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劇場アニメ『僕愛』『君愛』ヒロイン・橋本愛インタビュー「並行世界の中で、自分はどう生きるべきか」

乙野四方字さん原作の劇場アニメ『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』の公開まで、あと2日! 本欄では、SFマガジン2022年12月号に掲載予定、橋本愛さんの独占インタビューを先行掲載します。

はしもと・あい
1996年1月12日生まれ。熊本県出身。映画『告白』(‘10)で重要な役柄を演じ、注目を集める。2013年、ヒロインをつとめた映画『桐島、部活やめるってよ』などでの演技が評価され、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。同年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演。近年の出演作に、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(‘21)、ドラマ『家庭教師のトラコ』など。今後はNetflix配信ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』の出演を控える。

■現実味のある並行世界の物語
──まずは、原作を読まれたときの感想を教えてください。

橋本 二つの作品が直線的につながっているのではなく、ひとつひとつが独立した物語として完結しながら、円を描くようにつながっている物語のかたちに驚きました。『僕が愛したすべての君へ』(以下『僕愛』)『君を愛したひとりの僕へ』(以下『君愛』)の順に読んだので、胸をぎゅっとつかまれるような切なさがありつつ、暦と和音、栞が、長い人生をかけて導き出した答えや生きる意味が、心にじんわり染みわたってきて、読み終えた後は大きな多幸感にあふれていました。

──・並行世界・などのSF的な設定はいかがでしたか。

橋本 もともと「もし並行世界があったら……」と妄想するのが好きで、この作品のお話をいただいたときもちょうどそういったパラレルワールドについての本を読んでいたので、なんだかご縁が重なったようなタイミングでした。この作品の凄いところは、並行世界っていわゆるファンタジーでありえない設定なのだけど、『僕愛』の方は特にすごくリアルな生活の描写が積み重なっていくので、その世界観に入り込めてしまうところですよね。読み終わって「私はいま何番目の私なんだろう」と真剣に考えてしまうくらい現実味がありました。日常の描写から、物語が進むにつれて徐々に視座が高くなっていって、最終的には宇宙の視点からたくさんの並行世界を俯瞰するような。とても幻想的な体験でした。

■和音というキャラクター
──『僕愛』の和音は当初「85番目の世界から移動してきた」という設定です。いろいろな世界の和音を演じわけるうえで意識されたポイントなどはありましたか。

橋本 一番大きな違いとしては、大切な人を亡くしてしまった和音とそうではない和音という分岐点があります。本篇を確認したとき、自分ではまったく意識せず声色が変わっていたことに気づいて、それだけ遠く離れた世界なんだと感じました。自分自身にこの先起こりうる悲しみや痛みはある程度想像することができるけど、違う人生を歩んできた自分を──子どもを失った和音を、失っていない和音の視点から──見たときの心境を思うと胸が締め付けられるような複雑な気持ちになります。暦は両親の離婚や、祖父やユノの死を経験していて、若い頃からずっと「喪失」が身近にあった人なんじゃないかと思うんです。そんな暦に対して、和音は力強い人でありたかったので、役作りでは壮絶な過去みたいなものをとってつけずに、ありふれた幸せにこれまでたくさん恵まれてきたからこそ、他人にも多くのものを与えられる人物なんだと解釈して演じました。

──暦と和音のやりとりには、決して似た者同士ではない二人だからこそ培われてきた信頼関係の重みを感じました。

橋本 そういう意味では栞と暦は同志というか、同じ痛みや悲しみを共有しているからこその、二人の間に誰も入っていけないような強固な絆があるんでしょうね。でも和音と暦はそうじゃない。同じ部分でつながっているのではなくて、お互いが持っていないものを持っているからこそ、支え合おうとするパートナーシップなのかなと思いました。特に『僕愛』に関しては暦を引っ張っていく女性の力強さを意識して演じていた気がします。

──それぞれのヒロインと暦の関係性の違いにも注目ですね。

橋本 そうですね。今ふと思い出したんですが、和音は高校生のころから暦に「私は私だから」と言っているんですよ。この並行世界の中で、自分はどう生きるべきかという態度があらかじめ備わっている気がします。暦は長い時間悩んでようやく「可能性ごと和音を愛する」という答えを見つけますが、和音はもう最初から揺るぎない自分の信念を持っている。名前をどう呼ぶかという話の流れで出てくるさりげないセリフなんですが、和音が生まれながらに持っている強さを表している気がしてとても好きです。

──和音の人間としての強さというか、一本通った芯のようなものはそのあたりからにじみ出ているんでしょうね。

橋本 そうだと思います。同じ痛みをもっていなくても寄り添える力というか、栞と暦とはまた違う信頼関係を映画でもお見せできていたら嬉しいですね。『君愛』の世界の和音も、きっと暦に対して恋愛感情はあったんじゃないかと思うんですが、好きな人が自分以外の人を追いかけている姿を近くで見続けるって、きっと逃げ出したくなるくらい辛いことなんじゃないかと思います。それでも暦に寄り添うことができる信念の強さや愛情深さは、和音という役を演じるうえでとても重要な原動力だったのかもしれません。
(二〇二二年八月十七日/於・都内某所)

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