本屋のワラシさま書影

ツンデレ座敷童子とワケあり書店員が営む、唯一無二の書店!? 『本屋のワラシさま』特別ショート・ストーリー公開

ちょっと気持ちが疲れたら、本屋さんに寄ってみませんか? 本には様々な想いが込められていて、手に取るときっと元気をわけてくれます。
もしその書店に、口調はちょっときびしいけれど本への愛情あふれる座敷童子の女の子と、〈本が読めない体質〉になってしまったけれど書店員であることを諦めない男子がいたら……
霜月りつさんの『本屋のワラシさま』は、本を読む喜びがいっぱいつまったハートフル・ストーリー。
実際の書店員さんも本書に共感してくださっています。

本書の魅力の一つが、様々な書籍が登場し、ストーリーにからんでくることです。
登場するのは――

『そばかすのフィギュア』『七つの人形の恋物語』『ずうのめ人形』『書店猫ハムレットの休日』『猫は忘れない』『夏への扉』『猫が見ていた』『旅猫リポート』/〈氷と炎の歌〉シリーズ/『自意識過剰!』『白い犬とワルツを』『旅券のない犬』『パーフェクト・ブルー』『デューク』『スピンク日記』『ウォッチャーズ』『のら犬ローヴァー町を行く』『大聖堂』『ぞうくんのさんぽ』『ぐりとぐら』『あおくんときいろちゃん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『超辛口先生の赤ペン俳句教室』『認知症は治せる』『アンの想い出の日々』『関ヶ原』『他力本願』/〈ペリー・ローダン〉シリーズ/〈ローダンNEO〉シリーズ/『残穢』『沈黙』『三幕の殺人』『スタイルズ荘の怪事件』『検察側の証人』『東京バンドワゴン』『高村光太郎詩集』(「智恵子抄」)『ロボット・イン・ザ・ガーデン』『おさるのジョージ』『星の陣』『書店主フィクリーのものがたり』

と盛りだくさん。出てきた本をもっと知りたくなること請け合いです。

今回ワラシさまの魅力をさらに知っていただくため、書き下ろしショート・ストーリーを掲載いたしました。
お楽しみいただければ幸いです。


『本屋のワラシさま』特別ショート・ストーリー
〔愚者のクリスマス〕

「俺は馬鹿だ」
 啓は書棚に頭をぶつけて呻いた。それに座敷童子のワラシが冷たい目を向ける。
「お前が馬鹿なことはよく知ってるがな。一応どうしたのか聞いてやる」
 啓(ひらく)は書棚に顔をつけたまま右手を上げる。その手にはビニール袋が下がっていて、中に花の鉢植えが入っていた。うっすらと緑がかった白い大きな花びら、密集して丸く見える雄蕊、美しいグリーンの葉。うつむき加減の可憐な花だ。
「なんだ? それ」
「クリスマス・ローズ……」
「オレだって花の名前くらい知ってるぞ」
「クリスマスに……プレゼントでも渡せと言ったのはワラシだろう」
「それは言ったが……」
 ワラシは花を見て、そして啓を見た。
「あー……」
 納得したように深くうなずく。
「ほんっとにおまえは馬鹿だな」


 今朝がたのことだ。カレンダーを見たワラシが「そろそろクリスマスだな」と呟いた。
「おまえ、隣の花屋にプレゼントでも渡せばどうだ?」
 そう言われて啓は出版社から送られてきていたFAXの束を取り落としてしまった。
「プ、プレゼントって、俺と藤森さんはそんな関係じゃ……」
「ばか。クリスマスだろ、お歳暮と同じぞ。感謝の気持ちで贈ればいいんだ」
「感謝の気持ち……」
「いろいろ世話になっているだろうが」
「それはそうだけど」
 見えはしないのに、啓は隣につながる壁を見つめる。
「女性にプレゼントなんて贈ったことないよ」
「お前は本屋じゃないか。自分の一番好きな本でも贈ればいい」
 その言葉に啓は深いため息をついた。
「本屋のワラシともあろうものが、馬鹿なことを言うな」
「なんだと?」
 むっとした様子のワラシに啓は腰に手をあて、胸をそらす。
「一番好きな本だって? 本読みにそれを聞いてどうするんだ。そんなものたくさんありすぎて選べるはずないだろ。おまえ、自分で考えてみろよ、一番好きな本」
 言われてワラシは目を上にあげる。
「……確かにむずかしいな」
「だろ? それに好きな本を紹介して読んでもらえなかったら悲しいじゃないか。俺は学生の頃、『星を継ぐもの』を布教しまくったのに、冒頭7ページを突破できずに挫折した友人が何人いたことか」
「ああ……」
「日本のミステリ好きだっていうやつに内田康夫を勧めたら「なんかジャンル違う」って言われたり」
「そいつ、新本格が好きだったんだろ」
「俺がいいって言ってたときには見向きもされなかった東野圭吾がいまや大ブレイク! 俺は初期の頃のトリッキーな圭吾が好きだったのに」
「わかったわかった、悪かった」
 ワラシは両手をあげて降参、と手のひらをひらひらさせる。
「本を選べと言ったのは失敗だった。だったらちょっと外へ出て、プレゼントでも探してこい。あ、商店街じゃなくて駅前のおしゃれな雑貨屋とかがいいぞ。女はとにかくかわいいものが好きなんだから」
 ワラシにそう言われて啓は駅前をぶらついた。かわいいものと言ったって、自分が見てかわいくても女性が見てかわいいだろうか? それにかわいいの基準ってなんだろう? 色だろうか、形だろうか? あ、値段はあまりかわいくないな。
 キラキラピカピカしている雑貨の間を通り抜ける。
(藤森さんはなにがかわいいと思うだろう? なにが好きなんだろう? 藤森のばら……名前がかわいいよな、のばら……ばら……ローズ……)
 ふと顔をあげるとポスターが目に入った。
「クリスマスプレゼントに素敵なローズを!」
 その下に白や紫、ピンクの花の鉢植えが置いてある。
 クリスマス・ローズ……? ローズ……ばら……
 啓は引き寄せられるようにその鉢植えに向かって歩いていた。


「で、うっかりクリスマス・ローズか。相手は花屋なんだぞ?」
「そうだよ! そんなのすっかり忘れていたよ! 藤森さんにあげようと思ってそればっかりで、藤森さんちが花屋だって忘却の彼方だったよ! どうしよう、ワラシ。おまえ、俺の守護神なんだろ、助けてくれ」
「オレは本屋の守り神であって、おまえの守り神じゃない」
 ワラシは下唇を突き出し、仏頂面になった。
「いいじゃないか。花屋に花を持っていっても。売る花ともらう花は別だ。そもそも花が好きで花屋をやってるんだから、絶対喜ぶさ」
「……そうかなあ……」
「行ってこい、行ってこい」
 少しだけ気持ちが回復した啓は、手にしていたビニール袋を見た。花はうなずいているように見える。
「わかった。笑われてくるよ……」
 啓はガラス戸を開け、出て行こうとしたが、振り向くとワラシの膝にぽんと紙袋を放った。
「おまえにもクリスマスプレゼントだ」


「こんにちは……」
 声をかけるとすぐにのばらが顔を出した。
「あ、本緒(もとお)さん、い、いらっしゃい」
 のばらはバタバタと駆け寄ってきた。なにを焦ったのか、床の上のホースに足をとられ、転びそうになる。
「うわっ、大丈夫ですか」
 思わず両手を伸ばしてからだを支える。
「だ、大丈夫です、すみません」
 のばらは前髪を押さえ、照れくさそうに笑った。その目が啓の手元の袋に向く。
「クリスマス・ローズ……」
「あ、こ、これ」
 啓はさっと袋を背後に隠した。だが、そんなことをしても仕方ないと思い直し、もたもたとそれを差し出した。
「すみません……藤森さんにいつもお世話になっているので……その、クリスマスだし、プ、プレゼントでもと思ってたら……うっかり……花、買ってしまって……ほんと、俺、考えなしで……」
 啓は頭を下げる。
「なんか、すごくかわいくて……なんか……藤森さん思い出して……」
 最後の言葉は口の中で消えてしまう。
「……わたしに?」
 のばらの小さな声が聞こえた。おそるおそる顔をあげると、まるで魔法の箱でも貰ったような、驚きと喜びに満ちた表情があった。
「め、迷惑じゃ……」
「そんな! 嬉しいです、ありがとうございます!」
 のばらは鉢植えを抱きしめ、激しく首を振った。
「お花貰うなんて……何年ぶりだろ。花屋やってると、お花って貰えないんです。すっごく嬉しい!」
 ぱあっと笑うのばらの顔がまぶしくて、啓は目を細め、一歩引いた。
この人はいつも本当に嬉しそうに笑うので、自分がとてもいい人間に思えてしまう。浄化されるってこんな感じなのかな。
「あ、あの、実はわたしも……本緒さんに……」
 のばらはそう言うとクリスマス・ローズを抱いたまま店の奥へ戻った。そして四角い包装されたものを持ってくる。
「わたしも本緒さんにクリスマスプレゼントをって思って」
「お、俺に?」
「それが、わたしもうっかり……」
 薄くて四角いもの。持った瞬間にわかった。これは―――
「開けていいですか?」
 のばらは恥ずかしそうにうなずく。パリパリと赤と緑の包装紙を開けると、中から思った通り絵本が出てきた。
『100万回生きたねこ』。
「本緒さんなら当然ご存じですよね。でもわたし、中学生の頃この本が大好きで、それでクリスマスプレゼント探しに行ったらこの本見つけて、本緒さんにあげたいって思っちゃって……」
「いや、あの……」
 啓は情けない告白をした。
「実はこれ、読んだことないんです。すごく泣けるって言われて、俺、けっこう涙腺緩くて避けてたんです」
「あら、じゃあ決壊させちゃうかも……ごめんなさい……やっぱりやめます」
「いえ」
 啓ものばらの真似をして、本を胸に抱いた。
「藤森さんの好きな本なら……読んでみたいです」
 そのとたん、またのばらの笑顔。ああ、もう今日なら財布の中身全部募金に出してしまいそうだ。
「メリークリスマス、ですね」
 のばらが笑って首をかしげた。
「メリークリスマス」
 啓も眼鏡の下で笑った。


「まったく、世話がやける」
 ワラシは読んでいた本を閉じた。表紙はリスベート・ツヴェルガーの描く『賢者のおくりもの』。
「その人のことを思って贈るプレゼントが悪いわけない」
 よいしょと入り口のスツールから飛び降り、絵本のコーナーにいく。今まで読んでいた『賢者のおくりもの』を差し込むと、小さな手で帯を撫でた。
その帯の真ん中、これまでは帯締めで寿結びをしていたが、今は小さな蝶々が止まっている。樹脂とビーズで作られた帯どめだ。啓がクリスマスプレゼントと置いていった紙袋に入っていた。
「うふ」
 ワラシは赤い唇で笑う。
「啓のやつめ。案外いいセンスだ」
 振り袖の両手を広げ、ワラシは店の中でくるくる回る。たもとの花が一面にひろがり、足元のぽっくりがしゃんしゃんと澄んだ音をたてた。
「メリークリスマス!」
 書棚の本たちに声をかけ、ワラシは店の中で笑い続けた。

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