がない。だから贈与税の納付をどうするかという新たな問題が起きてくるのだ。これも取材に値する、新たな問題だろう。皇室経済法を改正するのだろうが、もし三種の神器に贈与税がかかるとするとその値段はいくらになるのだろうか?
滝鼻卓雄『記者と権力』は全国書店/インターネット書店で4月20日発売! 電子版も4月下旬から順次配信。