祝・ラファティ・ルネサンス! ラファティ・ラブ・エッセイ再録①――伴名練「幻の短篇集」
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祝・ラファティ・ルネサンス! ラファティ・ラブ・エッセイ再録①――伴名練「幻の短篇集」

待望のR・A・ラファティベスト短篇集《ラファティ・ベスト・コレクション》第一巻の『町かどの穴』が刊行されました。ラファティを愛するラファティアンなあなたも、ラファティのことよく知らないけどなんだかおもしろそう! なあなたも、どなたでも手に取りやすい短篇集になっております。
ここではSFマガジン2021年12月号に掲載されました、《ラファティ・ベスト・コレクション》刊行によせてお書きいただいたエッセイを再録します。第一弾は『なめらかな世界と、その敵』や《日本SFの臨界点》でおなじみ、伴名練さんによるエッセイです。


幻の短篇集 伴名練

《今、この腕の中で、静かに寝息を立てているのが、美亜羽なのか、それとも美亜羽なのか、自分には分からない。》──伴名練「美亜羽へ贈る拳銃」

《その空虚は、クレムのもののほうがクレムのものよりずっと大きかった。》──R・A・ラファティ「クロコダイルとアリゲーターよ、クレム」

ラファティ傑作選刊行の知らせがネットに流れ、読者が歓喜に沸いたその瞬間、日本でただ一人「しまった」と呟いたのが、他ならぬこの私だ。要は自分がやりたかったのだ。一冊分の目次は数年前に脳内で決まっていたが編集者にも打診しないままで、日本SFを掘り進めているうちに出遅れてしまった。
 悔しいので今回は、この世界で出る可能性の無くなった、伴名練編の傑作選の目次をご紹介しよう。
『R・A・ラファティ傑作選 ファニーフィンガーズ』(最後の天文学者/小石はどこから/超絶の虎/スロー・チューズデー・ナイト/クロコダイルとアリゲーターよ、クレム/マクゴニガルムシ/何台の馬車が?/千客万来/深色ガラスの物語──非公式ステンドグラス窓の歴史/忘れた偽足/恐るべき子供たち/ファニーフィンガーズ)
 熱心なラファティアンであれば、「なんなんだこの変な目次は……」と愕然とするだろう。「七日間の恐怖」「町かどの穴」「日の当たるジニー」やカミロイ人ものといったラファティアン人気の高い作品が入っていないくせに、小品「小石はどこから」や初期習作「何台の馬車が?」が入っている。日本のラファティアンに全短篇人気投票をさせたら五位以内に入る作品が一つも無いと思う。
 しかしこの奇っ怪な目次は、ラファティをラファティアンの外、なるべく広い読者に届け、あわよくば重版し次巻に繋げようという思考の末、私が辿り着いた結論なのである(未収録作を多めにして既刊所持者にも買わせるという意図もゼロではないが、あくまでそれは二の次だ)。
 日本におけるラファティ紹介のイメージは「ほら吹きおじさんの語り口、世界の裏側に潜む秘密と論理、独特な奇想」あたりだと思うが、奇想の末に主人公が迎える結末は、「ほら話」という紹介で手に取った初読者をたじろがせるほど苛烈で薄気味悪く、笑いとして描かれていながら突き放した残酷さ、怖さを感じさせる。ラファティアンたちがゼッキョーゼッキョーと楽しげに口にしているから読んでみたら、その台詞が出てくる場面があれで怯んでしまった、というラファティ初心者はきっといるだろう。
 ラファティ作品の結末の「怖さ」は、オチをつけるために生じるオマケなどでなく、異質なロジックに支配される世界において当然の帰結であって、作風の本質にも結びついている。その証拠に、いつもの語り口が封印されて暴力性が剥き出しになった『第四の館』はウルフ並にダークで、エリスン並にクールで、飛浩隆並に怖い。『厭な話』系の再録アンソロジーに、ラファティ短篇が選ばれたことが無いのが意外なほどである。
 そんな私の認識を踏まえて、目次を見ていこう。宇宙の真の姿が明かされる「最後の天文学者」や分身テーマの「クロコダイルとアリゲーターよ、クレム」はまさに奇想と残酷さが直結した作品なのだが、そこに独特の哀感がまぶされているがゆえに、「怖いほら話」以外の読み筋を広い読者に与えやすいものになっている。他の要素に比べて見過ごされがちだが、ラファティの悲しみのフレーバーは一級品である。
「スロー・チューズデー・ナイト」の加速社会という奇想は分かりやすく派手で、「千客万来」の異世界人押し寄せの光景は絵的なおかしみがあり、「小石はどこから」の小石が降るアイデアはささやかだが牧歌的で明るく、これらの作品群は、(「千客万来」は画面外で悲惨なことが起きているだろうが)誰でも「楽しい奇想作品」として気軽に読むことができるものだ。
「マクゴニガルムシ」は直接的な世界の危機が牽引力になって読みやすく、「何台の馬車が?」は奇想色は薄くとも父子の旅のノスタルジーが魅力になり、「深色ガラスの物語」はネアンデルタール時代からのステンドグラスというスケール感・浪漫で読ませる。「忘れた偽足」はラファティの信仰告白らしき救済を描いているために、心を動かされる。
「感傷的な軸からも読めるもの」か「愉快で平易な奇想」。そういう作品ばかりを敢えて選出した、この傑作選の顔が見えてきたと思う。
 こうなると典型的な「怖い」ラファティ・アンファンテリブル「超絶の虎」がかえって浮くが、実は仕掛けがあり、メインキャラのカーナディンは後半の「恐るべき子供たち」で再登場するのだ。年令的にも発表時期的にも後日譚である。「超絶の虎」で超常的な暴虐を振るった少女は、「恐るべき子供たち」では、仲間の子供たちから秘密組織を除名されるという憂き目に遭っている。そこはさらりと流される箇所だが、無敵のアンファンテリブルでさえ、同類には敵わないのだと気づくと、『蛇の卵』などにおけるアンファンテリブルの限界ややるせなさにも思いが及ぶ。
 もっとも、「恐るべき子供たち」は全然そういう話ではなく、難事件に悩む老刑事がカーナディンの言葉をヒントに真相に近づくという、今ならキャラミスで売れそうな構図の話である(ミステリとしては緩め)。ただチェスタトンを連想する感触もあり、そういえばラファティの論理の面白みにはチェスタトンの逆説のワンダーに近いものがある。
 そして鉄の能力者を描く「ファニーフィンガーズ」を、表題作にして巻末に置く意図については、この文章を読んできたラファティアンの方には、言わずともご理解頂けるだろう。「ファニーフィンガーズ」のタイトルは短篇集の原題「アイアンティアーズ」でもぴったりだが、浅倉訳の題名を弄ることは畏れ多い。私が「スラデックによるラファティパスティーシュを浅倉久志が訳した作品」という建て付けの「一蓮托掌〈R・×・ラ×ァ×ィ作〉」(浅倉訳ラファティの文章にアンダーラインを沢山引いて文体を吸収した)で再現を目指した風味はまさにこの作品のものだった。「最後の天文学者」で幕を開け序盤に「超絶の虎」があり後半に「恐るべき子供たち」があり「ファニーフィンガーズ」で閉じられる、という順序のこの短篇集で初めてラファティに触れる読者を生み出したいというのが私の願望である。ラファティにこういう出会い方をした読者は、たぶん世界中どこにもいない。
 表紙は横山えいじやいしいひさいちなどの前例に習い、同時代の人気漫画家で、「スロー・チューズデー・ナイト」っぽい回もある奇想4コマ『アキタランド・ゴシック』の器械を選ぶ。狙いは萌えよりも『人間たちの話』表紙のようなポップ路線だ。
 こうして、短篇集『ファニーフィンガーズ』はおよそ普通の傑作選ではなく、ラファティの奇想世界に広範な読者を誘って引きずり込むためのゲートウェイドラッグ的な傑作選に仕上がった。
 では、一般的な代表作を投入し、より「素のラファティ」が多くなるだろう次の傑作選をどうすべきか。
 ここからは与太話として聞いて欲しいが、残酷さを隠すのではなく、むしろ前面に押し出していけば、意外と多いその需要に対してうまくマッチングできると思う。だから傑作選の二冊目は、表題作をとらず、サンリオSF文庫にならって『変な死に方する人』という題名にする。当然、海外に紹介される時は『Strange Dyings』となる。
 主要キャラが作中秩序の犠牲となり、現実世界ではあり得ない変な死に方をして終わるラファティ短篇は平気で一冊以上ある上に、(タイトルを挙げるとネタバレになるが)代表作も多く含むし、単純にそれを集めても食傷しないくらいにはアイデアもプロットも死に方もバラエティに富んでいる。さすがに収録作全部をこのテーマの作品にはせず、一冊目の積み残しの趣きのある「みにくい海」「だれかがくれた翼のおくりもの」あたりも入れたいのだが。表紙は、死すらネタにしてキャラを突き放した笑いを描く『カガクチョップ』のカヅホである。
 目次がまだ定まっていない二冊目はともかく、一冊目には捨てきれない思い入れがあるので、数十年後に何度目かのラファティ再評価の機運が高まった時、すでに私がこの世にいなければ、ぜひ勝手に伴名練・編と銘打って短篇集『ファニーフィンガーズ』を出して欲しい。
 ……と、ここまで書いてSF研仲間に見えるよう記事を限定公開、坂永雄一さんとコメントを交わしたりした約六時間後、編集者から、「ラファティ傑作選二冊の目次が届きましたので共有します」とメールが来た。二巻目のタイトルとラインナップを見て、私が呆然としたことは言うまでもない。皆さん、そういう訳で傑作選をぜひ手に取ってみて下さい。

ラファティ・ベスト・コレクション1 町かどの穴
R・A・ラファティ/牧眞司=編/伊藤典夫・浅倉久志・他=訳
装幀:川名潤
定価1540円(税込)/ハヤカワ文庫SF
町かどにあいた大きな穴のせいでもうひとりの自分が多数発生してしまう事件の顛末を描く「町かどの穴」、惑星調査隊が直面したあらゆるものを盗む天才エイリアン“どろぼう熊”をめぐる悪夢「どろぼう熊の惑星」、考古学者たちがいつも“つづく”で終わる奇妙な絵文字が刻まれた石の謎に取り憑かれる「つぎの岩につづく」など、伝説の作家ラファティによる不思議で奇妙な物語全19篇を精選したベスト・オブ・ベスト第一弾。
【収録作品】
町かどの穴/どろぼう熊の惑星/山上の蛙/秘密の鰐について/クロコダイルとアリゲーターよ、クレム/世界の蝶番はうめく/今年の新人/いなかった男/テキサス州ソドムとゴモラ/夢/苺ヶ丘/カブリート/その町の名は?/われらかくシャルルマーニュを悩ませり/他人の目/その曲しか吹けない/完全無欠な貴橄欖石/〈偉大な日〉明ける/つぎの岩につづく

『ラファティ・ベスト・コレクション2 ファニーフィンガーズ』は12月刊行予定です。コチラもお楽しみに!

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