拳銃使いの娘

アメリカTVドラマ界からの新たな刺客は「子連れ狼」! 『拳銃使いの娘』堺三保氏の解説を特別公開

アメリカ探偵作家クラブの贈るエドガー賞の最優秀新人賞を獲得し、また全米図書館協会が「ヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に贈るアレックス賞にも輝いた『拳銃使いの娘』(ジョーダン・ハーパー/鈴木恵・訳)が、ポケミスから発売されました。発売を記念して、その魅力と背景を紹介する評論家・堺三保氏の解説を特別公開します。【編集部】

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 ロサンゼルスに母そして養父と住んでいるポリーは、クマのぬいぐるみが友達の、内気なごく普通の少女だ。だが、彼女の父ネイトが刑務所から出てきた瞬間から、ポリーの人生は一変することとなった。ネイトに恨みを持つ白人ギャング団のボスが、ネイトとその家族全員の抹殺指令を出したのだ。そのためポリーの母が殺されてしまい、ポリーは助けに来たネイトと共に逃亡の旅に出る。二人を追うのは、ネイトを殺人犯だと考えている警察と、抹殺指令にかけられた多額の賞金に目が眩んだロサンゼルス中の犯罪者たち。はたしてネイトに逆転の策はあるのか? 父の運転する車の助手席に乗って逃亡を続けるポリーは、やがてタフな闘士へと成長していく……。

本書は、2018年度エドガー賞最優秀新人賞を受賞したジョーダン・ハーパーの She Rides Shotgun(2017) の全訳である。原題の「ショットガンに乗る」という表現はいかにも物騒だが、これはスラングで、その意味は「助手席に乗る」というものだ。ちなみに、これとは逆に「後部座席の真ん中に、友人二人に挟まれて乗る」ことを「Rides Bitch(あばずれに乗る)」と表現するらしい。ただし、いずれもかなり下品なスラングらしいので、あまり普通の人は使わないはずだ(イギリスでは使われない表現だということで、イギリス版はタイトルが A Lesson in Violence(暴力の教え)に変更になった)。また、この表現をずばりそのままタイトルに使った Girl Ridin’ Shotgun という歌がある。これはカントリー・シンガーのジョー・ディフィーの曲で、アメリカ南部の道路を、美人を助手席に乗せて走る若者の喜びを歌ったものだ。カントリーであることも考え合わせると、いかにも田舎の白人男性の好みに合った感じの歌だと言っていい。要するに、アメリカ人ならタイトルからすでに、本書があまり裕福ではない階層の白人たちの物語であることが、なんとなく予想できるということだろう。

 そんな本書の最大の読みどころは、視点がくるくると変わりつつスピーディに展開するストーリーのテンポの良さと、凶悪な犯罪者たちが蠢く暗黒街の迫力とリアリティに満ちた描写、そして何よりもヒロインであるポリーをはじめとする登場人物たちを必要最小限の筆致で魅力的に描き出す巧みなキャラクター造形にある。そして、これらの特徴は全て、作者であるジョーダン・ハーパーがテレビの犯罪ドラマの脚本家として現役で活躍中であることと無縁ではないと言っていいだろう。
 2001年に放送が開始された『CSI:科学捜査班』の大ヒットから、最新ドラマのFBI(日本未放映)にいたるまで、アメリカでは、かつての刑事ドラマよりもさらにリアルな捜査プロセスを描くことに焦点に当てた、プロシジャー(手続き)ドラマと呼ばれる「犯罪捜査もの」が大量に製作され、何本ものヒット作が生まれていて、もはや一時のブームではなくサブジャンルとして定着したとおぼしい。
 そんな中、リアルな犯罪ドラマ(クライム・フィクション)を犯罪者の側から描いた作品が、プロシジャードラマのブームの合間を縫うようにして生まれてきている。例えば、一介の高校教師が合成麻薬の製造者兼密売人としてのし上がっていく姿を描いた『ブレイキング・バッド』、カリフォルニアの地方都市を舞台にバイカーギャングたちの抗争劇を描いた『サン・オブ・アナーキー』、さらには『ボーダーライン』、『ウインド・リバー』、『最後の追跡』などの映画脚本で、強烈な犯罪アクションの書き手として一躍名をはせたテイラー・シェリダンがケビン・コスナーを主役に迎えた現代西部劇 Yellowstone(日本未放映)等々、今や、アメリカにおけるもっとも強烈なクライム・フィクションの主戦場は、テレビドラマ界にあると言っても過言ではない賑わいぶりなのだ。
 これら現代のアメリカテレビドラマの大きな特徴は、なんといってもそのシナリオの完成度の高さにある。一話四十数分という短い尺の中で、緩急に溢れた意表を突く展開と、短いセリフと印象的な動作で登場人物たちの性格や個性を表現するテクニックの巧みさが、視聴者の興味をそらさないのだ。そして、同じことが本書の特徴にもなっているのである。

 本書の作者、ジョーダン・ハーパーはミズーリ州スプリングフィールド出身。音楽ジャーナリスト、映画評論家を経て、2011年からテレビドラマの仕事に就き、2014年から『メンタリスト』、『ゴッサム』といったドラマの脚本を書くようになった。特に『メンタリスト』は、前述のプロシジャードラマの中でも傑作に挙げられる作品の一つで、ハーパーの筆力はその現場で鍛えられたのだと考えて良い。本書はそんな彼の第一長篇で、他の著作に短篇集 Love and Other Wounds がある。
 ハーパー本人は、ネット媒体のインタビューなどで、本書に影響を与えた作品として、『子連れ狼』や『レオン』、『ペーパー・ムーン』といった、大人と子供のペアが主人公として登場する犯罪ドラマを挙げている。特に『子連れ狼』については、こういうサブジャンルの先駆的な作品としてその影響を大きく位置づけているのが、我々日本人としてはとても嬉しいところだ。また、本人が好きな作家はジェイムズ・エルロイとコーマック・マッカーシー、さらにはクエンティン・タランティーノだそうで、そこらあたりも本書の作風から見て納得の顔ぶれだと言えるだろう。おもしろいのは、元音楽ジャーナリストらしく、いわゆるギャングスタ・ラップからの影響も大きいと言っているところで、ラッパーのゴーストフェイス・キラこそ、現代最高のハードボイルド作家だと考えているという。

 ちなみに、ハーパーは最初、ネイトを主人公として本書を書いていたのだが、どうにもしっくりとこなくて、途中で放り出していたらしい。ところが、ポリーの視点パートを増やして書き直し始めた途端、さくさくと筆が進んで本書が完成したのだとか。今となっては、本書の主人公はポリーだと考えていて、最初からポリーを主役として書いていけばよかったのに、少女を主人公にしてこんな殺伐とした話を書く勇気が最初は欠けていたのだとのこと。我々読者からすると、主人公はポリー以外の何者でもないとしか思えないのだから、創作というのはおもしろい。

 さて、そんなハーパーの近況だが、なんと本書の映画化が進行中で、その脚本を自分で書き上げたという。小説に関しては長篇小説二作を並行して執筆中だそうで、どちらも本書同様の犯罪小説だという。直近の最大の話題としては、ジェイムズ・エルロイの『LAコンフィデンシャル』(かつて映画化されたバージョンも傑作だったが)のテレビドラマ版が製作中で、そのエグゼクティブ・プロデューサーを勤めているとのこと。いずれの企画も楽しみすぎるではないか。大型新人作家の登場を寿ぎつつ、筆をおきたい。

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ハヤカワ・ミステリ1939
『拳銃使いの娘』
(原題/She Rides Shotgun)
ジョーダン・ハーパー/鈴木 恵・訳
装幀:水戸部 功
2019年1月10日発売

蛇足ですが……本書『拳銃使いの娘』が「子連れ狼」の影響を受けているのは、本文第2章の原題が「… And Cub」となっていることからも明らか。人気コミック「子連れ狼」は、映画化作品も含めて、アメリカではカルト的な人気を持っていますが、その英題が「Lone Wolf and Cub」なのです。これは、偶然の一致ではないでしょうね(笑)【編集部】

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