東京いきもの散歩

今年の自由研究はこれで決まり!【連載】『東京いきもの散歩』(川上洋一)

大都市にも意外とたくさん棲んでいる野生の生き物のガイドブック『東京いきもの散歩』には、「自由研究」というコラムがあります。

たとえば「東京のセミを最短で完全制覇するには?」では、東京23区にいる6種類のセミを紹介。街中で簡単に聞けるアブラゼミとミンミンゼミの幼虫の見分け方や、23区では珍しいヒグラシの探し方をお伝えします。

ちなみに、著者の川上洋一さんによれば、大都市のほうが意外とセミの羽化を見るチャンスが多いのだとか。大都市では、セミの幼虫が棲める場所が少ない分、土と樹木がある公園などに集中して棲息しているそうです。日中にセミの鳴き声がして抜け殻があるポイントを見つけたら、夕方から夜に戻ってみましょう。幼虫が羽化する様子をなまで見られるかもしれません。

羽化したばかりのミンミンゼミ

「自由研究」はほかにも、チョウが訪れる庭やベランダのつくり方、ダンゴムシが落ち葉を分解する様子の観察の仕方をとりあげています。

それ以外にも、自由研究の題材がたくさんあります。なかでも、「大きな公園に行く機会がない」という人にもぴったりなのが、道路沿いに植えられた街路樹に集まる昆虫探しです。近ごろ、街路樹や緑化されたビルが増えましたね。街路樹は、「昆虫に食べられにくい」ものが選ばれるようですが、そんなことおかまいなしに食欲旺盛な昆虫が集まるのだそうです。

というわけで、今回の連載ではこちらのコラムをご紹介!

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街路樹が頼り ニューフェイスの昆虫たち

街路樹は、夜のイルミネーションのように町に彩りを添えているだけのようにも見えます。

生き物にとっては葉や枝がエサになり、梢が棲み家となるため、りっぱな生態系の一部。都市の自然として忘れてはならない存在です。

東京にある街路樹は約100万本といわれます。種類はさまざまですが、本数でのベストテンを紹介しましょう。

第1位 ハナミズキ

アメリカ原産で、花も紅葉も美しいのが人気。2004年にはこの名前の歌がヒット。

第2位 イチョウ

10年ほど前にはハナミズキに7000本以上の差をつけてトップ。

第3位 ソメイヨシノなどサクラ類

1874年に銀座通りに日本で最初の街路樹として植えられて以来、
根強い人気をキープ。

第4位 トウカエデ

馴染じみがうすいけれど、江戸時代に中国から渡来した落葉樹。秋には赤く紅葉。

第5位 スズカケノキ

プラタナスという名前でも知られる。明治中頃に渡来し、1980年代までは街路樹の代表として、1位の座を守る。

第6位以下は、ケヤキ、クスノキ、マテバシイ、ヤマモモといった日本の在来種が健闘。ヤナギは、かつて東京の街路樹のほとんどを占め、歌謡曲にまで歌われていた時代に比べると、すっかり少なくなりました。

街路樹の変化に影響を受けるのは、主に昆虫です。そもそも街路樹は、昆虫に食べられにくい性質が求められますが、それをものともせず、旺盛な食欲を見せる種類がいるのです。

ハナミズキにつくのは、ヒロへリアオイラガの幼虫。トゲには毒があり、うっかりさわると激痛が数時間も続くので恐れられています。

この虫は、1970年代までは九州から南でしか確認されていません。ところが現在では、東京まで北上しました。食樹のハナミズキが増えたのが原因との説があります。

幼虫がマテバシイの葉を食べる、チョウのムラサキツバメも分布を拡大中。こちらも西日本にだけいたものが、2000年ごろから急に東京でも見つかり始めました。関西で育てられた植木のマテバシイについていた卵や幼虫が、そのまま関東に運ばれてすみついたようです。

海外からの移入種も見られます。夏の終わりの夕方に、プラタナスやサクラの梢で「リーリー」と大きな声で鳴くのは、体長3~4㎝ほどのコオロギの仲間・アオマツムシ。明治末期に中国大陸南部からもちこまれました。街路樹には競争相手の昆虫がいなかったので、戦前にはすでに東京にすみついています。

しかし太平洋戦争の際のアメリカ軍による空襲で東京は焼け野原に。街路樹も半数以上が焼けました。さらに戦後には、やはり移入種であるアメリカシロヒトリの幼虫が大発生。街路樹に大量の農薬がまかれたため、アオマツムシまでほとんどいなくなりました。

ところが1970年ごろになると、東京西部の青梅市付近にわずかに生き残っていたアオマツムシが、街路樹づたいにふたたび都市へ進出します。その後わずか10年ほどで都心へカムバック。

最近では移入種による被害がよく取り上げられています。しかしアオマツムシの場合は、自然の豊かな環境では生息できず、日本の昆虫への甚大な影響は見つかっていません。

「風情がない」ときらう人もいるものの、すぐに駆除をする必要もないようです。単純に「移入種=悪」と決めつけることも、都市の自然を見る目を曇らせてしまうでしょう。

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ほかにも、フェンスにからんだヤブカラシの花などにはアオスジアゲハが飛ぶそうです。幼虫はクスノキなどの葉が好物です。

タブノキが好きなホシベニカミキリも増殖中だとか。

サクラにはモンクロシャチホコ、オビカレハ、イラガなども集まってきます! この夏は『東京いきもの散歩』を片手に街中で観察ツアーをしてみてはいかがでしょうか。

(写真:佐久間聡・原島真二・川上洋一)

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●川上洋一(かわかみ・よういち)
1955年、東京都新宿生まれ。生物研究者。1970年代から環境教育に携わる。自然のしくみや豊かさを紹介する執筆活動のかたわら、講演や観察会、地上波のバラエティ番組などで活躍。里山にすむ生物の調査研究や保全活動にも取り組む。日本鱗翅学会会員・トウキョウサンショウウオ研究会会員。著書に『世界珍虫図鑑』、『東京 消える生き物 増える生き物』など多数。

川上洋一『東京いきもの散歩——江戸から受け継ぐ自然を探しに』は早川書房より好評発売中です。

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