【1/24刊行】第10回ハヤカワSFコンテスト大賞、小川楽喜『標本作家』その驚異の設定と「受賞のことば」特別公開!
第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』を2023年1月24日に刊行いたします。前年の人間六度『スター・シェイカー』に続く大賞受賞作となる本作は、最終選考会において神林長平・小川一水・菅浩江の三氏から、その高い完成度に対する激賞を受けました。その大胆な想像力と繊細な描写力は、SFコンテスト史上最高級の美しさを誇っているといっても過言ではありません。
今回の記事では、『S-Fマガジン』2022年12月号に掲載しました小川楽喜氏の「受賞のことば」を特別公開いたします。これをきっかけに、人間の尊厳と創作の価値を切実に問う本作を、是非お手に取っていただけますと幸いです。
また、第一章「終古の人籃」の全文掲載もおこなっております。こちらも是非ご一読くださいませ。
■ストーリー
西暦80万2700年、人類滅亡後の地球。高等知的生命体「玲伎種」は人類の文化を研究するため、収容施設〈終古の人籃〉を設立。蘇生した歴史上の名だたる文豪たちに小説を執筆させていた。その代償は、不老不死の肉体を与えることと、彼らの願いを一つだけ叶えること。しかしながら、玲伎種による〈異才混淆〉の導入によって自己の作風と感性を混ぜ合わされ、数万年にわたって歪んだ共著を強いられ続けてきた作家たちは、次第にその才能を枯渇させてしまっていた。そんな現状に対して、作家と玲伎種の交渉役である〈巡稿者〉メアリ・カヴァンは、ささやかな、しかし重大な反逆を試みた——
「やめませんか? あなたひとりで書いたほうが、良いものができると思います」
■選考委員から絶賛の声!
神林長平(作家)
「自分に能力があればこういうものを書きたい」と思わせる内容だった。
小川一水(作家)
創作の価値とは何か、なぜそれをしなければならないのか。結末の美しさは他を圧していた。
菅浩江(作家)
冒頭から監視者がなぜ存在するのかの謎を提示し、小説家たちの新たな取り組みを匂わす。引っ張り方に隙がなかった。
塩澤快浩(小社編集部)
あらゆる設定と標本作家たちの個性が有機的に絡み、かつ語りに工夫を凝らしながら、壮大かつ私的なヴィジョンを紡ぎだすのには本当に感心した。
■著者プロフィール
小川楽喜(おがわ・らくよし)
1978年生まれ。大阪府在住。元グループSNE所属。既刊に『百鬼夜翔 闇に濡れる獣──シェアード・ワールド・ノベルズ』など。
受賞のことば
小川楽喜
小説が好きです。小説家という生き物が好きです。
自分がその仲間になれるかという問題はさておき、様々な小説家の生きざまを知るたびに、私は感銘を受け、彼らが感じたであろう創作の苦しみや喜びに思いを馳せます。それは実在・非実在を問いません。
そういう思いから生まれたのが『標本作家』です。しかし私は、この作品がSF小説なのだという自信を持っていません。自覚すらありません。
そこに何かの小説があるとして、それがどのジャンルに分類されるのか。きっと私は、その種の問題に無頓着なのでしょう。
世の中では、目眩がするほど細かいジャンル分けで小説を紹介しています。それは販売するためにも、大量の本を効率よく認知・記憶するためにも必要な作業ではあるのでしょう。その一方で私は、どの作品がどのカテゴリに属するかを意識することはほぼありません。魅力的な内容であれば何であれ手に取りたいと思いますし、それによって世界を広げられることを幸福に思います。だから私の書いたものも、そういったことを意識しない、雑多な要素が混濁した内容になってしまうのでしょう。
自分の書きたいように書きました。ただひたすら、書きたいことを書きました。どこかの賞に応募しようとか、どのジャンルの小説として成立させようとか、そんなことは頭の中から振り払いました。意識すれば、私の書こうとしている世界が、急速に狭まっていくように感じられたからです。
そして書き上げ、落選を繰り返しました。一次選考すら通過できずにいる日々。四度目の正直で、早川書房様からお電話をいただきました。原稿の中身はこれまでと同じです。三回目までは見過ごされてきた文章の連なりが、四回目に審査してくださった方々の目にとまったのです。
そこに何かの小説があるとして、それがどのジャンルに分類されるのか。この問題は、どこまで重要なことと言えるのでしょう。もっと自由であればいいと思うのです。もっともっと、小説という存在は自由であっていいし、小説家という生き物も、自由であってほしいと願います。『標本作家』には、実在の小説家をモデルにした人物も、そうではない仮構の人物も、数多く登場します。これからお読みになる方の中には「書きたいことを書いたというわりには、自分以外の人間のことばかり書いているじゃないか。それでいいのか」と、思う方もいらっしゃるかもしれません。その時には、私は『刑務所のリタ・ヘイワース』の次の一節を引用し、このように回答したいのです。
「なんだ、おまえは自分のことを書いてないじゃないか、と天井桟敷でだれかがいっているのが聞こえるぜ。おまえはアンディー・デュフレーンのことを書いただけだ。おまえは自分の物語の脇役でしかないってな。しかし、わかるかい、そうじゃないんだ。これはぜんぶおれのことさ、一語一語が」
……『標本作家』で書かれたことは、ぜんぶ私のことなのです、一語一語が。
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第10回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作、塩崎ツトム『ダイダロス』は2023年2月21日に刊行いたします。こちらもあわせてお楽しみいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。