ドイツ式交渉術_ヘッダー

伝え方を工夫するだけで、話し合いが劇的にスムーズになる!『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』訳者あとがき

私たちは週に40時間近くを交渉に費やしているという。交渉の技術を知っているかどうかで、成果の差は開いていくばかり…。
今日から使える即効テクニック、相手のほうが強いときの逆転戦略、相手と信頼関係を築き、互いの利益を増やす方法など、交渉の最中の話術から準備、締め方までを網羅。
ミュンヘン・ビジネススクール教授が世界中の交渉術のノウハウを独自に体系化し、ビジネスの最前線で培ってきた経験を注ぎ込んだ、ドイツで10万部を突破したベストセラー!
その読みどころを、訳者の安原実津さんにご紹介いただきます。

ドイツ式交渉術

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望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』ジャック・ナシャー/安原実津訳/早川書房/2019年9月19日発売

訳者あとがき

安原実津

「交渉なんかする機会はないから自分には交渉術は必要ない」――弁護士や企業の渉外担当として働いているのでもなければ、そう思っている人は案外多いのではないだろうか? 私もそうだった。特に私の場合、仕事中はひとりで黙々とパソコンに向かっているだけで人と話す機会は少ない。値引き交渉をしたくなるほど大きな買い物をするわけでもないからだ。

だが交渉が必要なのは、ビジネスの場や高いものを買うときだけではない。意識するしないにかかわらず、日常生活のあらゆる場面で私たちは交渉している。本書の表現を借りれば、交渉とは「利害の対立する二者あるいはそれ以上の関係者が、問題を解決するための意思決定を行うこと」である。旅行の行き先について意見が分かれて家庭内で話し合うのも、予約にまつわるトラブルが起きてホテルやレストラン側にかけあうのも、すべて〝交渉〞である。

「交渉のスキル」がビジネスで成果を上げるために欠かせないのはすでに万人の知るところだろうが、交渉力をつけると日常のさまざまなことに関してもよい結果を引き出せるようになる。そもそも交渉はコミュニケーションのひとつの形にほかならない。相手とよい関係を築き、双方が満足できる結果を引き出すためのスキルはあらゆる状況で役に立つ。ビジネスの場面だけでなく日常の光景からもいくつも具体例を挙げながら、著者はそのことを私たちにわかりやすく示してくれる。

著者が本書で取り上げている交渉術のうち、特に印象に残ったものをいくつかご紹介しておこう。例えば交渉中に、あなたが何を問題だと感じているかについて相手の感情を逆なでせずに指摘したいときには話す順序を工夫するといい、と著者はいう。まず差しさわりのない客観的な事実からはじめて(「僕がいいなと思う車にきみが反対するのはもう五回目じゃないか」)、そのあとで自分の解釈を話す。ただし、その際にはそれが自分の解釈なのだということが際立つような話し方にする(「僕が自分で車を選ぶのが気に入らないんじゃないかって気がするんだけど」)。そして、最後に質問をする(「僕の言ってること、当たってる?」)。

そうすれば、あなたの考えや思考過程を、相手の考えと思考過程に関するあなたの推測をまじえずに相手に伝えることができる。私たちは自分の考えていることを誰かに決めつけられると、つい感情的になってしまいがちだ。それなのに、話し合いをとどこおらせている原因を指摘しようとするとき、たいていの人は、「わがままを言ってるだけじゃないか」というように、自分の頭に浮かんだことをそのまま相手に向かって口に出す。しかもそれが自分の解釈にすぎないことが伝わる言い方をしないために、相手にネガティブな感情を抱かせてしまう。そういう感情がわきあがると、頭に血がのぼり理性が働かなくなって、目的を追求するよりも相手にダメージを与えることのほうが優先順位が高くなってしまう。しかし、話す順序に気を使えば、聞き手の受けとり方は大きく変わる。問題点を指摘しても相手は感情を害さないですむのである。

それから、あなたの主張を相手に理解してもらいたいときには、相手の価値観に合わせた説明をすると受け入れてもらいやすい。秘書を雇い入れてほしいと雇用主に求めるなら、有能な人材の確保を目標としている雇用主に対しては、能力ある人材を自分の専門分野に集中させるには雑務をまかせられる秘書が必要だ、と説明すれば理解は得られやすい。経費削減を目指す雇用主に対しては、給与の高い専門職の労働時間をコピー取りに割くのはもったいないと説明すれば、あなたの主張は通りやすくなる。

これらの著者の指摘を読んで、私は目からうろこが落ちる思いがした。言い方をほんのちょっと工夫するだけで、話し合いがずっとスムーズになるのだ。しかもこれらの〝交渉術〞は普段の会話でも十分活かせる。交渉術というのは、複雑な駆け引きのテクニックを指すのだと思い込んでいた私の印象はがらりと変わった。

本書には、こうした具体的なテクニックのほかにも、知っておくと交渉に有利になる情報も多く盛り込まれている。相手の出まかせを見きわめる方法や、意思決定に影響を与える認知バイアス(思考のかたより)、人間の心理現象についてなどである。本書を読むと、著者に心理学の素養があるのは容易にうかがい知れる。おまけに裁判所での実務修習経験があるという。どうやら精通しているのは交渉の分野だけではないらしい著者は、一体どういう人物なのだろうか?

著者のジャック・ナシャーは、アルメニア系の父親とアフガニスタン系の母親を持ち、1979年にドイツで生まれた。「交渉することが私の職業だ」と明言する著者は、すでに子供時代に自分に交渉の素質があるのに気づいていたそうだ。小さい頃はお菓子を手に入れるために周囲の大人と、学生時代は成績表の評価を上げてもらうために教師と交渉し、大人になると、友人たちは車を買うときには彼を同伴させたという。

大学では法学を専攻すると同時に、哲学と心理学も学び、オックスフォード大学の経営大学院で修士号、ウィーン大学大学院で博士号を取得。オックスフォード大学で教鞭をとったのち、現在はミュンヘン・ビジネススクールの教授としてリーダーシップ論および組織論を教えている。交渉に関するアドバイスやトレーニングを提供する「ナシャー・ネゴシエーション・インスティテュート」の主宰者でもあり、心理学・法律・ビジネスの知識を活かして、企業に対して交渉についてのアドバイスを行なったり、セミナーを定期的に開催したりもしている。さらに、著者が才能を発揮しているのは交渉の分野だけではないようで、趣味のメンタルマジックもなかなかの腕前らしい。世界中から集まった一流マジシャンが腕を披露するマジックの殿堂、ハリウッドの「マジックキャッスル」にすでに50回以上も出演しているそうだ。

交渉がひどく苦手だというあるインタビュアーから「交渉の達人になるには、まず何に気をつけたらいいでしょう?」と訊かれた著者は、こんなふうに答えている。「一番大切なのはひとつのことだけに固執しないこと」。例えばものを買うときなど、多くの人は交渉すべきは価格しかないと思い込んでいる。だが交渉の対象になるものは実は価格以外にもあるのだ。どういうことかは本書を読んで確かめてみてほしい。そしてもちろん、交渉の熟練者への対処法や交渉前に準備すべきことなど、日常以外の交渉での必要なことも網羅されている。ビジネスでの交渉や複雑な交渉にのぞむ際の指南書としても、本書は十分活用できる。さまざまな場面で、ぜひ本書の交渉術を役立ててほしい。

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■著者紹介

ジャック・ナシャー
1979年生まれ。ミュンヘン・ビジネススクール教授(リーダーシップ・組織論)、ナシャー・ネゴシエーション・インスティチュート創業者。フランクフルト・ロースクールを首席で修了。オックスフォード大学サイード・ビジネススクールMBA修了。ウィーン大学Ph.D.修了。欧州議会、欧州司法裁判所、国連ニューヨーク本部などに勤務した。ドイツ語圏における交渉のトップエキスパートであり、世界各国の企業にアドバイスし、コミュニケーションと交渉術に関する講演やセミナー活動も行っている。心理学の知識で多くの人々を魅了するナシャーは、ラジオやテレビのゲストとしても人気が高い。

■訳者略歴

安原実津(やすはら・みつ)
ドイツ語、英語翻訳家。訳書にロルフ・ドベリ『Think clearly』、ヨッヘン・バイヤー『プレゼンのパワーを最大限にする50のジェスチャー』、バーバラ・オークリー 『先入観を捨てセカンドキャリアへ進む方法』(共訳)などがある。

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