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「文学界の未確認飛行物体(UFO)」こと『異常【アノマリー】』の魅力を営業担当が語る

🖊早川書房営業部 鈴木愛加

ジュンク堂書店池袋本店様 『異常【アノマリー】』展開の様子

気が付けば12月。そろそろ、あなたも「2022年マイベスト本」を考えだす頃合いなのではないでしょうか。今年もたくさんの書籍が刊行されましたね。早川書房も、12月の新刊を含めると計240点の書籍を刊行したことになります。あなたの「マイベスト本」候補の中に、弊社の作品が1冊でも入っていたら万々歳なのですが、「これから選ぶよ」という方のために、私はいまこの記事を書いています。この本を読んでから決めてほしいです、何卒。

出版社の営業は、本になる前の原稿(ゲラ)をたくさん読んでいて、とくに編集者が「これは面白いぞ。売りたい」という本は、あまり好き嫌いを言わずにできるだけ読むようにしています。それで、昨年11月に編集者に薦められて読んだのが、今日ご紹介する『異常【アノマリー】』でした。

前情報として、本書は2020年にフランス最高峰の文学賞“ゴンクール賞”を受賞し、同国内で110万部を突破する大ベストセラーとなりました。40の言語で翻訳が進められ、ニューヨーク・タイムズ紙の“ベスト・スリラー2021”に選ばれるなど、その人気は世界へと広がっていました。

という情報を編集者から聞き、私がまず最初に思ったのは「とはいえ、なんだか難しそうな本だな」ということです。フランス文学と聞くと、どうしても敷居が高くて難しいという印象を持ってしまうのは私だけではないはず。さらに、あらすじを読んでもなんだかよくわからないんですね。

殺し屋、ポップスター、売れない作家、軍人の妻、がんを告知された男……なんのつながりもない人びとが、ある飛行機に同乗したことで、運命を共にする。飛行機は未曾有の巨大乱気流に遭遇し、乗客は奇跡的に生還したかに見えたが――。

『異常【アノマリー】』あらすじ

それでも、飛行機にまつわる話というのは、本でも映画でもなんだか魅力的で、ルシアン・ネイハムの大傑作小説『シャドー81』(ハヤカワ文庫NV)はもちろん、映画『トップ・ガン』(大好き!)、『エアフォース・ワン』(ハリソン・フォードが大統領役)、『ハドソン川の奇跡』(衝撃の実話!)など好んで観ていたんですね。しかもちょうどこのタイミングで、Netflixのドラマ『マニフェスト』が配信されていて、飛行機をテーマにしたSFへの関心が高まっていたので、これは読まねばならないという気持ちで読み始めたわけです。

しかしながら、冒頭の第一部は「空ほどに暗く」というタイトルではありつつも、飛行機の話はなかなか出てこないです。あらすじにもある通り、いろんな経歴をもつ、まったく関わりのない人たちの日常が、10ページほどの短篇の形で代わる代わる描かれ、まるで群像劇を読んでいるようです。
それでも、常になんだか不穏な空気が漂っているんですね。1人目に登場する殺し屋・ブレイクの章は「人を殺すのは、たいしたことじゃない」という一文からはじまるし、売れない作家・ヴィクトル・ミゼルは、最後の最後で〇〇してしまうし…。

読み進めるうちに読者は、一見なんの関わりもないように思えた登場人物たちのある共通点に気づき始めます。それは、①彼らが数カ月前に同じ飛行機(エールフランス006便)に搭乗し、パリからニューヨークに移動したこと。そして、②現在彼らのもとに、国家警察らしき人物が訪ねてきているということ…。
そして、ついに読者は衝撃の第一部最後の章、「最初の数時間」を読むことになります。小島秀夫監督が「『異常』事態に驚いて本を落とした!」というあのシーンです。

これ以上のことは何も言えませんし、何も知らないで読んでほしいです。その方がこの小説を120%楽しむことができるはずです。きっと、あなたの期待を裏切りませんし、さらにはその斜め上をいくことでしょう。

ただし1つだけ言わせていただきたいのは、“異常事態”の正体が明らかとなる第一部の最後は、この小説の始まりにすぎないということです。この小説の最大の魅力は、「この“異常事態”に登場人物たちがどう対応するか」という点にあります。この問いに対する著者エルヴェ・ル・テリエの答えを読んだ時、私はいままでに味わったことのない興奮を覚えました。「こんなことを思いつく人がいるのか!!」と。

めっぽうに面白くて、とてつもなく知的。『異常【アノマリー】』は私たちの確信を弄び、言葉と文学の限界を追求する。刺激的な文学の思考実験。
――ソフィー・ジュベール、<リュマニテ>誌

スリラーや社会派SFドラマのように人々を惹きつける、文学界の未確認飛行物体【UFO】。
――アレクサンドル・フィヨン、<レ・ゼコー・ウィークエンド>誌

よく、「この本はミステリーですか?SFですか?」と聞かれるのですが、簡単に言ってしまえばその両方です。どちらの要素も含んでいます。そして、ゴンクール賞を受賞した重厚な文学作品でありつつも、エンターテインメント性に溢れています。加藤かおりさんの訳もとても読みやすいです。最後までお読みになった方は分かると思うのですが、ラスト1ページの翻訳は本当に素晴らしいので是非最後まで読んでいただきたい(まだ見ないで!)。

この本を手に取った方は様々な疑問を持たれると思います。「いったいどんな話なの?」「このカバーに描かれている2人は?」「なんで目次がないの?」…すべて読めばわかります。そして、読後必ず、本書の面白さを誰かに語りたくなるはずです。その際は、どうかネタバレはしないようにご協力お願いいたします!

最後に。読み終わった方は、赤い全面帯とカバーを外して表紙をご覧ください。一風変わったとても素敵なデザインです。きっとあなたの本棚に永久保存されることでしょう。

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