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「言葉で語るよりも、読者ひとりひとりが体験をするような作品」──キノベス!2021 第2位受賞『ザリガニの鳴くところ』訳者の友廣純さんの受賞スピーチ

 過酷な境遇を生き抜く少女の成長と村で起こる不審死事件を豊かな自然描写で包み込んだ傑作、ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』全世界でなんと1000万部を突破した本作は、国内でも、

このミステリーがすごい! 2021年版 第2位 
2020年週刊文春ミステリーベスト10 第2位
読書メーター OF THE YEAR 2020 第2位
ミステリが読みたい! 2021年版 第3位
第4回未来屋小説大賞 第4位

と高い評価をいただいています。そしてこのたび、『ザリガニの鳴くところ』が、「キノベス !2021」の第2位を受賞いたしました!

「キノベス!」とは、過去1年間に出版された新刊を対象に、紀伊國屋書店さんの書店員さんが「自分で読んでみて本当に面白い、ぜひ読んでほしい本を選び、お客様におすすめしよう」という企画です。第2位を受賞された訳者の友廣純さんが本書の魅力をご紹介されているスピーチを、全文公開いたします。

キノベス !2021 第2位 受賞スピーチ

 翻訳者の友廣純と申します。このたびはキノベスという素晴らしい賞をいただき本当にありがとうございました。この作品はアメリカで大流行した作品なのですが、翻訳版もこのような評価を頂けたことに、訳者としてまずはホッとしております。ありがとうございます。

 この作品がどんな話なのかというのは、なかなか説明が難しいです。そして、説明する必要もないのだろうと思っています。ひとつには、この物語にはたくさんのテーマが重層的に含まれていて、なにが心に残るかはそのときどき、読む人によって変わるというのもあるのですが、それだけではなく、この作品は言葉で語るよりも、まずは読者ひとりひとりが体験をするような作品だと思うからです。

 早川書房の編集部の方も、帯のコピーで、「この少女を生きてください」と一言で見事に表現してくださったように、この作品を読んでいると、遠いノースカロライナの湿地に生きるひとりの少女に、自分も寄り添っているような気持ちになります。実際、寄せられた感想を読んでも、少女の幸せを願い、祈るような気持ちで読んだとか、自分のことのように泣いたり喜んだりしたという感想がたくさんありました。

 ではどうしてそういう気持ちになるのだろうと改めて考えてみると、もちろん、この物語にはそれだけの引力があるといえるのですが、同時に、たとえ遠くにいる、自分とは関わりのない誰かであっても、人にはその誰かのことを想像して、想いを寄せる力があるのだということに気づかされます。著者のディーリア・オーエンズは動物行動学者で、作中でよく野生動物の行動と人間の行動を比較しますが、それでいうと、この他者を想像して想いを寄せるという力は、人間にしか与えられていない素晴らしい能力なのだと思います。そして、そういったことに気づかせてくれる作品が今、世界中で読まれているということに、私は希望を感じます。

 最後になりましたが、この作品は500ページを超える厚さがあり、最近ではなかなか手に取っていただけない翻訳物なのですが、そういう作品であっても、キノベスという賞を通してひとりでも多くの方に届けてくださろうとしている書店員のみなさまに、心からの敬意と感謝を捧げたいと思います。改めて、このたびは本当にありがとうございました。(2021年2月18日)

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▽友廣純さんの受賞スピーチの様子はこちらから

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