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SFM特集:コロナ禍のいま④ 高山羽根子「2020年、1月の1週間、現在」

新型コロナウイルスが感染を拡大している情勢を鑑み、史上初めて、刊行を延期したSFマガジン6月号。同号に掲載予定だった、SF作家によるエッセイ特集「コロナ禍のいま」をnoteにて先行公開いたします。本日は北野勇作さん、高山羽根子さんのエッセイを公開。2名ずつ、毎日更新です。

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 台湾は今年2020年1月11日に総統選挙がある。台湾のそれは国民選挙で、しかも投票率が70%以上なので全世界から台湾人が投票のために帰ってくる。しかも今年の春節は1月25日で、今香港はえらいことなのでそのときは台湾人だけでなく中国人がおそらく大挙してホリデーに来るだろう。「ちょうど隙間を縫って行かないと台北市内がどえらいことになりますよ」と言われ、池澤さんと編集の方と一緒に台北へ取材へ行ったのが、1月14-20日の1週間だった。出発の日、人身事故で成田行の電車が大幅に遅れた。バスで早めに来ていたので「2020オリンピックブース横のソファで仕事しています」とラインを送ったものの、考えたらどのターミナルにもいくつもオリンピックブースが出ていた。案の定行き違った。
 日本で最初のcovid-19陽性患者が見つかったのは16日。日本の乃木坂46というアイドルグループが台北で大きなライブコンサートをおこなったのが19日で、(台湾の書店取材のとき、通訳さんがそのライブに行くと言っていた)取材を終えて帰国するのと、そのアイドルのうち数人の帰国が同じ時間帯になって、空港に台湾の若者がそれぞれのメンバーのタオルを持ってごった返していた。
 と、同時に空港内ではいくつかの掲示があった。今日私たちが日本に帰るのとすれ違いくらいで武漢からの便が台北に到着する。これらの症状があれば相談してください、という内容だった。
 台湾の宿で小説のゲラに朱入れをしながら見ていたテレビのニュースは、この新型肺炎の情報と、香港の話が中心だった。ちょうど私たちが帰る20日には台湾政府による「中央感染症指揮センター」(中央流行疫情指揮中心)が設置される、ということだった。11日に選挙で選ばれた人がたった9日でこんなふうに動くことになるなんて大変だなあ、なんて思いながらテレビを見ていたのを覚えている。羽田から高速バスに乗って、もっぱら香港のことや、池澤さんが10日前まで暮らしていたチリの暴動について、今回の取材を原稿にまとめる文字数だとか作業のフローについて考えていた。羽田にも新宿にもオリンピックのブースがあった。
 結局20日、その便で帰ってきた台湾人の検査で陽性反応が出て、台湾の第一号の感染者が見つかったと発表があったのは、21日の報道発表によってだった。日本の第一号から5日後のことだ。
 本の発売が遅れるかもしれない、という話が出たのが3月頭。イベントのペンディングがいくつか起こり4月の頭には校正含めた会議がオンラインになった。校正のための資料を借りようと図書館に行ったら5月まで閉館する旨の貼り紙。ファクトチェックを現地の方にお願いする。今日明日には責了。発売日は伸びたけれど、ひとまず出せる見とおしが立った。ありがたい。
 今のところは生きているので、その間は見て、書ける。このことは僥倖だと思う。

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高山羽根子(たかやま・はねこ)
1975年富山県生れ。多摩美術大学美術学部絵画学科卒。2010年、「うどん キツネつきの」で、第1回創元SF短編賞佳作となる。2016年、「太陽の側の島」で第2回林芙美子文学賞を受賞。2019年、「居た場所」で第160回芥川候補、「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」で第161回芥川賞候補。


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