ここでお別れだ…。野良犬がジャングルのレースで飼い主に出会った感動の実話。『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』(4/20発売)特集2
第1回目はこちら。
ジャングルに暮らす野良犬が、アドベンチャーレーサーのミカエル・リンドノードさんに出会いました。ミカエルさんからミートボールをもらった犬は、彼に懐き、どこまでもついていきます。やがてアーサーという名前をつけてもらい、ミカエルさんたちのチームに仲間入りすることになりました。
アーサーと出会ったジャングルのぬかるみ道を抜けて、ミカエルさんたちはようやく休憩所にたどり着きました。
眠るときもいっしょです。
この後も、ミカエルさんたちとずっと走っていくためにしばしの休憩中。
とても人懐こいアーサー。はじめての人にもこのポーズ。
休憩を終えて、アーサーとともに出発! ところが、じつはミカエルさんにはある心配事がありました。つぎのステージはカヤック(カヌーの一種)。レーサーたちは約60kmもの距離を14時間ほどかけて進むことになっていたのです。ここがもう1つの難所。ふつうなら、犬といっしょに進むことなんて考えません。
案の定、大会の係員は「犬を連れていくことはできないぞ」と告げます。
それを聞いたミカエルさんは「アーサーには僕が必要なんだ。僕が唯一の希望なんだ」と心のなかで叫びます。その一方で、経験豊富なレーサーであるミカエルさんは、自分たちの疲れた体、重い荷物、厳しい川下りのコースに加えて、犬を連れていくことのリスクも承知していました。
さらに悪いことに、この前の日の川渡りで、アーサーは泳ぐのが苦手だと知っていたのです。しかも、背中に大きな傷まで負っていました。
ミカエルさんは決断します。アーサーはきっとひとりで棲み家に帰って、またジャングルで暮らせるだろう。自分たちのためにも、アーサー自身のためにも、ここでお別れするのが賢明だ……ミカエルさんは胸がつぶれる思いで、アーサーのほうは振り返らずにカヤックに乗り込みます。
そのとき、ばしゃんという水しぶきの音が聞こえます。
それに合わせて橋の上に立っていた他のレーサーや係員から驚きの声もあがります。ミカエルさんはレーサーとして前を行くチームメイトを必死で追いかけます。でも、彼の全神経は後ろから聞こえてくる音に注がれていました。
またもうひとつ、水しぶき。
ついにミカエルさんが振り返ると、アーサーが大きな頭だけをかろうじて水面から出して、ミカエルさんのわずか数メートル後ろを泳いでいるのです。アーサーは泳ぎが得意でないのに、出せる限りのスピードでついてきています。
けれど、だんだんとアーサーの前脚の動きは遅くなって、頭もさっきより沈んでいっています。それでもアーサーはまだミカエルさんのことをしっかりと見つめていたのです。
ミカエルさんは思います。ここを越えれば、ずっと一緒なんだ。アーサーを守るんだ。置いていくことなんてできない!
ミカエルさんが漕ぐの止めると、アーサーとの距離が縮まっていきます。アーサーにもそれがわかったのか、がんばってカヤックの端にたどり着きます。アーサーに手を伸ばすミカエルさん。舟のバランスを崩しそうになりながらもアーサーを乗せたのでした。
こうして、ふたたび5人になったチームは苦労の末、つぎのチェックポイントにたどり着いたのでした。
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(アーサーとミカエルさんはたくさんの写真と動画も記録しています。次回からはそちらをご紹介。来週半ばの更新予定です!)
※この文章は、『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』(ミカエル・リンドノード/坪野圭介訳)の紹介記事です。本書は早川書房より4月20日に発売予定です。