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【キム・チョヨプ来日決定! 記念企画第1弾】新刊『この世界からは出ていくけれど』著者の「日本語版への序文」をWeb全文公開!【11月末K-BOOKフェスティバルに登壇】

韓国新世代SF作家の旗手、キム・チョヨプ氏の来日が決定!
11/25~26に行われる「K-BOOKフェスティバル 2023 in Japan」にて、SF作家の小川哲さんとの対談が決定しました。

来日決定を祝う記念企画第一弾として、新刊である第2短篇集『この世界からは出ていくけれど』から、著者による「日本語版への序文」を全文公開します!


この世界からは出ていくけれど』より

日本語版への序文

 この本の韓国語版タイトルは『さっき去ってきた世界(방금 떠나온 세계)』です。この短篇集に同名の作品はありませんが、作中人物が今しがた出てきた世界を振り返る場面から切り取ったものです。ここに収録された小説はすべて、自分が属していた世界から他の世界へと旅立ったり、そうして旅立っていく人を見守る話だったりします。これらの物語を書きながら、ある人が、自分が生まれ育ち慣れ親しんだ世界をふと見知らぬものとしてとらえる瞬間を描きたいと思いました。

 それをかたちにするために、人間の〝感覚〟についてじっと考えてみました。わたしたちは、見て、聞いて、触ることのできるこの世界を現実だと思っているけれど、実際には〝感覚バブル(sensory bubble)〟に閉じ込められて生きています。人間が見たり聞いたりできるごく狭い範囲の光と音、限られた形態の嗅覚と触覚、不正確な時間感覚。わたしたちはその感覚バブルのなかで、これが本物の現実だと信じて生きていきます。でも、わたしたちが本当に感知できるのは、数万通りの現実のうちのたったひとつなのかもしれません。今この場で〝わたしたち〟と呼んでいる皆さんとわたしでさえも、互いに別々の感覚バブルに包まれていることでしょう。

 ふとした瞬間にそのバブルが弾けることもあれば、通りすがりの人のバブルと触れ合うこともあります。それはとても不思議で、説明しがたい瞬間だといえるでしょう。

 でも、そんな瞬間を不器用ながらに描いてみることができる、それがSFの魅力ではないでしょうか。

 早川書房編集部では原書のタイトルがつけられた理由を踏まえ、その意図をなぞって『この世界からは出ていくけれど』という日本語版タイトルを考えてくださいました。とてもすてきな題名だと思います。日本の読者の方々とは、拙著を通してすでに三度目の出会いとなります。わたしの小さな作業部屋で生まれた感覚バブルが、ぷかぷかと空を渡って皆さんのもとに届くのだと思うと、毎回新鮮なときめきを感じます。

 わたしの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。ではまたお会いしましょう。

二〇二三年八月の韓国から
                        キム・チョヨプより 

(カン・バンファ/訳)

●早川書房noteでは、キム・チョヨプ氏来日に向けて、さらにいくつものコンテンツを掲載予定です。第二弾、第三弾に乞期待!











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