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【『機龍警察 白骨街道』刊行記念】月村了衛オンライントークショー採録冒頭(インタヴュー&文 青柳美帆子)

機龍警察 白骨街道』の刊行を記念して、八重洲ブックセンター本店で行われた、サイン本購入者限定のオンライントークショー(2021年9月7日から10月31日まで公開)の模様を一部抜粋して、冒頭部分を採録します。買うことができずに、悔しい思いをされた方も多かったのではないでしょうか。
※限定コンテンツということで、ネタバレありです。『機龍警察 白骨街道』を未読の方はご注意ください。
(編集部)

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※八重洲ブックセンター本店にて。月村氏(右)と青柳氏(左)。
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実現した海外出張篇

――『機龍警察 白骨街道』の刊行を記念してのトークショー。ネタバレ解禁でいろいろと伺っていきます。まずは本作が生まれるまでの経緯を教えていただけますか。

月村 『自爆条項』の頃から、早川書房の編集部長(当時)である塩澤さんから「海外出張篇をやってほしい」という要望をもらっていました。塩澤さんも私も、八〇年代の海外冒険小説を読みふけって育ってきた世代なものですから、『自爆条項』を読んで「次は現地だろう」と思うのは理解できます。私も、そういうエピソードが入ってくればシリーズに幅が出るし、なんら異論のないところではあったんですが……機龍警察の世界観を固めていく過程で、「特捜部が突入要員を海外に出すことはありえないだろう」と気づき、一度は保留することとなりました。

――龍骨(キール)が埋め込まれている特捜部突入班は、龍機兵の機密そのものですものね。海外に出して奪われるようなことがあってはならない。

月村 それがいちばんですね。加えて、日本の警察官が海外に出向く、しかもそこで武力行使をするというパターンが考えづらかったのです。いわゆる「外交公嚢」、外務省や大使館関係者が税関を通さずに持ち込みや持ち出しを行えるルートを拡大解釈して龍機兵の持ち出しをなんとかアリにできないか……とも当初は考えてみましたが、そもそも姿たちを国外に出すわけにはいかないので無理であろうと保留にしていました。しかし、年月が経つうちに――幸か不幸か――アイデアが浮かんできたのです。そこで『狼眼殺手』の次にやりますとお伝えしました。

――とうとう「海外出張篇」が実現したと。舞台がミャンマーになったのはなぜでしょうか。

月村 思いついたアイデアは「指名手配犯の引き渡し」でした。それをアリにする舞台や背景はいったいなんだろうか……と逆算的に今回のプロットを引き出していきました。その時点で、舞台の候補は南米かミャンマーのいずれか。ちょうどロヒンギャ難民問題が世界的に知られ始めた頃で、自分としてもミャンマーに興味を惹かれていたので、ミャンマーを採用しました。

――本作の読者、特に《ミステリマガジン》での連載を追いかけていた読者が驚いたのは、まさに連載中だった二〇二一年二月にミャンマーでクーデターが発生し、それが最終回の展開に反映されたことだと思います。予定していたプロットや展開に変更はあったのでしょうか?

月村 『白骨街道』の進行は締切よりも先行していましたので、かなり書き進めた段階でミャンマー軍による政変が発生し、驚くとともに「どうしようか」と悩みました。単行本化の際に現状を踏まえた設定を付け加えて最初から書き直すことも頭によぎりましたが……それは無理だろうと。クーデターが前提になってしまうと、その状況下で犯罪人を引き取りに行くことはありえなくなってしまいます。考えているうちに、当初の構想のまま変えずともつながるのではないかと気がつきました。

――本作のラストはもともと計算していたかのように、現実の――二〇二一年のミャンマーとつながるような形で幕を下ろします。

月村 政治状況を分析した結果……

※※この続きも含めた記事の全文は、11月25日発売のミステリマガジン2022年1月号をご参照ください。