【12/4刊行】海外で多くの賞を受賞したYAファンタジー『ネバ―ムーア モリガン・クロウの挑戦』訳者がその魅力を語る「あとがき」を全文公開!
翻訳児童書ファンタジー『ネバ―ムーア モリガン・クロウの挑戦』12/4刊行!
11歳になる少女が主人公のファンタジーです。生まれた世界で不幸な目に遭っている少女が、魔法都市ネバームーアへ行き、試練を乗り越え居場所を見つけ出すまでの物語。
不幸な中でも勝ち気な少女が頑張る、すべての世代が楽しく読める物語です。2020年、第2巻の翻訳刊行も決定!
刊行を記念し、翻訳者の田辺千幸氏が本書の読みどころと魅力を語る「訳者あとがき」を全文公開します!
【評価】
20世紀フォックスが映画化権を取得。海外版権は16カ国に売れている。ニューヨーク・タイムズベストセラー/ウォーターストーン児童書賞ヤングフィクション部門受賞(英国)/2018年オーストラリアインディーブックアワード児童書部門受賞/Amazonベストチルドレンブックオブザイヤー/TIME誌トップYA&児童書部門ピックアップ/シカゴトリビューンベストチルドレンズブックオブザイヤー等、これまでに17の児童書アワード、ピックアップに選ばれている。
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イラスト:まめふく
訳者あとがき
田辺千幸
『ネバームーア モリガン・クロウの挑戦』をお届けできることをうれしく思います。
モリガンは、呪われた子供のひとりでした。その世界では、〈闇宵時〉(やみよいどき)と呼ばれる最悪の運勢の日に生まれた子供は、不運を周辺にまき散らすのだと考えられていました。突然の雹(ひょう)で建物に被害が出たのは、モリガンがこの町はお天気に恵まれていると言ったから。庭師の老人が心臓発作で亡くなったのは、一年前にモリガンが彼に花壇がきれいねと言ったせい。本当にそれがモリガンのせいなのかどうかはだれにもわかりません。なかにはどう考えても、モリガンに責任をなすりつけているとしか考えられないようなこともあったのですが、モリガンにはどうすることもできませんでした。
モリガンが呪われているのはそれだけではありません。呪われた子供たちは、次の〈闇宵時〉の夜に死ぬ運命でした。それまであと一年あるはずだったのに、どういうわけかその日が突然やってきます。モリガンは自分の運命はわかっていたし、覚悟もできていたはずですが、それでもわずか一一歳で死にたい人などいません。なにより辛かったのが、家族のだれもモリガンが死ぬのを悲しんでくれていないことでした。モリガンの父親は大臣で、次の選挙のことで頭がいっぱいでした。不運を振りまく娘を持ちながら、人々の支持を失わずにいるのは大変なことです。それでもモリガンは父親が自分を大切に思ってくれていると信じていたのですが、運命のときを目前にして、父のなかでは自分はとっくに死んでいたことを知ります。いっしょにテーブルを囲む最後の食事の場だというのに、義理の母親も祖母も温かい言葉をかけてくれることはありませんでした。
そこに現われたのが、ジュピターでした。彼はネバームーアに行こうとモリガンを誘います。ネバームーア? 聞いたこともない場所です。けれど迷っている暇はありません。恐ろしい〈煙と影のハンター〉がすぐそこまで迫ってきていました。追いつかれれば、殺されてしまいます。そしてモリガンはジュピターと共にネバームーアへと向かうのですが、そこはこれまで想像もしたことのないような素晴らしいところでした。モリガンはすぐにネバームーアを大好きになりますが、彼女がここにいるのは違法でした。ジュピターがこっそりとモリガンを密入国させていたのです。このままネバームーアにとどまるためには、〈輝かしき結社〉と呼ばれる組織に入らなけれなりません。そこの一員になれば、警察の手が届かなくなるからです。
けれどそのためには、四つの厳しい試験を突破する必要がありました。もし試験に落ちてネバームーアを追い出されれば、すぐに〈煙けむりと影のハンター〉が襲ってくるでしょう。助かるためには、なんとしても試験に合格しなくてはならないのです。
作者のジェシカ・タウンゼントはオーストラリアの作家で、本書がデビュー作になります。発表後、瞬く間に評判になり、オーストラリアの書籍産業賞の年間最優秀賞をはじめとしていくつもの賞を受賞しました。すでに世界三〇カ国以上で版権が取得されていますし、映画化の話もあるようです。各国の雑誌や新聞の書評では、〈ハリー・ポッター〉シリーズと比較しているものが少なくありませんが、確かに一一歳の誕生日に自分が何者かを知らされて、これまでとはまったく違う世界に連れていかれるという本書の設定は、〈ハリー・ポッター〉とよく似ています。けれど、まったく二番煎じという印象を受けないのは、ネバームーアという確たる世界ができあがっているからでしょう。ここは本当に魅力的な世界です。不思議に満ちていて、読みながらもっと隅々まで探検したくなります。どんな不思議があるのかはここでは触れずにおきますが、次作ではおそらくもっとよくわかるはず。ネバームーアの魅力はまだまだこれからです。
自分のものではない経験ができるのが読書の魅力のひとつですが、ファンタジーではそこに自由に空想の翼をはばたかせるというおまけがつきます。こんなことができたらいいな、あんなものがあったらいいな、子供のころにだれもが考えた夢を本のなかで経験することができるのです。ハリー・ポッターのようにほうきにまたがって空を飛びましょうか? それともアラジンのように魔法の絨毯のほうがいいですか? ドラゴンにまたがるのもいいかもしれません。さて、ネバームーアではどんな経験ができるでしょうか?
本書では、ネバームーアとモリガンの秘密が少しだけ明らかになりましたが、わかっていないことはまだまだたくさんありそうです。次は、どんな冒険がモリガンを待ち受けているでしょうか。次作は来年度に刊行予定です。どうぞお楽しみに。
ジェシカ・タウンゼント/田辺千幸訳
四六判並製 定価1900円+税 カバー・本文イラスト/まめふく