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依頼や交渉の場面で、相手から必ず「イエス」を引き出す方法とは? 『影響力のレッスン』の一部を公開します

交渉や依頼をする場面で、必ず相手の「イエス」をゲットする――。そんな影響力もスキルも、自分にはないと考えていませんか?  影響力のレッスンーー「イエス」と言われる人になる(小松佳代子訳、9月5日発売)の著者ゾーイ・チャンスは、その著書の中で「影響力はそれに値する人ではなく、それを理解して実践する人の手に渡る」と断言しています。「そしてまもなく、あなたもそのひとりとなるでしょう」と。

イェール大学経営大学院助教である彼女の初の著書には、生まれたときから誰しもに備わっている影響力を発揮するためのツールが紹介されています。「影響力」と言うと、商取引上の勝ち負けを競うためのものを想像するかもしれませんが、ゾーイの説く影響力はビジネスだけではありません。友人や家族にも笑顔で「わかった、やってみよう」と言ってもらい、「損得では測れない果実」を手にする、ひいては「誰にとっても人生をより良いものにする」ためのものだというのです。

適切なタイミングである「真実の瞬間」を見極める、ノーを受け入れずに粘り続ける「気立てのいいブロントサウルス」になる、「名前を頻繁に呼ぶ」ことで相手の注意を引きつけるなど、実践しやすく、かつユニークなツールの中から、「まずは頼んでみる」を抜粋してご紹介します。

『影響力のレッスン 「イエス」と言われる人になる』ゾーイ・チャンス、小松佳代子訳、早川書房
『影響力のレッスン』早川書房

まずは頼んでみる

 ワークショップの冒頭、私は財布から20ドル札を取り出します。
「さて今日は、この20ドルを差し上げようと思います。どなたか私を説得してこれを手に入れようという方はいませんか? この紙幣は本物ですし、私は本気ですよ」そこここで愛想笑いが漏れたのち、ひとりの女性が手を挙げます。私は彼女に歩み寄って、待ちます。

ぎこちない笑みを浮かべて挨拶程度の言葉を交わしたあと、彼女はこの20ドルを自分がもらうべき理由を説明しはじめます。携帯電話の充電器が必要です。ユニセフに寄付をしようと思います。先生に花を贈るつもりです。
「なるほど」と私は応じます(応じるとすれば、そんなふうに言うでしょう)。そして、二人とも黙り込みます。女性はもうどうすればいいかわかりません。説得を続けてきたのに、私が紙幣を手放そうとしないからです。私はたまりかねて、ほかの出席者に向かって聞きます。「彼女には何が足りないと思う?」

「彼女はくださいと頼んでいません」

彼女と同じ状況に立たされたとき、お金をくださいと頼んでいないのに頼んだと思い込んでいる人がどれほど多いか知ったら、あなたはきっと驚きます。ですが私は、「その20ドルを私にくれませんか?」とか「そのお金をもらえませんか?」と頼まれるまでは紙幣を渡しません。

ノーと言うことと並んで、影響力を高めるためにできるもっとも簡単な方法は、まずは頼んでみることです。もっと頻繁に、もっと率直に、もっとたくさん頼むのです。ほしいものをほしいと言う人のほうが、より良い成績を得たり、昇給や昇進が叶ったり、仕事でより大きなチャンスに恵まれたりするものですし、オーガズムに達することさえ多いというのです。これらは言うまでもないことのように思われますが、じつは違うらしいのです。

多くの人は、頻繁に頼みごとをするようになって初めて、それまで自分がいかに口に出して頼んでいなかったかに気づきます。私は担当するMBAコースの最終日に、みんなでさまざまな経験をしてきたなかで、この講座で学んだ一番重要なことは何か、学生どうしで話し合ってもらいます。すると、もっとも多いのが「まずは頼んでみること」という答えです。実践を積み重ねることで、理解は深まります。どうやって頼めばいいのかわからないときは? 相手に聞いてみましょう。誠意をもって。相手の気持ちを動かすもっとも単純で、もっとも意外な秘訣のひとつは、どうすればこちらの要望に応えてもらえるのか率直に聞けば、たいてい教えてくれるということです。

頼みごとをするのをためらう人が多いのは、私たちが頼みごとにまつわる心理を根本的に誤解していて、応じてもらえる可能性を低く見積もっているからです。ある一連の実験から、従業員は期限の延長を申し出るぐらいなら、中途半端な出来でも期限までに仕事を提出する傾向にあることが明らかになりました。もう少し時間がほしいなんて頼んだら、上司に無能だと思われるのではないかと懸念していたのです。ところが、上司たちの考えは真逆でした。マネジャーらは期限延長の申し出を、能力とやる気を示す好ましい兆候と見なしていたのです。

フランシス・フリンとヴァネッサ・ボーンズが行なった別の実験では、参加者たちは見知らぬ人に声をかけて、さまざまな依頼をするよう指示されました。依頼は、10ページもの質問票に記入してもらう、あるいは、大学のキャンパスの反対側にある見つけづらい校舎まで案内してもらうなど、幅広い内容でした。参加者は実際に依頼をする前に、要求に応じてもらえるまでに何人に声をかけなくてはならないかを予想していました。フリンとボーンズは実験を通して、見ず知らずの人が驚くほど快く手を差し伸べてくれるところを、繰り返し目(ま)の当たりにすることになりました。親切に頼みに応じてくれる人は平均すると、参加者の予想の2倍から3倍にも達しま
した。

私たちが依頼をする側に立つときには、断られる要因にばかり目が向いて思い悩みがちです。イエスと言った相手に面倒をかけかねないあらゆる理由が、頭の中を駆け巡ります。ところが、依頼を受ける側は、どちらかと言えば断る難しさのほうに注目する傾向があります。依頼者は手助けの代償ばかりが気になって、それに伴う潜在的なメリットを見過ごしてしまうのです。神経科学者の研究から、寛大な行為は脳の報酬回路を刺激し、ドーパミンの大量放出によってある種の「ヘルパーズ・ハイ(helper’s high)」を引き起こすことがわかっています。この気持ちはあなたもおわかりでしょう。困っている人を助けて感謝されれば、気分がいいものです。また、ボランティアをしている人々のほうが、していない人より幸せで健康であること、さらには、自分のためよりもほかの人のためにお金を使ったほうが、心が満たされる傾向にあることが、数々の研究で実証されています。

寛大な行為と幸福感のこうした関連性は私たちに深く根差していて、幼児期から見られます。なんともほほえましいある実験で、研究者たちは魚の形のクラッカーをもらったりあげたりする幼児の顔に浮かぶ喜びの表情をコード化しました。おいしいお菓子をもらうと、もちろん子どもは喜びましたが、実験担当者から渡されたクラッカーを他者役のパペットにあげたときには、満足感がさらに高まりました。そしてもっとも強い喜びを示したのは、自分のもらったクラッカーをあげたときでした。私たちは、寛大な行為には当然メリットがあるとはなかなか思えません。メリットよりも代償のほうが大きい場合もあるからです。しかし、寛大な行為にメリットがあるのは確かなので、もし頼みごとをしなければ、自分自身の喜びだけでなく、この世界に潜在的に存在している喜びも制限してしまっているのです。あなたがもし、嫌われたくなくて頼みごとを控えているのなら、あなたの要望にイエスと応じて心が満たされる機会を相手に与え損ねているのだと考えてみてください。そして、快く依頼を引き受けてくれる人は、思いのほか多いという
ことも。

20ドル札の例にあったように、あなたはもっと単刀直入に依頼する必要があるかもしれません。自分では頼んでいると思っていても、ほかの人には希望を暗に匂わせているようにしか見えない場合もあります。率直な物言いに対する基準は、性別や業種や文化によって異なりますし、当人どうしの親しさやその場の力関係にも左右されます。いきなり声をかけて、単刀直入に頼みごとをしたら、ぶしつけだと相手の機嫌を損ねてしまうかもしれません。とはいえ、あまりに遠回しな表現では、あなたの希望や夢には気づいてもらえないでしょう。誰もあなたの心は読めません。それどころか、気づこうとさえしていないのです。彼らは彼らで、自分の希望や夢のことで頭がいっぱいだからです。

では、どれぐらい率直に伝えればいいでしょうか? はじめは少し遠回しに尋ねてみて、相手が反応しないようなら、もっと直接的に頼むというのもひとつの手です。あるいは、私が婉曲な依頼と呼んでいる、仮定の質問を使ってみてもいいでしょう。「たとえば……についてはどう思われますか?」といったぐあいに。この件については第6章で掘り下げるつもりですが、相手の見解を引き出せれば、思い切って頼んでみるべきかどうか判断がつくでしょう。

あなたは遠慮して頼みごとを控え、頼むときもまわりくどい表現を使うばかりでなく、おそらくその内容も自制しすぎています。そこで、何か途方もない頼みごとをしてみてはいかがでしょうか? ほかの人たちが何を途方もないと考えるかは、あなたにはけっしてわかりません。しかも、その途方もない頼みごとが断られたとしても、あなたの有利に働く可能性のあることが判明しています。

いまや人間関係における影響力の研究では第一人者となっているロバート・チャルディーニは1975年に、「非行少年の動物園への引率」を依頼する著名な実験を行ないました。彼の研究助手たちは、アリゾナ州立大学のキャンパスを歩いている人を呼び止めて、市の青少年カウンセリングプログラムに参加している非行少年たちを動物園に連れていって、2時間ほど付き添うボランティアをしてもらえないか、と頼みました。その場で承諾してくれた人は、17パーセントに上りました(人のもつ優しさにはいつも驚かされます)。とはいえ、これは途方もない頼みごととまでは言えません。次に、研究助手たちは通りがかりの別の人たちに、今度は青少年センターで少なくとも2年間、毎週2時間のボランティアを務めてほしいと打診しました。彼らはこの依頼を断られた(全員が断りました)あと、さきほどと同じように動物園への引率を頼みました。すると、最初に途方もない頼みごとをされた人たちでは承諾率が上昇し、最初から動物園への引率役だけを依頼された人の3倍にもなったのです(*)。 

*オリヴァー・ゲンショウは2020年に、この非行少年の動物園への引率を依頼する研究をケルン大学で再現し、同様の結果を得ました。しかしこのときは、2年間の関与を求める途方もない依頼に、9パーセントの人がイエスと答えたのです。人間は信じられないぐらい、深い深い優しさをもっているのだと再認識させられました。

大きな依頼を断ったあとにもっと小さな頼みごとをされると承諾率が高まる理由として、相対的な大きさと返報性の二つが考えられます。問題を抱えたティーンエイジャーの一団を動物園へ引率するというのは、それ自体が相当に大変な骨折り仕事ですが、向こう2年間、毎週2時間を彼らのために費やすことに比べれば、ものの数にも入りません。つまり、相対的な大きさの問題なのです。あなたが途方もない依頼からもう少し小さな頼みごとへステップダウンすると、相手はその動きをあなた側の譲歩とみなして、それに報いようという気を起こします。交渉に関する研究によって、相手側から何らかの譲歩を引き出せたときに、人は結果に対してより大きな満足感を得ることが実証されています。つまり、譲歩したことであなたの好感度が上がり、相手は交渉で譲歩を引き出した自分自身についてもより誇らしく思うのです。

頼みごとをする(しかも大きな、あるいは途方もない依頼をする)最大の理由は、頼んでみないことには、相手が何に同意をするかわからないからです。あとで譲歩する余地を残しておくために無理な要求をしただけなのに、相手がすんなり承知してくれる可能性もあります。私の教え子が拒絶されようとしているときでさえも、およそ3回に1回は要求が通ってしまうのですから。

誰に頼もうかと迷うときには、男性も検討してみてください。頼みごとをしたり手助けを求めたりするとき、私たちは女性に頼ることが多いせいで、つい女性を思い浮かべ、男性を軽視しがちです。元NBA選手のシャキール・オニールは太っ腹なことで知られています。「レストランでは、たくさんチップを渡すよ」かつて彼は、著名な司会者のジミー・キンメルにこう語りました。「感謝の気持ちを示したいからね。だから、店員が俺のテーブルに来たら言うんだ。〈注文の品をすばやく届けてくれたら、そのぶんチップをはずむよ〉ってね。そして店を出る準備をしながら、こう訊く。〈いくらほしい?〉ってね」

店員が求めた最高額はいくらだったと思いますか? なんと、4000ドルです。

これにオニールは何と答えたでしょう? 「いいとも、お安い御用だ」でした。

*『影響力のレッスン』より一部編集のうえ抜粋。


ゾーイ・チャンス著『影響力のレッスンーー「イエス」と言われる人になる』は、2023年9月5日発売です。こちらからも購入できます。

記事で紹介した本の概要

『影響力のレッスンーー「イエス」と言われる人になる』
著者:ゾーイ・チャンス
訳者:小松佳代子
出版社:早川書房
発売日:2023年9月5日(火)

著者プロフィール
■著者:ゾーイ・チャンス
イェール大学経営大学院助教。ハーバード経営大学院などでマーケティングを学び、マテル社で2億ドル規模のバービー人形ブランドを取りしきる。自身が考案した行動変容のためのフレームワークがGoogle社のフードプログラムの基礎として採用されているほか、TED講演「How to Make a Behavior Addictive」は50万回再生を突破。「マネジメント思想のアカデミー賞」とも言われる「Thinkers50」では、世界の新進気鋭の経営思想家の一人に選ばれた。家族とともに米コネチカット州ニューヘイブンに在住。

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