常勝キャプテンの法則

史上最高のスポーツチームはどこか? そのチームを率いたリーダーの凄技とは?『常勝キャプテンの法則』訳者あとがき

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訳者あとがき
近藤隆文 

史上最高のチームとはどこなのか?

そんな酒場でのスポーツ談義にうってつけのテーマに、著者サム・ウォーカーは真っ向から取り組んだ。試合結果や各種成績、高度なレーティングシステムなどのデータをもとに客観的な基準を設定し、1880年代以降の37種目1200チームを調べあげていく。その結果、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、野球、バスケットボール、ホッケー、バレーボール、ハンドボールなどの競技から、歴代チームの最上層を構成する16の怪物(フリーク)チームが選び出された。

前代未聞の挑戦をやり遂げたその情熱には恐れ入る。だが、著者の探究心はそこにとどまらない。

歴史的偉業を達成したチームの秘訣とは何だったのか?

2004年、〝ばか軍団(イディオッツ)〟と呼ばれたボストン・レッドソックスがまさかのワールドシリーズ制覇を遂げたことをきっかけに、著者は勝者の秘密、成功するチームづくりの、ひいては輝かしいスポーツ王朝(ダイナスティ)を築く秘訣を突き止めたいと考えるようになった。そこで16チームの共通点を探っていくと、ある結論が浮かびあがってきた。長期的な成功の鍵を握っていたのはひとりの選手、すなわちキャプテンだった、というものだ。

いや、そんなの当たり前じゃないかと思う向きもあるかもしれない。かつてのフランツ・ベッケンバウアーや現在のトム・ブレイディがいなかったら、サッカーの西ドイツ代表やバイエルン・ミュンヘン、あるいはニューイングランド・ペイトリオッツの栄光はなかったのではないかと。

だが、ことはそう単純ではない。著者も本当にキャプテンが成功の鍵なのか疑念をいだき、ほかに理由があったのではないかと検証を重ねた。ところが、史上最高クラスの選手の存在や資金力、人材、戦術、マネジメント、監督など、考えられるほかの要因はどれも全16チームにはあてはまらなかった。

しかも、その16チームの主将たちに右のふたりは含まれていない。名づけて〝キャプテン・クラス〟に選ばれたのは、従来の理想的なキャプテン像にそぐわない意外なリーダーたちだった。そんな破格のキャプテンたちがどうしてチームを成功へと導くことになるのか。著者は彼らに共通する7つの特性を抽出する。

  1 試合中の並はずれた粘り強さと集中力
  2 ルールの限界に挑む攻撃的なプレー
  3 裏方の報われない仕事に進んで取り組む姿勢
  4 控えめで実践的かつ民主的なコミュニケーション方法
  5 言葉ではなく熱意を見せて他者を動かす
  6 確固たる信念と孤立する勇気
  7 完璧な感情のコントロール

彼らは突出したアスリートではなく、雄弁家でもなければスポーツマンシップの鑑でもない。体を張って、反則すれすれのプレーをする。〝水運び人〟の汚れ仕事もいとわない。華やかなカリスマではなく、スポットライトを嫌う。スーパースターで人格者のデレク・ジーター(ニューヨーク・ヤンキース)も、この狭き門に入れなかった。

20か国のアスリートや監督、ゼネラルマネジャー、経営幹部、その他チームづくりに長けた人々に取材し、心理学者キャロル・ドゥエックのチャレンジに対する思考様式(マインドセット)や神経学者マルコ・イアコボーニの著書で紹介されたミラーニューロンなど、科学の知見を参照しながら、著者は〝キャプテン・クラス〟の7つの法則をひとつひとつ確かめていく。その際ふんだんに盛り込まれるのが、往年のヨギ・ベラ(ニューヨーク・ヤンキース)やビル・ラッセル(ボストン・セルティックス)から、記憶に新しいカルレス・プジョル(FCバルセロナ)やフィリップ・ラーム(ドイツ代表、バイエルン・ミュンヘン)、ティム・ダンカン(サンアントニオ・スパーズ)にいたるキャプテンたちの印象深いエピソードだ。

なかでも、プジョルと宿敵レアル・マドリードに移籍した元チームメイト、ルイス・フィーゴの対決、激戦となったバレーボール女子キューバ代表とブラジル代表のアトランタ・オリンピック準決勝、バック・シェルフォード(オールブラックス)が大けがを負った〝ナントの戦い〟、激しやすかったモーリス・リシャール(モントリオール・カナディアンズ)が感情をコントロールできるようになった経緯などは、臨場感あふれる語り口もあって忘れがたい。カーラ・オーヴァーベック(サッカー女子アメリカ代表)のひたむきさが胸を打つ一方、マイケル・ジョーダン(シカゴ・ブルズ)とロイ・キーン(マンチェスター・ユナイテッド)の〝偽の偶像〟を遠慮なく暴いてみせるのが痛快だ。

日本のチームとしては、V9を達成した読売ジャイアンツと1960年代に世界を席巻したバレーボール全日本〝東洋の魔女〟が惜しくも最上層の〈ティア1〉入りを逃したが、この2チームも含めた〝ファイナリスト〟一覧を収めた巻末の付録も見逃せない。

と、楽しみながら読み進めていくうちに、読者はいつしか新しいリーダーシップのあり方があぶり出されていることに気づくだろう。その展開はスリリングで、抗いがたい力がある。
 近年、軽視されがちなキャプテンの重要性を新たな角度から照らし出し、スーパースターや有名監督に資金をつぎ込む現代スポーツ界に疑問を投げかける本書『常勝キャプテンの法則——スポーツに学ぶ最強のリーダー』には、サッカー女子アメリカ代表の現キャプテン、カーリー・ロイドも「すごい本。わたしもここで描かれる型破りなリーダー像に通じるところがたくさんある」と賛辞を贈っている。シカゴ・カブスのセオ・エプスタイン副社長は、「史上最高のチームの秘訣をめぐって説得力のある語りが披露される。リーダーシップや常勝チームを結束させる接着剤(グルー)について長年の持論を再検証させずにおかない」と舌を巻いた。さらに、ゼネラル・エレクトリックの元CEO、ジェフリー・イメルトから「データやシステムズアプローチを駆使して持続的な成功を育むリーダーについて独創的かつ型破りな結論を導いている。ビジネスやリーダーシップの本は陳腐に陥りがちだ。これは新鮮だった」と評されるなど、各方面で好評を博している。

モントクレア州立大学のスポーツ心理学者、ロバート・ギルバート博士の言葉を借りれば、本書は「あらゆるレベルのあらゆるコーチにとって必読書」であり、スポーツファンやスポーツチームの関係者はもちろん、ビジネスや政治、科学、アートなど、さまざまな分野でチームに関わる人たち、そしてリーダーシップや人材開発に関心がある人にとっても、数多くのヒントが見つかる一冊だと思う。

著者サム・ウォーカーはミシガン大学卒業後、《ウォール・ストリート・ジャーナル》紙で長年スポーツ欄を担当し、現在は同紙の一面の特集記事や調査報道プロジェクトを統括するエンタープライズ部門の副編集長を務める。著書に、米国の強者が集うファンタジーベースボールへの挑戦の記録、Fantasyland(Viking Adult, 2006)がある(同リーグで2回優勝したとのこと)。生涯にわたるスポーツ観戦、20年の記者生活、そして10年におよぶ綿密なリサーチの集大成となった本書は、《ニューヨーク・タイムズ》紙、アマゾン、SI. com、CNBC、《ストラテジー+ビジネス》誌、《グローブ・アンド・メール》紙など多彩な媒体で2017年ベストビジネスブックの一冊に挙げられた。著者サイトはhttp://bysamwalker.com/

ちなみに、米ソーシャルニュースサイト、reddit での本人の書き込みによれば、〈ティア1〉のなかでは、フェレンツ・プシュカシュのいたサッカーのハンガリー代表、ミレヤ・ルイスのいたバレーボール女子キューバ代表、ビル・ラッセルのいたボストン・セルティックス、プジョルのいたバルセロナが、ひいきチームであるらしい。

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常勝キャプテンの法則——スポーツに学ぶ最強のリーダー
著:サム・ウォーカー
訳:近藤隆文
2018年3月20日発売

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