
リモートワークをまかせられない人間に、何をまかせられるというのだろう?(『リモートワークの達人』より)
20年以上にわたりフルリモートで業績を上げ続けてきた、世界的なソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」。その経営者コンビが、リモートワークの”本質”をずばり言います。
上司が見張っていないと仕事をさぼる?
多くの会社がリモートワークに二の足を踏むのは、社員を信頼していないからだ。
経営者やマネジャーはこんなふうに考える。
「自分の目が届かないところにいたら、みんな働かなくなるんじゃないか? つねに会社にいて見張っていないと、みんなさぼって、1日中ゲームをしたり適当なサイトを見て遊びだすに決まってる!」
そんなあなたに、見たくない現実を教えよう。
ゲームやネットサーフィンがやりたいと思えば、会社にいても十分にできる。実際、多くの人が会社でゲームやネットサーフィンをしているという調査結果はたくさんある。
たとえば大手百貨店のJCペニーでは、4800人の従業員を抱える本社のインターネット接続状況を調査した結果、トラフィックのおよそ30%がYouTubeの視聴に使われていることがわかった。
会社に来ているからといって、つねに仕事をしているという保証はどこにもないのだ。
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人は、周囲の期待にあわせて動く生き物だ。
「部下は怠け者だ」という前提でマネジメントをしていると、部下は本当に怠け者になる。逆に、放っておいても成果を上げられる一人前の大人として扱えば、部下は期待に応えようとしてすばらしい働きを見せてくれる。
ITコレクティブ社のクリス・ホフマンは、次のように説明する。
「部下が信用できないなら、それは人材採用が正しくできていない証拠です。成果のだせない社員や、自分の作業スケジュールを管理できない社員は、会社に必要ありません。それだけの話です。我々はスキルの高いプロフェッショナルだけを採用します。自分のスケジュールを管理し、組織に貢献できる人間だけが生き残ります。わざわざ会社で子守りをする余裕はありませんから」
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部下のことをつねに見張っていないと不安なら、それはマネジメントができていない証拠だといっていい。マネジャーではなく、ただの子守り。リモートワーク以前の問題だ。
でも、そこを勘違いしている人は意外と多い。たとえば生体認証のアキュレイト・バイオメトリクス社では、インターガードという監視ソフトを使って社員のコンピュータ画面を逐一見張っている。
残念なことに、こうした傾向は徐々に広がっているようだ。インターガードの導入企業は1万社に達するといわれている。また有名調査会社ガートナーによると、2015年には企業に勤める人の6割が何らかの監視システムに見張られることになるという。
監視社会の到来だ。
シンプルに考えよう。あなたが上司なら、信頼できない部下を雇わないほうがいい。
あなたが部下なら、信頼してくれない上司のもとで働かないほうがいい。
リモートワークをまかせられない人間に、何をまかせられるというのだろう。つねに見張っていないと仕事ができないダメ社員に、顧客と話をさせるなんておかしいじゃないか?
ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソンは、次のように語っている。
「他人と協力して仕事をするためには、おたがいに対する信頼が不可欠だ。信頼するということは、相手がどこにいようと関係なく、自分で仕事をやりとげてくれると信じることだ」
もっと部下のことを信頼しよう。それが無理なら、別の人間を部下にしたほうがいい。
ジェイソン・フリード&デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン『リモートワークの達人』(高橋璃子訳、本体800円+税)はハヤカワ・ノンフィクション文庫より好評発売中です。
◎著者紹介
ジェイソン・フリード(Jason Fried)
世界的に著名なソフトウェア開発会社「ベースキャンプ」(2014年に「37シグナルズ」から社名変更)の創業者・CEO。同社は1999年の創業以来20年にわたりリモートワークで業績を上げ続け、プロジェクト管理ツール「ベースキャンプ」は数百万の企業で採用されている。ハンソンとの共著に本書のほか、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなり日本でもITエンジニア大賞(ビジネス書部門)を受賞した『小さなチーム、大きな仕事』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、『NO HARD WORK!』(早川書房)、Getting Realがある。
デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(David Heinemeier Hansson)
ベースキャンプ共同経営者。オープンソースのウェブ開発フレームワーク「Ruby on Rails」の開発者。Ruby on RailsはTwitter、クックパッド、Hulu、Airbnbなど100万を超えるウェブ・アプリケーションに使用されている。
◎訳者略歴
高橋璃子(たかはし・りこ)
翻訳家。京都大学卒業後、ソフトウェア開発者として活動したのち、翻訳家として独立。訳書にウェザーオール『ウォール街の物理学者』(早川書房刊)、マキューン『エッセンシャル思考』、テイラー『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門』他多数。