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演劇を根付かせるために――ある俳優の小豆島での挑戦――

コロポックル佐藤(佐藤良洋)が率いる「芸門―GATE-」は、小豆島を中心に、演劇による地方活性化と次世代の演劇人の育成を掲げ活動してきた。

11月2日~7日まで、新宿シアターブラッツにて第5回公演『小さな島の日の出食堂』を上演する佐藤に話を聞いた。

小豆島2


◎小豆島で演劇を作る

 僕は札幌出身です。小豆島とは、何も所縁がありませんでした。香川県には友達もいなかった。そもそものきっかけは、映画監督の入江悠さんと一緒に立ち上げた野良犬弾という劇団で、2017年に『サナトリウムの春』という作品を東京の上野ストアハウスで上演しました。僕が初めて作・演出をした作品で、作中には小豆島で亡くなった尾崎放哉という俳人も出てきます。そこで、たまたま観に来てくださった小豆島の方が「これは小豆島で上演した方がいいんじゃないか」と勧めてくださいました。その時は小豆島がどこにあるかもよくわかってもいなかったのですが、よくよく調べたら小豆島は国指定の文化財の舞台小屋が二つ存在する唯一の島だということがわかって、そこで上演できたらいいなと強く思いました。そのときの打ち上げで、「夜は満点の星空で飲んで、稽古して芝居ができたら最高だね」という話をしていたのですが、そういう話は大抵実現しないんですよね。でも、僕はそれだけでは終わらせたくなかったので、小豆島での公演に向けて奔走しました。
最初の公演準備のためには、小豆島に月に2、3回、1年間ほど通いました。「明日、〇〇と飲むから来い!」などと地元の方からご連絡をいただけば飛んで行きました(笑)。ただの観光客ではなく、外から来た人間が入り込むためには島のルールにまずは従わないといけない。東京なら小屋を予約してしまえば公演ができますよね。でも、小豆島では上演する許可をとって町長に話を通していたとしても、地域の保存会や長老会など様々な場所に気を配らないといけない。「順序が違うんじゃないか? 誰々が怒っているぞ」と言われたりして、毎回スーツを着て謝りながらお酒を注いで回っていました。
 小豆島の皆さんからの反応はびっくりするくらいよかったですね。「また来てください」といまだに連絡が来たりします。地元の方が何人か参加してくださっているとはいえ、最初は集客できるか不安でした。それなのに、芸門の最初の公演『サナトリウムの春』には600人くらいのお客さんに来ていただきました。肥土山農村歌舞伎舞台で現代劇を上演するのは、350年の歴史の中でこの公演が初めての試みでした。とても素敵な小屋なのですが、雨が降ったら上演できないので、年に一度の農村歌舞伎でしか使用されていなかった。国の文化財なので上演許可をとるのにも難しいところがありましたが、地元の議員さんや市長さんなどにも観劇してもらい、応援していただいています。
 小豆島は、小豆島町と土庄町という二つの町に分かれています。何故か小豆島全体の観光マップがないんですよ(笑)。芸門の第一回公演は、土庄町で上演しました。でも僕は小豆島に演劇を根付かせないと意味がないと思ったので、第二回公演はわざわざ小豆島町でやりました。土庄町の議員を務めつつ、小豆島町町とも繋がりをもっていた議員さんと知り合って、「できる限り応援するから」と言ってくださったのが大きかったですね。その方が小豆島町と土庄町の後援のアポをとってくださったのですが、二つの町の名前が入ることでチラシにも説得力が出ました。二回目、三回目の公演からはどちらの町からもお客さんが来ました。小豆島の芝居小屋の一つは土庄町、もう一つは小豆島町にあるのですが、その芝居小屋同士も何故か交流がなくて350年以上の歴史の中でほとんど共演したことがなかったんです。お互いの歌舞伎を観に行ったことすらないという方がたくさんいたので、芸門の三回目の公演で何とか説得して共演させました。この二つの芝居小屋の看板役者が友達になって握手するシーンがあったのですが、小豆島中の人が「すげえな、これは」と観ていました(笑)。その後も交流が続いて、350年繋がりが全くなかったのに仲良くなって一緒に飲んだりしている。やった甲斐があるなと思いました。

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稽古風景


◎演劇を続けていく環境づくり

 地方から若い方たちが役者を目指して上京すると、バイト三昧の上にせっかく舞台に出てもチケットのノルマすごく大変だったりする現状があります。それに心を痛めていましたが、もし小豆島に演劇を根付かせることができたならばそれを打破できるのではないかと感じました。今回の公演『小さな島の日の出食堂』は、初舞台の方も多々入れて、ダブルキャストにしています。しかも、全員の役に見せ場があります。通常なら、エキストラからキャリアをスタートするところを、最初から役をあげてちゃんとお芝居できる場所を整備したいと常々思っていました。「芸門」という名前にはそういった願いも込められています。演劇未経験の方の演技は、逆に僕も勉強になりますね。こんな芝居もあるんだなと、すごく新鮮で面白いですし、みんな一生懸命やってくれるので観ているこちらも楽しい。未経験の方は身体が動かなかったり声が出なかったり、稽古では大変なこともありますが、それをどう演出でカバーできるかなと考えています。あとは、ベテランの方たちをうまく使いたいですね。僕は先輩たちに囲まれてずっと仕事をしていて、今ならありえないですが、いつも怒られながら自分よりも下の人がいない中で10年間続けてきた。そういった状況は何とかしないとなと思っていました。でも、逆にそういう方たちと一緒にやらないと芝居は上手くならないんだなということを身を持って学んだので、自分よりも先輩の役者と若い役者を必ず入れてコミュニケーションをとることをすごく大事にしています。
 小豆島での公演の際は、地元の方も多くキャスティングしました。最初は舞台で演技するなんて恥ずかしいという反応もあったんですけど、公演を重ねるにつれて島の皆さんが興味を持ってくださって、どんどん参加してくれた。公演をするときは一カ月間小豆島で合宿になるのですが、お魚を差し入れしてくださったりします。
 それに、東京だと下北沢の劇場にふらっと寄って演劇を観るということがないですよね。それが一番の課題だなと思っていたのですが、小豆島ならば島なので東京のように電車で簡単に別の土地に移動もできないですし、観光のついでに演劇を観ていこうという動きが生まれるのではないか。島の方たちも目が肥えてきて、またこの劇団来たんだ、あの演劇よかったよねと盛り上がっていけば素晴らしいことが起きるのではないかと思いました。

5小豆島


◎芸門第5回本公演『小さな島の日の出食堂』

『小さな島の日の出食堂』は、第二回公演として小豆島でやった作品を東京の劇場で上演します。小豆島町にある架空の食堂・日の出食堂を舞台にしたお話です。Teamクースーという劇団が上演した『メンマ』という作品を原作としています。『メンマ』は僕が今まで何百本と観た舞台の中でもベスト3に入るほど記憶に残っているいい作品です。そこで、設定を小豆島に変えて、もともとの台本の素晴らしさは残しつつ脚色しました。小豆島の海沿いにある家族経営の小さいアットホームな食堂で養子を引き取ることから始まるストーリーです。悲しい出来事も経て、その子が本当の家族になるまでを人間の交流の温かみの中で描いた物語です。日の出食堂は架空の場所として設定していますが、周りのお店や人物は実名で出しています。しかも後々に地元の方から、実際に小豆島のその場所周辺に昔は日の出食堂という名前の食堂が存在したと聞きました。
 これからも小豆島で演劇を続けていきたいなと思います。資金面で安定しないので、スポンサー探しもかねて東京からでも続けられたらと願っています。今後ももっと楽しく演劇を広めたいし、若い方の力にもなりたいですね。役者個人としては変わらず、どんな役でもやります! という気持ちです(笑)。演出家として偉そうにはしたくないし、若い方から受けた刺激を取り入れて、観に来てくれたお客様にも出演者にとっても演劇は楽しいんだって思えるような芝居作りを真剣にするのが芸門の目指すところです。舞台と映像の垣根を超えた自由な新しい演劇を作っていきたいなとも思います。観にいらしていただけたら嬉しいです。


芸門第5回本公演『小さな島の日の出食堂』
2021年11月2日~7日=新宿シアターブラッツ/原作=古屋治男(「メンマ」より)/脚本・演出=コロポックル佐藤/出演=【シングルキャスト】村田一晃、如月皐、稲葉凌一、福田優、あじの純、横尾下下、水野伽奈子、佐藤良洋 【Aキャスト】咲樹、髙橋篤弘、合田純奈、立石舞花、鈴木孝之、本橋由香 【Bキャスト】ほのら、佐松翔、川野美怜、深野舞、田中涼、竹内里紗


コロポックル佐藤
1979年生まれ、札幌出身。
役者としては佐藤良洋の本名で活動している。映画・舞台・テレビ・CM・Vシネマ等幅広く活躍。俳優の菅田俊のもとで10年以上に渡って芝居を学ぶ。
2008年には映画監督の入江悠と同期の役者である崔哲浩と劇団「野良犬弾」を旗揚げ。
2017年、自身が手掛けた「サナトリウムの春」の東京公演では1000人の動員を集め高い好評を得た。2018年には同作品を香川県小豆島に持っていき、300年の歴史を持つ肥土山農村歌舞伎にて初の現代劇を上演。
出演作には映画「22年目の告白~私が殺人犯です~」、CM「2019年スカパー!/ロッテ編」、「日本ガス」、「KDDIエボルバ」「中外製薬」各主演 など多数。



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