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パオロ・ジョルダーノの最新長篇『天に焦がれて』著者インタビューを特別公開!

 11月17日に発売された『天に焦がれて』(パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介訳)。刊行後、著者にインタビューを行い、AERA dot.でインタビューが公開されました。コロナ禍について今思うことや、イタリアの人々のコロナ禍に対する反応、『コロナの時代の僕ら』と『天に焦がれて』で共通する伝染病について思ったことなどを著者にインタビューしました。

 早川書房のnote記事では、長さの都合で掲載できなかった質問を特別に公開いたします。小説の内容に一歩踏み込んだインタビューですが、ネタバレなしです。

質問:『天に焦がれて』の本当の主人公はベルンだ、とイタリアのインタビューで応えられていましたが、女性を語り手に選んだ理由を教えてください。テレーザの20年にわたる心の変化や、不妊治療をめぐる葛藤はリアリティがありました。イタリアの女性読者は、テレーザに共感したと思われますか?

回答:はい、共感するところはあると思いますが、テレーザが選択したように、イタリア人女性の多くが同じように生きるという意味にはなりません。むしろ、イタリア人女性の多くは、テレーザとは逆の生き方をすると思います。テレーザが、ベルンの浅はかな選択に盲目的に従う様子を見ると、読者はむしろ怒りを感じるかもしれません。彼女は強くもあり、弱くもあるのです。テレーザのそうした矛盾したところが魅力的でおもしろいと思ったため、小説では彼女の視点を中心にしました。また、小説の中で、ベルンは一種のブラックホールのように描かれています。彼が何を考えていたのか、完璧に理解することは不可能です。ベルンの一人称で小説を書き進めることを何度か試してみましたが、いつもうまくいきませんでした。ブラックホールとは、もともと到達不可能なもので、ブラックホールの周りをただ回るだけで、次第にブラックホールに吞み込まれていくのです。そのため、ベルンは常に、語り手のテレーザだけでなく、トンマーゾやジュリアーナなど、ベルンのことが好きだった人たちの視点を通して描かれています。ある夏テレーザの祖母が言った「他人の人生ってね、いつまで経ってもわからないことだらけなの」という言葉の裏には、そういった意味もあるのです。

質問:『天に焦がれて』では、主人公のベルンは福岡正信に影響されて自然農に取り組みます。イタリアで『わら一本の革命』、あるいは福岡正信はどのように受け取られているでしょうか。

回答:イタリアで『わら一本の革命』がよく知られているとは言えませんが、小説で描かれているように、パーマカルチャーを実践するいくつかの農業団体にとっては、自然農は大切なものです。彼らにとって、『わら一本の革命』はほとんど聖書といって良いでしょう。また、実際あの本には預言書のような側面があります。この本が、人生を通じて何か高尚なもの、聖なるもの、自らを導くものを探し求めていたベルンにとって新しい聖書となったのは非常に自然な流れです。

『天に焦がれて』あらすじ
毎年夏になると、祖母が暮らす南イタリアのスペツィアーレで過ごす14 歳のテレーザ。ある日、祖母の家の近所に暮らす三人の少年と知り合い、テレーザは、そのうちの一人、ベルンに一目惚れする。夏休みのたびに彼らと遊び、17 歳の夏、とうとうベルンと結ばれる。だが翌年の夏休み、テレーザは祖母から、ベルンが他の少女を妊娠させたと聞いて──。

パオロ・ジョルダーノ Paolo Giordano

1982年、イタリア、トリノ生まれ。トリノ大学大学院博士課程修了。専攻は素粒子物理学。2008年デビュー長篇となる『素数たちの孤独』(ハヤカワepi文庫)は、イタリアで200万部超のセールスを記録。同国最高峰のストレーガ賞、カンピエッロ文学賞新人賞など、数々の文学賞を受賞した。他の著作に『兵士たちの肉体』(2012年、早川書房)、 Il nero e l'argento( 2014年)がある。2020年には、新型コロナウイルスの感染がイタリアで広がる中、いち早くコロナ禍に関するエッセイ集『コロナの時代の僕ら』(2020年、早川書房)を上梓し話題となった。2018年にイタリアで刊行された本作『天に焦がれて』は、同国内だけで16万部超を売り上げ、世界23か国での刊行が決定している。


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