話題の新刊『レイン・ドッグズ』読者モニター感想ご紹介第三弾! 「結末はまさに急転直下と呼ぶにふさわしいほどのカタルシス」「警察小説でハードボイルドでノワール、しかも謎解き」「〈ショーン・ダフィ〉シリーズのひとつの到達点」
ハヤカワ・ミステリ文庫から12月16日発売の刑事〈ショーン・ダフィ〉シリーズ最新刊エイドリアン・マッキンティ『レイン・ドッグズ』(武藤陽生訳)。本日も第三弾として本作のゲラ先読みキャンペーンに参加された読者モニターの方々から本作へ寄せられたコメントの一部をご紹介します!
〔このシリーズ自体は第五作ということではあるけれど、未読の読者にもわかるようにダフィ警部補のこれまでの物語についてほんのり触れられていることから、彼が苦労人であることも伺え、そしてアイルランドという土地に縛り付けられた業すら透けて見えるようだった。とある古城で起きた若い女性の転落死にまつわる疑惑が、次から次へと反転する、結末はまさに急転直下と呼ぶにふさわしいほどのカタルシス。そして物語に通底するのは、警察上層部さえも二の足を踏ませる政財界の大きな力であり、その蠢きが低く響き渡る。舞台には80年代というテロが日常となった時代も大きく関係してくる。日本でも有名なIRAをはじめとした武装組織の暗躍、北アイルランド問題、児童売春といった社会問題、犯罪人引渡条約をはじめとした各種の国際法等、ディディールに余念はない。日頃は暴動の鎮圧が主たる任務であるアルスター警察隊の警察官が巻き込まれる不可解な事件というだけで、非日常感は濃厚だ。トリックとロジックが幾重にも交錯し、ミスリードによって物語は何度も道を踏み外し、遠回りした先に辿り着いた場所で眼前に立ち現れる真実というマジック。誤解と誤読によって翻弄されながらもそれでもなおダフィ警部補はしぶとく事件に喰らいつく〕
〔「ショーン・ダフィ」シリーズを読むのは今作が初めてでしたが非常に楽しめました。密室状態の古城を舞台に事件が起こるというロケーションがまず魅力的かつ印象的ですが、そこから尻すぼみにならず面白さが増していくのが素晴らしかったです〕
〔このシリーズのタイトルは、ほぼ全てトム・ウェイツのアイルランド・レコード時代というかフランク3部作の楽曲から取られているのだが、今回は真打ちと言うべき代表作『レイン・ドッグズ』のタイトルトラックが使われている。 「レイン・ドッグズ」はマーク・リボーの奇妙なギターとトムのダミ声が炸裂する曲だが、そのレイン・ドッグとは、家路への匂いが雨に消され、帰りたくても帰れない犬のこと。主人公ショーン・ダフィ、あるいは被害者の女性を象徴する曲とも思える。そしてもっとも激しく、要となるシーンで雨が降っているのもそういうことだろう。 “タイタニックの沈没は船の厨房にいたロブスターたちにとってはクソ奇跡だった”とうそぶく男。能力はあるが、不器用な生き方しか出来ない呑んだくれ、他人との距離感もつかめずに人を傷つける、みたいなショーン・ダフィのキャラクターは正にトム・ウェイツ的でもあるが、編中に彼の曲がかかることはなく、トム・ウェイツを評して「彼がアイルランド人でないのが信じられない」と語るボノが率いるU2に対してもショーンは批判的だ。時代設定は『ヨシュア・トゥリー』が爆発的なセールスを記録した1987年だというのに。 警察小説でハードボイルドでノワール、しかも謎解きというのが売りの小説だが、確かにディクスン・カーばりの古城の密室殺人が発生し、“統計学的にきわめて不運なギデオン・フェル博士”なるコメントが出てくるのも楽しい〕
〔最新刊『レイン・ドッグズ』(武藤陽生訳)は、前作までとは一線を画すシリーズを象徴する物語となっており、より一層深まった絶望があった。 (中略)『レイン・ドッグズ』はこうしたあふれんばかりの絶望を湛えているだけの物語ではない。ここにはわずかな希望もあった。ショーンはあきらめることを知らない。事件がどれほど行き詰まってもしつこく捜査を続け、たとえ決定的な解決へと至らなかったとしても証拠を集め、納得のいく推理を導く。(中略)『レイン・ドッグズ』は絶望の行き着く先になにがあるのかを見せてくれた物語であり、その意味で〈ショーン・ダフィ〉シリーズのひとつの到達点といい得る作品であった〕
【書誌情報】
■タイトル:『レイン・ドッグズ』
■著訳者:エイドリアン・マッキンティ/武藤陽生訳
■本体価格:1,520円(税抜)■発売日:2021年12月15日
■ISBN: 9784151833076 ■レーベル:ハヤカワ・ミステリ文庫
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