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SFM特集:コロナ禍のいま⑧ 林譲治「パンデミックの外と内の壁」

新型コロナウイルスが感染を拡大している情勢を鑑み、史上初めて、刊行を延期したSFマガジン6月号。同号に掲載予定だった、SF作家によるエッセイ特集「コロナ禍のいま」をnoteにて先行公開いたします。本日は長谷敏司さん、林譲治さんのエッセイを公開します。

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 SARS-CoV-2はなぜここまで拡大したのか? そこにはウイルス特性だけでなく、感染拡大が起こりやすい環境を人類は築いてきたことがあるだろう。水平分業の拡大によるサプライ網の整備がそれだ。人や物の移動は拡大し、例えば航空機の旅客数だけでも21世紀に入って3倍になっている。
 ただ一連のマスク騒動で明らかなように、安価な工業製品の恩恵を世界が享受できるのも、まさにそのサプライ網の整備の賜物なのである。中国やアメリカでさえ、もはや海外との交流なしに現在の生活水準を維持できないという現実がある。
 さらに各国が感染情報を共有することで、事態を沈静化させようとしている現実を見れば、各国が行っている国境封鎖という選択肢は一時的な感染抑制策としては有効としても、事態が沈静化したポストCOVID-19社会においては、もはや鎖国という選択肢はないだろう。それが可能な段階を人類はとうの昔に過ぎ去っている。
 一方で、視点を国内に向けるなら、外出自粛や禁止が多くの国で求められている。それは人と人の接触を遮断するためのものであるが、これに伴う経済的影響が、社会的な分断の存在を明らかにしている。
 シカゴを例に取れば、アフリカ系アメリカ人の死亡数は白人との人口比を補正しても著しく高く、その背景には貧困があるという。経済格差は健康格差と連動するからだ。
 COVID-19の恐ろしさは、感染症そのものよりも、社会矛盾が人の命を左右しかねない点にこそあるだろう。そこにも社会の分断も見え隠れする。
 他方で、SNSでの「連帯」を呼びかける意見も多い。だがこの「連帯」とは、社会の中に誰もが共有できる文化・価値観が消失していることが、背景にあるのではないか。
 TVが力を持っていた昭和、月曜朝の小学生の話題はドリフターズだった。しかし、そんな存在はすでにない。SNSの話題が感染症一色なのは、人々にとって、それが久々の共通の話題だからなのだ。そこに擬似的な「連帯感」が生まれる。
 裏返せば、COVID-19がなかったなら、SNSで見知らぬ人との連帯感を得ることが難しい。話題の分断と今日の連帯は表裏一体の関係にあるわけだ。
 人類はいずれCOVID-19を克服し、そして世界は再び相互依存を強めてゆくだろう。経済的ダメージを克服するには他に手段はない。そして再度のパンデミックに対して社会が強くなるためには、国内に存在する社会的分断を如何にして減らしてゆくかが鍵となるだろう。
 社会的弱者がもっとも感染リスクを負い、命の危険があるならば、弱者を減らすことがパンデミック阻止の重要な手段となる。
 そのためには世界との連携をどう構築するかが課題となる。ただそれは意識の問題であり、手段はすでに我々の手の中にある。
 我々が住んでいるのは、人の命がかつてなく重い世界なのだから。

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林譲治(はやし・じょうじ)
1962年北海道生まれ。臨床検査技師を経て、1995年『大日本帝国欧州電撃作戦』(共著)で作家デビュー。確かな歴史観に裏打ちされた架空戦記小説で人気を集める。2000年以降は、『ウロボロスの波動』『ストリンガーの沈黙』『ファントマは哭く』と続く《AADD》シリーズをはじめ、『記憶汚染』『進化の設計者』(以上、早川書房刊)『侵略者の平和』『暗黒太陽の目覚め』など、科学的アイデアと社会学的文明シミュレーションが融合した作品を次々に発表している。


ありがとうございます!今日のおすすめは『ザリガニの鳴くところ』です。
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