食わず嫌いはもったいない。手軽に読めるポケミス入門
正直に言います。入社前、熱心なミステリ読みではなかった私にとって、ポケミスのハードルは高かった!!
1953年創刊のミステリ叢書〈ハヤカワ・ポケット・ミステリ〉。毎月1冊刊行、ミステリファンの方々には言うまでもなくおなじみのシリーズです。
書店の棚にずらっとささった威圧感、ビニールのカバー、目に鮮やかな黄色の小口。お値段も高いし、通好みなたずまいが「ミステリファン御用達」といった感じで、どうも手を伸ばすのをためらっていました。
で、入社して、ポケミス、めっちゃ面白いじゃん、と知ったのです。本格的な探偵ものからしんどいサイコサスペンス、軽妙なユーモア・ミステリ、読みやすい短篇集まで幅広いラインナップの最新ミステリが網羅されていて、気軽に手にとれるコンパクトなボリュームの小説もいっぱい。読まなきゃもったいない!
というわけで、今回は「ポケミスを読んでみたいけど、ちょっと気後れしちゃうな…」という方のために、比較的最新の作品の中から、300ページ以下、本体価格1,900円以下の作品から、入門におすすめの作品を独断と偏見でご紹介します。まずは1冊手に取ってみましょう! ポケミスをポケットに入れて、ポケットの本懐を遂げさせてあげたい方にもおすすめです。
○『ザ・ドロップ』
舞台は雪降るボストン。場末のバーテンダーがゴミ箱に捨てられていた仔犬を拾い、強盗事件に巻き込まれ、人生がたいへんに……というストーリーが、185ページで繰り広げられます。タイトで緊張感あふれる物語のあちこちにちりばめられる、仔犬のロッコちゃんの描写がとてもかわいい。
デニス・ルヘイン/加賀山卓朗訳
『ザ・ドロップ』(ハヤカワ・ミステリ1893)
本体価格1,300円+税 192ページ
○『白い悪魔』
アメリカから逃げ、ローマで3人目の夫と暮らすヴィッキー。上流階級に出入りし、政治家と不倫をする若く美しい彼女の周りで、不審な死が立て続けに起きる…。官能と背徳、野心、そして死の匂いに彩られたノワール。
ドメニック・スタンズベリー/真崎義弘訳
『白い悪魔』(ハヤカワ・ミステリ1952)
本体価格1,900円+税 240ページ
○『ミステリアス・ショーケース』
『二流小説家』のデイヴィッド・ゴードンが編んだ、ミステリ短篇アンソロジー。登場する作家は、ピゾラット(『逃亡のガルヴェストン』)、ベニオフ(『卵をめぐる祖父の戦争』)、ハミルトン(『解錠師』)、クック(『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』)などポケミスの人気作家ばかり。まさに、ポケミス入門にぴったりの1冊です!
デイヴィッド・ゴードン編/早川書房編集部編
『ミステリアス・ショーケース』(ハヤカワ・ミステリ1857)
本体価格1,300円+税 256ページ
○『念入りに殺された男』
「うっかり殺人」「ていねいなころし」などパワーワードが爆誕している、ポケミス最新刊(7月1日時点)! フランスの田舎でペンションを営む主人公は、宿泊客として訪れた憧れのゴンクール賞作家に襲われ、抵抗した勢いで殺してしまいます。完璧に隠蔽することを決意した彼女は、パリへ出て、別人に成りすまして彼を「正しく」殺す方法を模索しますが……。テンポよく読めるフレンチ・ミステリ。
エルザ・マルポ/加藤かおり訳
『念入りに殺された男』(ハヤカワ・ミステリ1956)
本体価格1,700円+税 272ページ
○『真夜中の太陽』
逃げてきた男が白夜の太陽に照らされながら辿り着いたのは、ノルウェーの最果ての村。追っ手の影におびえ、住人のサーミたちに助けてもらいながら、狩猟者として身を隠すように暮らす……。世界的作家ジョー・ネスボによる中篇。世界観を同じくする『その雪と血を』は文庫化済ですが、こちらもミステリ文庫で208ページと薄く、読みやすいです。
ジョー・ネスボ/鈴木恵訳
『真夜中の太陽』(ハヤカワ・ミステリ1934)
本体価格1,700円+税 272ページ
○『拳銃使いの娘』
11歳の少女ポリーは、突如目の前に現れた父親との逃避行に否応なく連れ出される。父は獄中でギャング組織の恨みを買っていたのだ。危険な旅路のなかで彼女自身も戦うことを強いられ、やがて、銃をとる。いくら何でもそりゃないぜ、という状況で命と自由を自ら勝ち取る少女に心震えます。
ジョーダン・ハーパー/鈴木恵訳
『拳銃使いの娘』(ハヤカワ・ミステリ1939)
本体価格1,700円+税 272ページ
○『樹脂』
デンマークの僻地、外界と隔絶された屋敷で育てられる少女リウ。あるとき、偏屈な父親の秘密を見つけてしまい……ヴンダーカンマー(ドイツ語で「驚異の部屋」の意。珍品を集めた博物陳列室)のような部屋、閉ざされた世界しか知らないリウのピュアさが恐ろしく、ラストシーンのカタルシスもものすごいです。
エーネ・リール/枇谷玲子訳
『樹脂』(ハヤカワ・ミステリ1923)
本体価格1,600円 272ページ
○『パリ警視庁迷宮捜査班』
停職明けの警視正が率いることになったのは、曲者だらけの新設捜査班。万年酔っぱらい、小説家、リーク魔、スピード狂など、でこぼこチームが迷宮入り事件に立ち向かい、ミラクルな捜査を繰り広げる! メンバーがなにかと食べている料理の描写も魅力的です。2020年10月にはシリーズ第2弾の刊行が決定!
ソフィー・エナフ/山本知子、川口明百美訳
『パリ警視庁迷宮捜査班』(ハヤカワ・ミステリ1943)
本体価格1,800円 320ページ
※300ページをすこーーーーし越えてますが、担当作なのでひいきです
気になる作品はありましたか? さあ、怖がらずに、「ポケミス棚」に行ってみましょう!