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アルスラーン戦記、魔術士オーフェン、指輪物語、三国志――《隷王戦記》が生まれるまで 森山光太郎『隷王戦記1』あとがき公開

 発売からおよそひと月。発売直後の勢い衰えず、連日熱量のこもった感想をいただいている森山光太郎『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』
 令和の世に現れた新たなるファンタジー戦記はどのように生まれたのか?
 森山光太郎という作家は、どのようにしてこの物語を著したのか?
 余すことなく語ったあとがきを公開します。

隷王戦記1_帯

森山光太郎『隷王戦記1 フルースィーヤの血盟』
ハヤカワ文庫JA 本体価格880円+税
カバーイラスト:風間雷太
カバーデザイン:早川書房デザイン室
発売日:2021年3月17日
(電子版同時配信)
※書影はamazonへリンクしています※

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※編注※ 以下、『隷王戦記1』の内容に一部触れている箇所があります。

■あとがき

 まずは本書を手に取ってくださった皆様、また、本書の出版にあたってご尽力くださった関係者の皆様、本当にありがとうございます。
『隷王戦記』と銘うった三巻構成の第一巻、お楽しみいただけましたら幸いです。

 世界史好きの方は、「主人公の造形は絶対にあの人だろう」「エルジャムカって、あの人じゃん」などと重ねていただけたのではないでしょうか? そうであれば嬉しいなあ、と思います。高校の頃から世界史が好きで、特に中東を書きたくてエジプトにまで行くぐらい、世界を舞台にした小説を書きたいと思っていた私にとって、本書は夢の一部が叶ったようなものです。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』北方謙三氏『三国志』『水滸伝』山岡荘八氏『織田信長』。挙げた小説でも分かるように、私は群像劇、戦記物の虜(とりこ)です。年齢も違えば性別も違う、立場も違う。様々なバックボーンを持った人物たちが、同じ状況を目の前にして、いかなる答えを導き出すのか。そこに生まれる愛憎に惹かれてきました。

 小説を書くならば、群像劇を書きたい。戦記物が好きだ。必然、大学の頃に初めて書いた小説も戦記物でした。土方歳三が函館五稜郭で生き残って、大陸で大立ち回り。李鴻章袁世凱まで出てくる荒唐無稽な話なのですが、授業にも出ず興奮しながら書いていたのを覚えています。いまだ、戦記物を書く時は、その時の興奮、血の滾(たぎ)りを覚えながら夢中になって書いています。

 同時に、魔術や神話が出てくる物語も大好物です。
 戦記物ではないのですが、秋田禎信氏〈魔術士オーフェン〉シリーズは、私の聖書(バイブル)でもあります。地人種族の兄弟が最高です。あの魔術の設定も奇跡だと思います。
 戦記物と魔術を融合させた話は、いつか書きたいなと思っていました。
 しかし、悲劇から始まる『隷王戦記』に、あれほど軽妙なタッチは似合わない(し、私の技量ではまだ書けない)。どんなテイストで書くかを考えた時に浮かんだのは、J・R・R・トールキンでした。
 青春時代に衝撃を受けた『ホビットの冒険』『指輪物語』という小説、そして「ロード・オブ・ザ・リング」という映画が、世界を一から作ってみたいという夢を私に抱かせたことを思い出したのです。そして書き始めて、作業は恐ろしいほど難航しました。

 世界を作るとは、そもそも人とは何か、という問いかけです。書きながら何度も悩みました。悩みまくって、初めにこの企画のお話を担当編集の小野寺さんとしてから、ずいぶんと時間が経ってしまいました。
“己を赦すことで、絶望は消える。人を赦すことで、希望は生まれる”
 この言葉を登場人物に言わせるまでに、何度も何度も打ち合わせを重ねました。根気強く付き合ってくださり、本当に感謝しかありません。と同時に、トールキンの偉大さ、彼の見ていた景色を見るためには、まだまだ精進しないといけないことを実感しました。

 本書を書くことになったきっかけと、次巻の展望についても少し。
 最初に小野寺さんから連絡を受けたのは、二〇一九年の十月八日。私の誕生日の翌日でした。なにやら微妙な歳で、年齢を重ねることに特にうれしいとも思わなくなります。誕生日が過ぎ、翌日もなんら変わらない一日が始まると思っていたところへ連絡があり、二十八歳の年は期せずしてワクワクとともに始まりました。
 初めての打ち合わせで言われた一言。

「好きに書いてください」

 この言葉に、しびれました。突き付けられた挑戦とも思える言葉を、勝手ながら「一緒に良いものを作ろうぜ!」と脳内変換をしました。

 二巻では、さらに規模を大きくした戦乱が待ち受けています。
 カイエン・フルースィーヤアルディエル・オルグゥ。覇者(ハーン)に挫かれた二人の青年のうち、カイエンは自らを赦し、傍にある者たちを護るために立ち上がることを覚悟しました。カイエンに並び立つ才能を持つアルディエルは、いかなる決断をするのか。
 さらには、七人の〈守護者〉と三人の〈背教者〉。人智を超える力を人間界に与えた善なるもの(シュタマーユ)悪なるもの(アラマーユ)が望むものは何なのか。
 東方世界(オリエント)、世界の中央(セントロ)、西方世界(オクシデント)。三つの世界を揺るがす動乱を、お楽しみください。

――森山光太郎

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隷王戦記1

■あらすじ

「降るか、滅びるか」――東方世界(オリエント)を血で染めた覇者(ハーン)エルジャムカは草原の民三十万余へ選択を迫った。次期族長アルディエルは民を護るため降り、剣士カイエンは想い人の神子フランを救うため抗うも敗れ去る。流れ着いた世界の中央(セントロ)、砂漠の都バアルベクで軍人奴隷となったカイエンはやがて、神授の力を行使する英雄たちと、彼らを擁する強大な諸国間の戦乱に身を投じていく……。壮大なる大河ファンタジー戦記、全3巻開幕

■著者紹介

森山光太郎(もりやま・こうたろう)
2018年、第10回朝日時代小説大賞史上最年少の27歳で受賞し、翌年『火神子 天孫に抗いし者』でデビュー。他の著書に『漆黒の狼と白亜の姫騎士 英雄讃歌1』『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』などがある。

★★★試し読み絶賛公開中!★★★

(担当編集:小野寺真央