ヤキトリ1

【2巻発売!】カルロ・ゼン『ヤキトリ1 一銭五厘の軌道降下』第三章「火星」~地獄の訓練、冒頭部分公開!!

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第一章『選択』はこちら
第二章『貨物』はこちら

第三章『火星』

ヤキトリはきちんと焼かれています。——キッチン広報担当者

汎星系通商連合航路保守保全委員会管轄星系
惑星原住知性種管轄局、選定訓練施設(キッチン)

 モーツァルトに四六時中聴覚を苛め抜かれ、味覚には『大満足』を給餌され続けるという凄まじい拷問を幾夜潜り抜けたことだろうか? はっきりと覚えているのは、三日以上は数えたくもないってことだけだ。それ以上のことは、思い出したくもない。
 俺は命からがら、火星ステーションに降り立つ。
 言っておくが、同情とお情けを求めるための泣き言じゃない。商連のいう正常な艦内環境とやら、とどのつまりは愉快な貨物生活は最底辺の取り扱われ方に慣れている俺ですら、音を上げる代物だった。
 無駄に元気な白い騒音源ですら、そうだ。あいつの無駄に整った顔が歪んでいるのは多少留飲を下げてくれる娯楽だった。だが、タイロンのアホが疲れた顔をしてぼやいているのは俺だってげんなりさせられる。
「パプキンから、これは、聞いていないぞ……」
 タイロンの奴が青い顔で零す愚痴は、道理だけに否定もできまい。
 貨物船にぶち込まれた殆ど全員が、似通った気持ちだったに違いない。聴覚、味覚ときて視覚にまで仏頂面となればまともな俺だって参ってしまう。幸いなことに、全員が全員というわけではなかったが。例えば同室のスウェーデン人には、顔に出さない嗜みがあった。まぁ、お愛想よくというやつだろう。
 ただ不思議なことに……いや、認めるのも業腹だが、ひょっとすると本気で平然としていたのが一人だけいた。
 あの腹の底の見えない中国人だけは、若干、不気味だ。
 いや、と俺はそこで頭を振る。船旅の細かいことなんぞもう関係ない。重要なのは、閉鎖空間から解放されたという事実だ。
 TUE‐2171が火星の軌道エレベーターと宇宙港の複合港湾施設に接舷したのは、船内時間でいえば昼食の時間帯だったが、到着を知らされた瞬間、俺は『大満足』をゴミ箱に放り込んでいた。
『上陸』という単語は魅惑的だった。ほかのことなんか、どうでもよし。途中、船内放送で船長が上陸後の簡単な段取りを放送していたが、もどかしくて半分も耳にろくすっぽはいらなかった。
 殆ど、惑星への依存症寸前だったんだ。貨物船に窓があれば、張り付いて火星を探していたに違いない。それほどに、ただ、ただ、船から降りたかった。
 ハッチが開くまでの間が、想像できるか? 殆ど信じがたい長さに感じられてしかたないほどだった。
 ある意味、いや、率直に言ってじれったいのも当然だ。
 俺は、マシな未来をここから歩く。感慨深いものがないといえば、嘘だろう。忌々しい世界を後に、まともな将来を描ける世界へ進むのだ。
 ゾロゾロと群をなして上陸した一団を迎えるのは、地球の宇宙港で見かけたのと色寸法何一つ変わらない制服姿の港湾職員共。
 制服連中に対しては、経験上、俺はどうしても嫌悪感を抱きがちだ。だが、ここの連中が仕事ってやつを理解しているのは認めるべきだろう。
 口よりも手を動かす……というと、少し変か。とにかく、連中は誘導のために声を出す。
耳元のレシーバーで翻訳され、船から我先に降りる人間の奔流を兎にも角にも秩序ある列へと変えていく。
 流れに身を任せていれば、あっという間だった。
「よろしい、では、移動を開始する。誘導員に続くように」
 男女の職員何人かが手に持った旗を振り、こっちだと促す。たったそれだけで、まとまりのなかった群衆が整然と動き始めるのに気づき、俺は思わず口笛すら吹いてしまう。
「ご機嫌じゃないか、アキラ」
「物事が順調に進むなんて、そうないだろう? 幸先が良い」
 違うか、と笑いながら投げ掛ける俺に対しタイロンも同意見らしく頻りに頷く。混乱も揉め事もなし。第一歩としては理想的そのものだ。
「まて、K321だな?」
 さぁ、と他の連中に続こうとしたところで、邪魔が入る。俺と連中を呼び止めたのは横にいた港湾職員だ。
「君たちはこっちだ」
 ついてこいと先導する職員に案内されるのは、他の離船者らとは別方向の少し離れたブースの並んだ区画だ。案内員はそこで自分の端末に目を落とし、二度確認する。
 嫌に慎重だなと思ったところで奴は一つのブースの前へと近寄り、丁重な態度でその扉をノックする。中から何事か返されたところで、そいつは実に丁寧にドアを開けつつ、こっちにはぞんざいに顎を動かすだけで入れと促して見せる。
 目に余る態度だが、殴りたいほどではない。睨んでやるぐらいで、イーブンだろう。それきり立ち去っていく職員を視野から追いやり、俺は室内に目を向ける。
 待ちかまえていたもの。それは、パプキンのアレな笑顔だった。
「ようこそ、K321ユニットの諸君!」
 ばっと手を広げ、大げさなアクション。
 礼儀正しく頷き返したスウェーデン人を除けば、こっちは全員が胡散臭いものを見る目で奴を睨んでいた。針の筵とまでは言わないにせよ、凝視されていながらパプキンの調子は揺らがない。
「長旅、ご苦労様。火星ステーションへようこそ。歓迎しよう!」
 レシーバー越しに翻訳されてくる声は、当人のものとは似ても似つかない柔らかな女性の声に変換されている。だが、それでも、軽やかな調子でパプキンの奴が話そうとしているのは一発でわかった。
「諸君とまた会えて何よりだ」
 うんうんと勝手に頷いているそいつは、親しみをアピールしている。愛想笑いらしい中国人以外、スウェーデン人でさえ困惑顔なんだけどな。
 だって、あんたの目はどうしようもなく怖いんだよ、パプキン。こっちを見る目が、不気味なんだ。俺には、何を考えているのか相変わらずわからない。
 ああ、とそこで俺は思い至る。
 どうにも中国人が気に入らない理由は、これだ。あいつも、パプキンも、同じ穴の貉。腹の底で、人の利用法を考えて居そうなところなどそっくりだ。パプキンが腹黒大狸だとすれば、中国人は小狸か? 俺は心中で吐き捨てる。『こういう連中は、真実で嘘を包むから厄介なんだ』と。
 生きた馬の目を引き抜くって表現が正しいのか知らないが、そんな連中だ。話半分に聞いたところで、危険すぎる。とはいえ、パプキンは今のところ誠実な奴でもある。
 判別のためにも耳を傾けるべきか俺が逡巡したときのことだった。麗しくも再会を言祝ぎたいらしいパプキンにはあいにくだが、長口上は予期せぬ新たなノックによって遮られる。
 いや、正確には手荒というか、適当に一度だけ扉が叩かれ、音に気が付いたパプキンが返事をしようと顔を動かした瞬間のことだ。
 室内の反応を待つことなく、そいつは、室内に姿を現す。
 はっきりといえば、別に興味もなかったが習慣で音の方へ視線を動かし……俺は驚愕で固まる。
 そこに現れたるは、犬。でっかい犬だ。いや、犬じゃない。
 何といえばいいのか頭が混乱するが、とにかく俺の知っている犬じゃないんだが、他に形容しがたい犬が……二足歩行の……犬頭の生物だ。
 気のせいでなければ、俺は、そいつの言葉を理解できた気がする。
 耳に突っ込んだままのレシーバーから流れ出る、相変わらずの柔らかい音声。それが『調理師、少しいいか』と告げたのだ。
 ついで、そいつは、こちらをキョトンとしたような顔で見つめ、室内をぐるりと見渡すなり何事かを吠えるというか、口に出す。
「……ん、どうやら邪魔したようだな。あとで、連絡をくれ」
 今度も、聞き違えということはないはずだ。
 人間とは程遠い形状の生物は、気さくに手を振るなり、ノッシノッシと立ち去っていく。
なんといえばいいのか分からないが……犬型生物の背中が去っていくなり、俺は思わずパプキンへ問いかけるような視線を飛ばしていた。
「あれは、なんだ?」
「なんだといわれても、商連の軍事氏族に属する武官だよ。艦隊士官とか、色々と肩書はあるが……まぁ、僕らの飼い主様というわけだね」
「あれが?」
 そうだが、と応じるパプキンへイギリス人は疑わしいとばかりに眉を顰めて見せる。
「地球で見た写真と違いすぎるわ。商連人というのは、猫系統の二足歩行型哺乳類で構成された種族なのでしょう?」
「商連は複数の種族からなる氏族で構成されているんだ。地球に居ては想像もできないかもしれないが加盟種族も、かなり多様だよ。まぁ、とりあえず火星では人間以外の二足歩行する哺乳類は商連市民、地球で言う商連人だと覚えておけばいい」
 分かったかねというパプキンの言葉に対し、混乱したような声色でスウェーデン人が応じる。
「……随分と、なんというか」
 口ごもりつつ、紡がれるのは奴の本音だろうか? 別に、どうでもいいのだが。
「今の商連人も地球のホモサピエンスに近いような。もちろん、生物学的に別物だというのは理解しているんですが……」
『生物学的』などと鼻につく言い回しをしなければ、俺もスウェーデン人の言葉へ完全に頷けたことだろう。
 宇宙に出るとき、商連の連中やそれ以外の宇宙人と接触するだろうとは理解していた。だが、俺としては別の出会いかたってやつを予想していたんだ。
 こう、もう少し劇的な出会いだとばかり思いこんでいたといっていい。
 なにしろ俺やほかの連中は、命を張って殺し合う傭兵モドキになるために地球を離れている。宇宙へ繰り出し、どうなることか気張っていたところに……ひょっこりと顔を出し、
『またあとで』と手を振るような人間臭い犬モドキと出会ってどうしろと?
「やれやれ、あれが、ご主人様か。犬に人間が飼われるとはなぁ」
 逆じゃないのか、などと冗談めかして腐すタイロンの言い分に俺は苦笑する。
 まあ、こいつは、アメリカ人だからな。没落したって言ったって、アメリカは広いし資源も埋まっていた。嫌味でもなんでもなく、ペットを飼えるぐらいのスペースや余裕がこいつの周囲にはあったんだろうさ。
「ミスター・タイロンの言葉通り、彼らが地球の保有者ではある。だが、ご主人様かといわれると微妙だな。正確を期すのであれば、訂正したほうがいいだろう。なにしろ当人たちには、その自覚があまりないんだ」
「自覚がない?」
 思わずの疑問だろう。殆ど反射的に問い返したタイロンに対し、パプキンは曖昧に笑いつつ口を開く。
「彼らは、地球の管理をこの宇宙で認められた地球の主権者だ。まぁ、面倒を省いていうと所有しているオーナーではある。ただ、彼らの感覚としていうなれば、ど田舎に投資用のマンションを保有しているぐらいだろうね」
 どういうことかさっぱりわからないたとえ話を使うのは、パプキンの趣味なのか? さっぱり理解できないぞと俺は首を横に振り口を挟んでいた。
「パプキンさん、あんた、はっきりと言えないのか」
 妙に勿体ぶった言い方をし、ごちゃごちゃと屁理屈を紡ぐより、結論を口にしてほしい。
結論だ。
「……一番わかりやすいたとえだと、家が地球のようなものだ」
 また、たとえ話かと俺は呆れ顔を浮かべて見せる。腹の立つことに、こっちの顔を見やるなりパプキンはため息を零しつつ口を動かす。
「諸君らは、ひょっとして血の一滴までも自分のものだと主張する類かな?」
「だとしたら、どうだっていうんだ」
「そんなに所有権の主張に煩い類だったとしても、家の中にいる微生物を所有している実感はないだろう?」
「さっきから、あんたは変に持って回った言い回しだ。ハッキリ言ってくれ」
 誤解させようという手合いには、うんざりだ。複雑な言葉を並べ、煙に巻こうとする手合いは、いつだって本当のことを口にしない。俺のまともな忍耐力ってやつにも限度があった。
 もう十分にその手口に翻弄されてきた。パプキンのやつが、今の今まで誠実だったという実績があったところで……許容できる物事には限度ってやつがあるんだ。火星くんだりまできて、また騙されるなんて冗談じゃない。
「うーん、わかってもらえないかな?」
「わかる、わからないの話じゃないんだ。俺は、パプキンさん、あんたの口から結論が聞きたいんだ」
 俺はそこで念を押すべくなけなしの敬意と共に言葉を繰り返す。
「わかってもらえるか? 答えだ」
 あいつの目を見るのは、なんというか、俺らしくないことだが、どうにも落ち着かない。
だが、それでも、俺はじっと、詭弁を許さないとばかりにパプキンの顔を睨みつけてやる。
 パプキンは、施設から俺を出してくれた。そいつには、本当に感謝している。だが、それはそれだ。こっちには、聞く権利がある。
「聞きたいのかい?」
 俺よりも、他の連中へ向けたような問いかけに対する反応は劇的だった。
「正直に言えば、アキラの言う通りだ。俺としちゃあ、是が非でも聞かせてもらいたいね、パプキンさん」
「二人の意見に同感です。自分も、可能であればお聞かせ願いたい」
 タイロンが真っ先に応じ、スウェーデン人も同意。女性陣は、なんということだろうか! まぁ、なんとも慎み深く頷かれるじゃないか! イギリス人、お前は普段からそうしてくれればいいものを!
 そうやって、ブース内の人間全員が知りたがっていることを確認したのち、パプキンはやれやれという表情を顔面に張り付けて見せる。
「聞きたいと?」
 いうまでもないことだ。全員が頷き、パプキンが続ける言葉を待つ。散々渋り、挙句、理解できないとばかりに首を横に振った挙句、奴は漸く口を開く。
「……率直に言えば、我々は視界に入ってすらいない。一般的な商連人の視点から言えば地球上の原住知性体とはメチルチラミロフェニリウムの同類だ。要するに、全く、興味をそそられる対象じゃない」
 興味関心なし。俺には、その言葉の先にある意味も十二分にわかる。無関心ということは、こっちに対する善意も悪意もなし。
 道理で、パプキンは連中のことを『自覚がない』ご主人様だと形容するわけだ。俺は思わず嗤いだしそうになっていた。商連人の連中、こっちを歯牙にもかけちゃいない。
 ああ、なるほど、そりゃ、言いにくいだろうよ。
 だが、同時に俺は納得もしていた。宇宙人は、別に、俺やほかの連中に興味があって地球に来たんじゃないんだ。端的に言えば連中は、持っている連中なんだ。持っていないこっちが眼中にないわけだ。
 争いってやつは、遠くの連中よりも隣人との方がはるかに多い。日本で俺の足を引っ張った連中を見ればいい。どいつもこいつも、欲の皮が張っていた。抜け出そうとした俺を蹴り飛ばしたのも、嫉妬心が原因のはずだ。
 俺は商連の連中から迷惑を被る『レベル』って段階になかったんだろう。貧乏人の僻みなんだろうが、そんな不愉快な理解を頭の隅に俺が入れかけたときのことだ。
「嘘でしょう!? 」
 耳障りな高音が、俺の傍で爆発する。火星について早々だ。商連のあれこれよりも、こっちの方が今は気に障る。結局、いつだって、商連の連中よりも隣にいる人類の方が俺に迷惑をかけるってことだ。
「地球に、あれだけ、干渉しておいて! 関心がなかったですって!?」
 翻訳機越しにすれば丁寧な声になるにせよ、声量のでかさは嫌でも分かる。
 想像通り、いや、想像以下か。あいつはほんの僅かな間しか大人しくしていられないらしい。船内環境故に爆発していたのだと思いたかったが、環境は関係なし。所かまわずどこでもいつでも、大爆発だ。いっそ、鉱山でも掘ればいい。
 白い騒音源と俺が名付けたのは、全く適切だった。
 中国人とスウェーデン人め、もう少しでいいからあいつを抑え込んでくれないものか。
「失礼だが、どういうことでしょうか。いわゆる被発見日以来、商連の影響で地球には大混乱が起きたはずですが」
 おい、おい、なんだって、お前まで。信じがたい思いで俺はスウェーデン人がパプキンの奴に食って掛かるのを見る羽目になっていた。
 イギリス人に同調するとは、驚きだ。てっきり、いつものように宥めるのだとばかり期待していたのだが。……いや、他人に期待なんぞするからいけないんだ。だから、裏切られる。
「確かに、その通り。歴史的に地球からの視座で見れば、彼らは占領者だとも。だがね、ミスター・エルランド。商連で書かれた歴史を読んだことはあるかな」
 ありません、と俯くスウェーデン人にパプキンは朗らかな声で続ける。
「惑星を探査船TUFマナスが発見。原住種‐知性体を確認するも主権を確立した統一政府は樹立されておらず。無主地と列強に通達。承認され、領有。若干の資源算出あり。市場としては未成熟故に絶望的。搾取的貿易を阻止するため、自由貿易を原則としつつも一部には制限令を発令中」
 訳が分からない単語の羅列を抑揚のない声で唱え終えるなり、パプキンは肩を竦めて皮肉気に哂う。
「ミスター・エルランド、君は歴史のお勉強をスウェーデンでしたのだろうね。学習熱心なのは大変に結構。だが、肝心なのは語り手の立ち位置だ。書き言葉の過剰な過信には、注意しておきたまえ」
 頷ける言葉だ。糞教師の言葉や役立たずの公定教科書を妄信するのは危険すぎる。まともな人間であれば、健全な批判精神ってやつを持つべきだ。なのに、頭でっかちで自分自身が賢いと勘違いしている無能連中には理解できていない。
 ちらり、とイギリス人に視線を向ければ、秀麗な眉を歪めた物凄い不機嫌顔。俺が発見したのは、いうなれば爆発寸前のダイナマイトだ。
「私が間違っていると? 学んだのは英国学士院の、公式の、刊行物からなのよ?」
 一言、一言を区切って強調する物言い。公式かなんだか知らないが、それが、要するに価値のあることだと信じて疑わないらしい。馬鹿め。
 こつん、と俺をタイロンの奴が小突き『見ものだな』なんて笑うが同感だ。
 スウェーデン人が何事かを口にし、なだめようと目くばせしてるが効果はなし。そんなものを読み取る機微を奴に期待するだけ、無駄だと学習しないのか、はたまたスウェーデン人が諦めないのかは永遠の謎だ。
 荒れるのを見て取った俺はタイロンに対し、隅に行こうと顎をしゃくる。要は、一時的な避難ってやつだ。
 貴方が間違っているんじゃないのとばかりに捲し立てるイギリス人の言い分はチンプンカンプンだが、権威とやらを振りかざしているのは見て取れる。馬鹿は馬鹿でも、度し難く煩い馬鹿だ。喚き散らすのは違うところでしてくれればいい。
「ならば、それが、間違っていたということよ」
「チャイニーズ?」
 長引かなきゃいいんだがな、という俺のぼやきを意外にも拾う神がいたらしい。ず、ずーなんだったか、とにかく、中国人が動いていた。
「地球の教科書にあるのは、猫型の写真だけ。犬型がいるなんて書いてなかったはず。でも実際には、そこに、いた。そうなると、教科書を疑うしかないじゃない」
 分かるでしょう、と続けられる言葉。
「書かれていること、目の前の現実、正しいのはどちら?」
 小さく俺は含み笑いをこぼしてしまう。穏やかな調子だが、あの中国人にしてはなかなか明確に辛辣だ。
 どっちが正しいかなんて、見ればわかる。頭でっかちな教科書がどうだろうと、お勉強と現実ってやつは別物だ。イギリス人がどこで何を読んだのか知らないが、無慈悲な支配者猫星人という商連人像とやらはとんだ的外れ。
 赤面し、黙り込むアホの姿はなかなか痛快だ。知ったかぶりをするから、こうなる。
「で、パプキンさん本題は? あんたがご親切なのは承知だがね。教科書の間違いをイギリス人に指摘するためだけに、わざわざ火星にまで?」
 全くもってその通り。タイロンのいうとおりだ。
 俺だって、パプキンが火星で待ちかまえているなんて想像だにしなかった。
 学校の教師と同じで、『また会おう』なんてリップサービスか取り繕いだろうって予期していたんだ。送り出して終わりじゃないのは面倒見がよくて結構だが、一体そこまでする理由はなんだ。
「実のところを言えば、その通りだ。私は君たちとディベートを楽しむために火星にまで来たのじゃないんだよ。悲しいかな、仕事なんだ」
 わざとらしく付け加えなくても、想像はつく。
 パプキンだって、俺やほかの連中を利用しようとし、こっちもあいつの用意した機会を利用している。お互い様だ。
「人を紹介するつもりだったんだ。君たちの教育担当者だよ。実は、傍まで来ているんだが、議論に我を忘れて待たせてしまっていた。もう、入ってもらおう」
 スウェーデン人のように、人と人の間を取り持つ奇特なご趣味というわけだ。やれやれ、
一体全体、本当に何を考えているのやら。
 こっちの気も知らず、パプキンのアホは格好をつける様に姿勢を正すと口を開く。
「入り給え!」
 大げさな声をパプキンが張り上げるや、扉が開かれる。
 勢いよくブースへ顔を出すのは、いかつい顔をした男だった。咄嗟さに相手を見極めようとした俺だが、さっぱり勝手がつかめない。人種からして、難しい。かなり混じっているというか、何系の想像がつけにくいと来ている。
 ……そもそも、俺にとって日本人以外の顔はわかりにくいんだ。似通っているアジア系や、色の違いならばともかく、混じっているタイプは見分けがつけにくい。
 見た目で年齢を見繕えるのも、人種が近いとかじゃないと無理だ。一番老け顔のスウェーデン人も、糞生意気なイギリス人も、他の連中と揃って俺と同年代だったと知ったときのことを思えば、軽々しく決めつける訳にもいかないだろう。
 そんな次第で、俺の前に現れた男が30以上だとは思うんだが、40以上かもしれないし、逆にそれ以下といわれれば納得もできてしまう。
 だが、逆にはっきりしている点もある。日に焼けたらしい肌といい、ガタイといい、自分の肉体を酷使することに慣れたやつ。パプキン同様、人間を殴りなれていやがるような印象を受ける。
 お優しい福祉へご厄介になっていたころは周りにいたことのないタイプだ。
 俺の知っている福祉系の教育係様ってやつは弛み切った肉体、どうしようもない程に耳障りな濁声の豚だ。こいつは外見からして別物と来ている。
 鍛え上げられ、筋肉質と思しき体格。なにより、声と目に宿る意志の強さ。
「訓練教官のジョン・ドゥ氏を紹介させてくれ。彼が、君たちK321グループを対象とした特別プログラムの指導担当者だ」
「パプキン氏のご紹介にあずかった、ジョン・ドゥだ。教育係である。以上だ」
 翻訳機越しの声は柔らかいが、奴の発した声の大きさ・バリトンは意志の強さに満ち溢れているようだった。俺にとっては、これまでに見た中で最も指導者としてまともそうなタイプだ。力量こそわからないが、まずまずうまくやっていければいい。
 だが、対照的に他の連中の反応は頗る微妙と来ていた。
「名無しのジョン?」 
 呆れたような疑問の声を出したのはタイロンだ。スウェーデン人・中国人のコンビですら表情が曇ってやがる。あいつらが表情に疑問を浮かべる時点で、既にただ事じゃない。
 十二分に警戒すべきだろう。だが、俺としては困ったことが一つあった。
 一体、何が問題なのかすら分からないんだが。俺にしてみれは、ジョン・ドゥという名前のどこがタイロンらの琴線に触れたのかさっぱり。何か悪評でもある名前なのか?
 ……いや、そもそも名無しのジョンとはどういうことだ。
「失礼ですが、ご本名ですか? あからさまな偽名すぎて、困惑するのですが」
 中国人の言葉で、俺は漸く状況をおぼろげながら理解する。ジョン・ドゥというのは、要するに、名前を名乗りたくない連中が使う適当な名乗りだ。
 田中とか、太郎とか、そんな感じだろうか? 
「私は教官だ。そういうものだ。諸君が内心でどう思うかまで干渉しようとは思わないが、そういうものだと理解して受け入れろ」
 ほかの奴らが何を言おうとも、聞く耳を持たないと言わんばかりの傲岸不遜さ。名無しのジョンとやらの態度には、取り付く島もない。面倒なことに社会福祉公団の収容所にいた一番厄介なゴミ屑よりも、手ごわそうだ。
「名前も名乗れないような人間が、私の教官ですって?」
 ああ、とそこで俺は忘れたかった問題を今更思い出す。白い騒音源、奴もだ。厄介なのは、教官とかだけじゃなし。
 きっと、俺のようなまともさが、世界というか宇宙には足りていないんだろう。
「常識というものをご存じないのかしら?」
 思わず、『それは貴様に必要な奴だ』という一言が俺の喉から零れ落ちかける。
 イギリスという国がどういう国か俺はよく知らないが、万が一にも眼前のイギリス人が普通なのだとすれば、世界で一番非常識なところなんだろう。
 さて、こいつをどう料理するのか。親愛なる教官様のお手並み拝見とばかりに、俺が見守る中、鼻を鳴らすなりそいつは吐き捨てやがった。
「お前らは、『大満足』に一々丁寧な自己紹介をしていたりするのか? 俺はそういう狂人じゃなくてね。そっちと違い、まともなんだ」
 俺以外にまともな人間がいたと喜ぶべきか? はっ、冗談じゃない!
 一瞬で理解できた。
 俺は、こいつが、気に入らない。そして、たぶん、こいつも俺やほかの連中のことを心底から嫌っている。侮蔑しているというのもあるか? あるだろう。
 最高の人選だ。こんな素晴らしい屑をパプキンが選ぶなんて、夢にも思わなかった。糞ったれ、パプキンのとんだ間抜けめ。その眼球は飾りか。人を見る目がなさすぎるならば、そんな目は捨ててしまえ。もしくは、地獄に落ちろ。
「彼は、歴戦の勇士だ。まぁ、しっかり学んでくれ。では、ジョン・ドゥ、よろしく頼むよ?」
「はっ! お任せください!」
 背筋をただし、パプキンに対しては敬意と礼節そのものの返答。踵
かかとを打ち合わせ、敬礼の所作までキチンとやってのけていた。
 さっき、俺とほかの連中をブースに案内した職員同様に、こちらへはぞんざい極まりない態度だ。肉体は豚じゃないかもしれないが、飼い主にしっぽを振るあたりはこいつも精神は同じか。
「では、諸君、遅れた分を取り戻そう」
 そこで教官様は軽く笑う。
「難しい話じゃない。健康診断の列に並びたまえ。ステーションの入管部分だ。整列の仕方は、ご存知かな?」
 そこで奴はついてくるように促し、ご苦労にもわざわざ最後尾まで引率の労を取ってくださった。後になって振り返れば、実際、お優しい教官様にしては例外的なぐらい本当に簡単なお題だったんだと思う。
 健康診断待ちの行列で末尾に加わり、大人しく順番待ちするだけ。奴が求めたのはたったそれだけだ。まぁ、大抵の屑は大人しくできないっていうのは真実だからな。名無しのジョンとやらにしてみれば最初の試練だったんだろう。
 なにしろ1000人近い人間の診断だ。相当に待たされるだろう。我儘な連中は、待つって文明的行為がド下手糞と来ている。海だか山だか知らないが、自然に帰ればいいものを。まともな人間のふりをした癇癪持ちが爆発する確率は半々だろうなんて、俺はこれまでの経験から覚悟していた。
 意外なことに、俺の悪い予感は珍しく外れる。
 てっきり長引くだろうと予想したんだが、戸惑うほどあっさりと行列は解消。一番遅くなるグループだと言われていたが、殆ど待ち時間らしい時間さえなく検査ブースへと俺やほかの連中は招き入れられていた。
 入室して早々、俺が驚いたのは、白衣を着た偉そうな連中の姿が一人も見えないってところだ。こんなに素早く診断が進むんだから、大勢の医者共が待ち構えているものだと思っていたが違うらしい。それなりに広い室内だが、一人の職員と5台の大型装置があるだけだ。
「やれやれ、今日のノルマは全部片付いたと思ったんだが、まだ残っていたか」
 そして、その職員はブツブツとぼやきながら立ち上がる。
 俺やほかの連中を誘導した港湾職員連中と同じ冴えない制服姿の男。こいつ一人で全部の検査を受け持つと?
「検査主任技師のハンスだ。汎星系通商連合航路保守保全委員会指定による惑星原住知性種管轄局選定により業務受託を行う国連・総督府弁務官事務所合同許認可機構によって認証される特殊宇宙保安産業防疫部とかいうのに属している」
 本人としては愛想笑いのつもりか知らないが、口元を軽く緩めた職員はそこで肩を竦めて見せる。
「間抜けのハンスと馬鹿にしてくれてもいい。諸君なんぞの相手をするわけだからな」
 なんぞ、とはご挨拶なことだ。若干、いや、率直に言って俺はかなりの苛立ちを覚えていた。舐め腐った態度の係官というのは、生理的に受け付けない。
 お互い様じゃないか。火星くんだりまで仕事にくる連中にまともなものがいる訳がない。
「とはいえ、機械は信用してくれ」
 ハンスとだけ名乗った技師は皮肉気にこん、こん、と機械を指で小突きつつ苦笑する。
「非浸食型血液検査、三次元スキャニング、後は定例の検疫を兼ねた標準検査だ。痛みもないし、あっという間に終わるよ」
 聞く限り、簡単極まりない。技師とか言っているが、整列係以上の役割をハンスとかが担っているのか俺には甚だ疑問だ。
 羨ましい限りじゃないか。安全かつ楽な仕事で、金を稼いでいるというわけだからな。
 それにしても、全自動処理のできる商連製の検査機器ってのは驚きだ。地球上では望めない最高級の待遇だろう。全てが全て、地球じゃ保険適用外の最先端医療に違いない。ヤキトリが使い捨て同然とかいう風聞の割には、随分と大げさな対応だ。そこまで、きっちりとやる理由でもあるのだろうか。
 俺が商連人の善意とコスト意識に疑問を抱きかけたところで、技師は素知らぬ顔で説明を続ける。
「一応、検査結果を再検証したりと検疫の都合で時間を使う。それでも、明日には結果がでるので今日だけは火星ステーション上層部で過ごしたまえ。問題がなければ、明日、軌道エレベーターで降りてもらう」
 ああ、とそこで奴は言葉を付け足す。
「折角なので、それまでに火星の全景を眺めるのをお勧めするがね。テラフォーミングされた中途半端に青い惑星見学ってのは乙なものだ」
 そこまでの軽口をたたき終えるなり以後の流れも説明しよう、とハンス主任技師は幾度となく繰り返したからだろうか、妙にスムーズな滑舌で言葉を紡ぎ続ける。
「過失でない健康問題が発覚した奴は、地球送還だ。鐚銭一文も支給はされないが、送還の経費は請求されない。流石に、地球から火星への移動途中に支給された給与は返済を要求されるがな」
 まぁ、それぐらいだと主任技師は俺と連中に笑いかける。
「適合しなかった運のいい奴は、火星旅行と健康診断ツアーに無料で参加したとでも思ってくれ。いい思い出になるだろう? じゃあ、さっそく整列してくれ」
 以上だとばかりに説明を終えられ、俺はあきれ果てていた。こんなことを許している商連人というのは、さっぱり理解できない連中だ。
 わざわざ火星に連れてくる前に検査しないのは理解に苦しむ。
 余程、検査に特殊な装置などがいるのだといえば、まだ、納得はできた。だが検査そのものは、ハンスが請け負ったように、あっけないほど簡単に終了する。
 痛みなんて、覚えようがないってのも道理だ。スキャニングのために機械の前に並んでくれと言われ、ゲートのようなものを潜ればそれで終了。検査よりも、技師から説明を受けている時間の方が長かったほどだ。
「ええと、伊保津明だね? アジア人の苗字と名前はいつもややこしい」
 こっちの返事を聞くこともなく、技師は俺に紙の束を押し付けてくる。
「問題なし。これが一応、君の控え。明日まで経過観察。問題があるとの通知がなければ捨ててくれても構わない。じゃ、次の人」
 俺は肩を叩かれ、前に追いやられる。やり取りはそれで、終わりだった。明日まで過ごすようにと検査後に案内されたブースは、相変わらず5人一部屋。K321は、K321で固まって行動しろということだ。
 勿論、ここは宇宙港だ。宇宙船と違い、船室と別のところで過ごすことも理屈の上ではできる。就寝時間まで、好きでもない連中と狭い室内で顔を突き合わせ続ける必要があるわけではない。そいつは、勿怪の幸いだろう。
 それに窓の一つぐらいはすぐ見つけられた。『中途半端に青い』と検査技師に形容された火星を眺めることもできる。地球の青さに比較すれば、なるほど、確かに、何もかもが中途半端だ。微かな赤味が残っちゃいるが……火の星というほどじゃない。
 一瞥の価値ってやつはあるのかもしれないが、一度見ればもう十分ってところだろう。
 そして、結局、ここは宇宙港だ。
 TUE‐2171よりは遥かに広いが、それだけでもある。まして、検疫とやらの都合で隔離されている1000人近い集団が、こぞって暇を持て余していれば、娯楽設備なんぞいくらあっても大差はない。
 有象無象がひしめく中、敢えて群衆の中へ自発的に飛び込むほど俺は酔狂じゃなかった。
 なにより、幸か不幸か俺はK321ユニットの連中に免疫を獲得しつつあった。タイロンとは上手くやっていけるし、ほかの連中とだって同室する程度であれば最低限は受容できる。白人女とだけは、しっくりいかないが……人生なんてそんなものだろう。
 要するに、我慢と妥協だ。
 俺のような出身であれば、誰でも知っている当たり前のルールと言っていい。同年代にもかかわらず、他の連中が疎いのは癪だが……俺の無限に近い忍耐心は受け入れられる。
 だが、それでも、一つだけ我慢できないことが俺にもあった。
 飯だ。
 例の『大満足』だ。最初は、船内食ゆえにああいう保存食モドキが出されるのだろうと合点していた。火星での夕食となれば違うものが出てくると期待し、信じたほどだ。当然だろう? 人間的な要求ってやつだ。
 出鼻を挫かれ、相も変わらず『大満足』が支給された時の衝撃は形容しがたい。壮絶に受け入れがたい餌を押し付けられ、茶で無理やり流し込むときの感想を言おう。
 最悪の裏切りだ。
 人を虐めることにかけて、福祉関連の人間以上に優れたやつがこの宇宙に存在しているとはついぞ知らなかった。商連ってのも、糞かもしれない。
 パプキンにご馳走されたマクドナルド程に良いものを期待したわけじゃないんだ。俺の求めた水準は単純かつ明瞭。早い話が、食べられるもの。
 それ以上でも、それ以下でもない当たり前が、ほしかっただけなんだが。
「宇宙船の食事と同じか」
 俺自身と同じように、心底からの嫌悪を声に滲ませたタイロンが呆れたようにつぶやく。
「ひょっとするとひょっとして、俺たちは素晴らしい『大満足』とこれからずっと親しく付き合っていくことになるのか?」
 疑問のようでもあり、祈りでもある言葉。そいつを否定したいタイロンの心情には、俺だって心の底から同感だ。忌々しいことに、俺は知っている。
 諦めるしかないことが、人生には多すぎるのだ。
 ふざけるなと負けん気を抱きつつ、しかし、非力さに歯噛みするしかないかつての日々を思い出せば気持ちが曇っていく。
 叫びたいような、喚きたいようなどうしようもない無力さ。そんなものを忘れたくて、俺は、宇宙に飛び出し、火星まで来たんじゃなかったのか。
 頭を悲観的な思いが占めそうになるところで、俺は考えることを投げ出す。
 堂々巡りで思考が負のスパイラルに落ち込みそうになったならば、寝るしかない。馬鹿馬鹿しい考えが浮かんでくるのを振り払い、俺はさっさと寝床に飛び込む。

 火星というか複合港湾施設で迎える初めての朝は、奇妙なほどに静かなものだった。ぶち殺したいモーツァルトがないだけで、俺は感動してしまう。
 低音ながら忌々しいまでに続いていた換気ファンの騒音も貨物船の船室に比べればマシになっているし、『宇宙酔い』由来の鼻に突く臭気すらなし! もはや、別天地だ。
 目覚めが快適であるというだけで、新鮮な驚きと感動が胸に込み上げてくる。
 らしくないことだが、俺は少しばかりの贅沢だと食事時でもないのに茶を淹れ、一服する朝を迎えていた。自分が変わったと実感するひと時とはこういうことだろう。喫茶なんて地球にいたころには見向きもしなかったんだが、貨物船での道中、味を覚えちまったんだ。なにしろ、『大満足』のえぐみは水じゃ洗い流せない。なぜかはわからないが、渋い茶の力ってやつは偉大だった。
 本当に、本当に、本当に偉大だ。
 俺としては、好奇心からにせよ、まともな空間でも茶を飲んでみようという決断が正しかったことを即座に確信していた。
 匂いだ。
 淀んだ船内循環空気は、正常だったかもしれないが、軌道エレベーター内の空気は清浄だ。空気が良いからだろう。茶の香りが分かる。これだけで、なんというか、急に文明的な気分になれてしまうものだ。
 そんな時、チャイムのような機械音に気が付き、俺は顔をあげる。視線の先にあるのは、
見慣れていたはずなのに、見落としていた例のスピーカーだ。モーツァルトをがなり立てていなかったので、存在に初めて気づいた。
 たぶん、スピーカーというのは煩くないと認識できないのだろう。イギリス人が大人しくできないのも、恐らくはそうでもしないと、視界の外に追いやられるという自覚があるからだろうか?
 どうでもいいか、と俺が心中で苦笑したところでメロディが途絶える。
 二、三度、複数の言語で翻訳機のレシーバーを耳に入れておくようにという録音アナウンスがスピーカーから巨大な音量で流れ、全員が準備を終える時間的な猶予の後、おはよう、という気の抜けた朝の挨拶と共にそいつは話を続ける。
「ごきげんいかがかな、あー……」
 言葉を探すように途切れたアナウンスが、暫くして不慣れな調子の言葉で継がれる。
「ワクセイキドウホヘイ諸君だったな。この地球側制式名称で諸君を呼ぶのは、最初で最後になるだろう。以後は、ヤキトリという通称で呼ぶ。時折は、間抜けな新品と愛を込めてチキンとも呼ぶだろうが、容赦してくれたまえ」
 こいつは、何を言っているのだろうか。
 最初は戸惑いだった。次いで、チキン呼ばわりされたことで怒り掛け、最後にワクセイキドウホヘイなる単語が惑星軌道歩兵だということに思い至る。
 そういえば、そうだった。傭兵だの、ヤキトリだの何だかんだと話しているが、俺やほかの連中は確かに惑星軌道歩兵とかいうやつで募集されていた。
「こちらは……あー汎星系通商連合航路保守保全委員会管轄星系惑星原住知性種管轄局、選定訓練施設だ。覚えなくてもいい。以後は、キッチンとだけ覚えてくれ」
 さっぱりわからない呪文を唱えているキッチンとやらが、調子を変えて説明を再開する。
「素敵な船旅の疲れで気づいていないかもしれないが、火星には地球と微妙な『時間のず
れ』がある。ここでは、一日が『24時間とだいたい40分』だ」
 少しだけ長い一日。そうか、と俺は心中で少しだけ違うってことに得心する。当たり前のことだって、そいつは地球での当たり前だ。
 宇宙には、宇宙の当たり前というやつがあるんだろう。
「大半の諸君は、一週間程度の滞在中に地球時間でいえば最終的に4時間以上生活パターンを変えることになる。火星暮らしへようこそ」
 案外と大したことがないような、大したことのような、よくわからない差だ。
「さて、古典的なSFであればここから諸君に宇宙の知識を教育するために壮大な物語が必要となるが、現実は平凡だ。必要な当該知識と記憶を転写する。さて、ヤキトリ諸君、処置の時間だ。各ユニットは案内の係員に続くように」
 必要な知識を脳に直接転写するプロセスの説明……というか案内兼誘導は単純だった。俺やほかの連中が軌道エレベーターの港湾部で寝泊まりしたのは、検疫上の要請だ。
 検疫期間さえ満たしてしまえば、限られた港湾スペースからサッサと地上におろされる。というわけで、俺は群衆の一員となって惑星上の施設へと軌道エレベーターで降下した。
 そこからは、至れり尽くせりの大歓迎だ。
 ユニットごとに整列させようと出張ってきたらしい屈強な男女が指図を飛ばし、手際よく足を進めろと繰り返す。
 まぁ、分かっちゃいたが、俺のユニットだけが格別にろくでもないって訳じゃないらしい。ほかのユニット共も酷いものだ。
 碌に並ぶこともできないでいる連中の混乱は見るに堪えない。状況を収めようとする誘導要員らの忍耐袋は早くも吹き飛ぶ。きっと、地球よりも重力が軽いからだ。忍耐もあっという間に飛び去るに違いない。
 俺が自分の耳に突っ込んだレシーバーからは、柔らかい女性の声で、色々な罵詈雑言がまくし立てられ始める。強い言葉が飛び交い、さっさと行動しろという怒声だって少なくとも三度は耳にした。
「まったく、一度ぐらいでいいからキチンと整列できるチキンを地球が送ってよこしてくれればいいものを」
 零れ落ちた愚痴を誰が言ったか知らないが、誘導作業に当たっている港湾職員連中は、無秩序な寝起きの群衆を整列させるということがどれほど呪われているか隠そうとしないらしい。
 それでも、連中はきちんと仕事を進めていく。
 塊のような群衆を解きほぐしては大雑把な列を作らせ、きちんとユニットごとに並ばせる手際は熟練なんだろう。俺も他の連中と一緒に指定されたところに並ばされていた。
 後は、順次、案内されてエレベーターで火星へ降りるまでの順番待ち。その次の組として無造作に、三つ右の連中から俺の左隣までを呼び出したところで、案内係の男が俺とほかの連中の顔をジロジロと睨み始める。
「まてよ、貴様らはK321ユニットだな?」
「ええ、その通りです」
 付き合いのいいスウェーデン人が返答するも、係員は頷きさえせず、自分の懐から取り出した端末で確認を取り始める。
 二、三、メッセージをやり取りしたと思しき間が開いたのち、そいつはこっちを列から追い出す。
「K321だけ残っていてくれ。貴様らは、別の人間が案内する」
 以上だ、とだけ言い残し立ち去っていく職員と入れ替わりのタイミングでやや疲れた表情の女性が現れ、こいつもこいつでジロジロと興味深げに視線を向けつつも誘導を始めてくれる。
 正直、奇異の視線を浴びせられるのが気になり始めて仕方がない。
 だが結局、エレベーターで火星の惑星上施設に移動するのは同じだった。中途半端に青く、ついでにいうと近寄れば赤味の目立つ惑星を眺めながら、降下したのは一瞬のこと。
 すぐに金属製の建物にエレベーターの籠は収まる。火星へ降下か、上陸か、とにかく、地表に降り立ったっていう感慨を抱く間もなく、地上で待ちかまえていたお優しいジョン・ドゥ教官様がお出迎え。
 そこで港湾職員から教官様へ引き渡され、無言でついてこいと促される。火星来訪記念セレモニーなんて期待しちゃいなかったが、拍子抜けを覚えたのも事実だ。生まれて初めて別の惑星に降り立って、日常と調子が変わらないってのは味気ない。
 反発を微かに覚えないでもないが、他に当てもない以上、俺としては教官様の背中に続くしかなかった。
 道中、せめてもの好奇心からきょろきょろと周囲に視線を走らせるが、殆ど人の影もない。一瞥する限り、だだっ広い施設はどうにも呆れるほど閑散としている。初見の印象では、あまり使われていないような雰囲気だ。それでも床に目を向ければ塵一つ落ちちゃいない。さっぱり訳が分からないとはこのことだろう。
 分からないが覚えておけばいいか、と俺はため息を飲み込む。そんなことに思いをはせた挙句、おっかない教官様に遅れることになれば、そっちの方が大問題だ。
 とはいえ、広い施設だって人気の方が少ないんだ。見失ったり迷ったりなんてことはありえない。ほどなく歩いたところで、到着する。
 たどり着いたのは妙にコケ脅しじみているというか、やたら重厚そうな扉で防護された一角だった。
 そこで扉の隣にあるパネルに教官が手をかざすと、いきなりライトが教官めがけて照射され、暫く光った後に扉本体がゆっくりと開きだす。
「何をしている? すぐに入れ」
 促され、処置室に足を踏み入れた俺が目の当たりにするのは……がらんとした室内に鎮座する黒い卵のような機械だった。
 同時に、俺は機械の傍に二足歩行する犬顔の哺乳類とパプキンがいることにも気が付く。
昨日、パプキンを訪ねてきたのと同じ種類だろう。ひょっとすると、同一の個体かもしれない。
 二人というか、一人と一匹というか、悩ましいが、とにかく連中はこちらの入室に気が付いたらしい。他の職員連中同様に、観察するような視線を寄越していた。
 もっとも、商連人の動作は単に確認のようなものだったらしい。興味が尽きたのか視線はすぐにそらされ、隣に立っている胡散臭い笑顔のパプキンへ何事かを話しかけ始める。
 内緒話だとすれば、ぜひとも様子を窺いたかったのだが、教官様が口を開くので俺はそっちへ視線を移す。
「諸君、このコクーンが記憶転写装置の一部だ」
 卵のような装置だろうか? 教官が指さすのは、よくわからない黒塗りの円形の機械だ。
中に入るということはなんとなく察しが付くが、入ってどうするんだ?
「諸君は、中に入り椅子に座る。一応、補正されるが大きな身動きはしないことをお勧めしよう。貴様らの脳みそが繊細かどうかは知らないが、転写中に暴れた結果、脳を沸騰させたくはないだろう?」
「……技師や医者はいないのでしょうか?」
 お飾りにせよ、健康診断に検査技師はいたもんだがと俺は中国人の疑問に頷く。
「ズーハンだったか、良い質問だ。こいつは、完全自動化されている。諸君の健康診断時のデータを元に、きちんとやり遂げてくれるわけだ」
 つまり、だから健康診断を火星でやったと? データがリンクだか、なんだか、よく知らないが関係しているんだろう。説明されても分かる気がしない。そういうのが好きな奴以外、誰も興味の持ちようさえないだろう。
「下手に暴れでもしない限り、人体に悪影響はない」
 どうも、不安になる投げやりな説明だ。健康診断だって、雑とはいえハンスとかいう技師がもう少しぐらいは明瞭に説明してくれたものだが。
「なぜ、私たちだけだと?」
「非常にいい質問だ、アマリヤ。諸君が将来有望なプロジェクトの候補だからだと繰り返し説明させてもらえばいいかな?」
 分かりきった話だろうと切り上げ、教官は不愉快気に鼻を鳴らす。大方、将来有望ってのは上司にあたるパプキンの手前、嫌々つけたんだろう。
「質疑応答の時間ではないんだ。わかったならば、コクーンの中へ」
 そうだ、とそこでジョン・ドゥは俺や他の連中が肩からぶら下げている翻訳機を指さす。
「金属部品はすべて外せ。規則だから付け加えておくと、自分の体をトーストしての自殺願望ありの場合は申告してくれ」
「教官、申告した場合はどうなるんで?」
 面白がった表情でタイロンが茶化すも、教官様はそこでくそ真面目に吐き捨てやがる。
「機械は貴様らチキンに壊されるには高価すぎる。商連にしては異例かつ大盤振る舞いながら、無料で安楽死の手配をしてやるぞ」
 物騒な脅し文句だが、それがブラフだと笑い飛ばすこともできない。道中、俺は商連人がどこかずれた連中だと学んでしまっていた。
 ひょっとすると、そんなことでさえ、ありえるかもしれない。
 だから、俺は素直に助言を受け入れることにする。ぶら下げていた翻訳機を下ろし、ついでに念の為に金属製の部品がないことを確認してからコクーンと呼ばれていた装置に入る。
 といっても、全自動とやらは謳い文句通りらしい。
 アームが俺を固定し、椅子からずれないように固定。頭部に至っては訳の分からない素材でがちがちに束縛される。
 入り口が密閉され、完全な暗闇に包まれたのは若干おっかないが、まぁ、許容範囲だ。
 だが、そこからは、酷かった。
 唐突にモーツァルトの曲が流れだしたかと思えば、俺は猛烈な頭痛に襲われる。次いで、喉を突く腹からこみあげる強烈な吐き気だ。
 いっそ、吐いてしまえば楽になるのだろうが、どうしてか、吐けない。全身がなぜか形容しがたい倦怠感につつまれ、暗闇のはずなのに目の奥がチカチカとして眩暈まで引き起こされる。
 どれほどの時間、そんな感じで痛めつけられていたかもわからない。
 気が付けば、俺は『解放』された。というよりも、ご丁寧にアームに背中を押され、コクーンから吐き出される。
 ふらつく両足で踏ん張ろうとするも、平衡感覚が壊れきって真っすぐ立つことすらおぼつかない。倒れそうになり、思わず這いつくばって転ぶ羽目になるのを避ける。
 だが、下を向いたのは失敗だった。次の瞬間、こみあげてくる吐き気にえずいてしまう。なのに、吐けない。
 挙句、頭の左奥、ガンガンと響く鈍い痛みに耐えかね頭を押さえつつ俺は吐き捨てる。
「何が、人体に、悪、影響は、ない、だ」
 俺は、その時、日本語で呟いた……はずだった。
「日本、人、黙り、なさい。声が、響く!」
 鋭い、頭に響く声。
 叫び声だが、しかし、これは、理解できる。
 出来てしまう。
 あいつめ、喋れるならば、
 最初から、日本語で話せばいいものを!
「い、いぎ、りす、人、はな、せるなら、さいしょから、にほん、日本語、で」
 しゃべろうとすると、頭が痛む。おまけに、上手く舌が回らない。どうしてしまったんだろうか、俺は。
 糞ったれめ、と悪態をこぼす間もなく頭を抱え込んだ俺に上から言葉が投げかけられる。
なんでか分からないが、その言葉も俺には理解できた。
「はいはい、そこまでだ。会話できるようになる驚きを仲間内で分かち合うのはいい。さらば、バベルってね。ポスト・バベル時代の到来をスリランカ語で言祝ぐのもいいが、今だけは無理にしゃべらないことだな」
 こっちの疑問や反応を観察でもしていたのか、パプキンが紡ぐ言葉に俺は反論しようにも気力がなかった。
 たぶん、タイロンあたりも同じだろう。
「ジョン・ドゥ氏が後で説明してくれるだろう。諸君、今はベッドへ向かうことだ」
 無情にもそれだけ言い放つパプキンだが、傍にいる商連人はもう少しだけなんというべきか……変な表現だが、人間味があるらしい。
「思ったよりも、反応が芳しくないが」
「ウェルニッケ野とブローカー野へ負荷が増えるのは当初から想定されていたパターンでしょう。極端な拒絶反応ではありませんし、問題のない範疇かと」
 訳の分からないことを話しているのが分かるが、しかし、会話が拾える。レシーバーなんてとっくの昔に放り出しているのに、何故だ?
「問題なしだと? パプキン、調理師としての腕は認めるが本気か。彼らが、同意してくれるのか? そのようには、とても見えないが」
 商連人に、同意だ。
「何が、問題、の、ない、範疇、だ」
 まともにしゃべることすら怪しいのに、影響がない? この頭痛は? 吐き気は?
「焼き付け処理の影響だな。まぁ、そのうち舌は回るようになるとも。どうだね、言語障壁のない自由コミュニケーションの味は」
 愉快そうに問われたので、俺は、気力を振り絞って吐き捨てる。
「へ、どが、でる」
 そのまま床に唾でも吐ければ様になったのだろうが、現実の俺は再びえずくだけ。
「パプキン、拒絶反応ではないのか?」
「エッグス武官、ただ嘔吐しそうだという表現ですよ。装置の制吐作用が切れている。順調な回復の傾向です」
 殴り飛ばしてやる気力がないのが、残念極まりない。俺は、食いしばりながら頭痛に耐えるしかないのだ。
「では、後はこちらで」
「よろしく頼むよ、教官」
 諸君も後ほどまた、と手を振ってパプキンらが退室していく足音すら、今のこっちには頭の鈍痛という形で響く。
 せめて、足音を立てずに出ていけ! この鬼畜どもめ!
 声なき叫びが響く処置室の中、呻くのにも一苦労なこちら側に話しかけてきたのは教官だった。
「広い療養スペースを用意してある。二、三日の間は寝て過ごせ」
 以上だ、とそっけなく短いセリフは簡明で今ばかりは歓迎できる。頭に響かないならば、なんだっていい。
 が、意外な人間が俺の頭に鈍痛を巻き起こしやがる。今の今まで呻いていただけのスウェーデン人が、意を決したとばかりに口を開きやがった。
「い、痛み、止め、を……」
 スウェーデン人の希望に対し、教官様は残念だが、とちっとも残念そうでない残忍な歓喜すら宿した声で続けやがる。
「脳への定着を阻害するのでな。痛み止めの類は禁忌だ。隠して持ち込めている奴がいるとも思わないが、二度と起きない覚悟があれば睡眠薬やら鎮痛剤やらを使いたまえ」
 そこで奴はご親切にも言葉を続けやがる。頭に響くんだよ、いい加減、さっさと黙ればいいものを!
「カフェインだけは、制限されていないぞ。茶と『大満足』の摂取は推奨されてすらいる。まぁ、優雅な火星生活を楽しんでくれ」
 改めて、以上だ、とそいつが告げてくれた内容はなかなか素敵な響きだ。貨物船に詰め込まれると告げられるのといい勝負だろう。
 処置後の適応期間というのは、しかし、想像よりもよほどマシだった。
 第一に、吐き気は一度吐き出すだけで綺麗さっぱり収まる。そいつはそいつでありがたかった。だが何より、地上ってのは匂いが循環する悪夢と無縁だってことに大万歳だ。
 案内されたというか、放り込まれた寝台で数時間も横になっていると、だいぶ頭痛もマシになる。舌がマヒしているからか、『大満足』のえぐみが気にならないのは不幸中の幸いだ。
 餌を流し込み、茶を少し飲み、痛みを紛らわすように枕へ頭を押し付けてただただ目をつむる。そんな生活を一日ほども過ごしたあたりだろうか。
 俺の頭を締め付けるような、とにかく形容しがたい痛みは……実にあっけなく、どこかに消え去っていた。
 回らなかった舌も、きちんと元通り。
 そして、訳の分からないまま喋っていたというか、俺がほかの連中と揃って頭に焼かれた言語の正体も掴むことができた。
 なんでも、こいつは、商連公用語らしい。正式名称は、スペース・リンガ・フランカ。ただ、誰一人としてその呼び方をするやつはいない。こいつのことを、宇宙に出た人類は短縮形のスリランカ語と呼んでいた。たぶん誰か、しゃれた人間が昔にはいたんだろう。
 そりゃあ、あれだ、誰もスリランカ語なんて地球で知るはずもないわけだ。
 そして、余裕が出てくれば噂話に耳を傾けることも可能になる。
 他の連中と違い、K321の面々は離れたところで処置を受けたんだが、理由はわからん。たぶん、パプキンが再三強調している『新しいなんとか』が原因だろう。
 どちらにしたところで、最終的には同じエリアで共に頭痛を分かち合ったってことで俺はあまり気にしていない。
 他所のユニット連中と合流し、大勢のヤキトリ共と揃ってスリランカ語で会話を交わし、ついでに施設内の文字が読めるという恩恵は便利だった。通訳用の機械がないだけでも、気分が随分と軽くなる。
 それに、施設設備の案内を読み漁るのは最高の暇つぶしだ。大したことがないにせよ娯楽設備があることを見つけたときは俺だって興奮した。退屈を持て余していたこともあり、即座に足を運んだぐらいだ。
 ……残念なことに、俺には、しかし、縁がないということをすぐに理解する羽目になって部屋に戻ったが。
 そうして、俺は夕食として支給され空になった『大満足』のチューブをゴミ箱に放り込みつつ、手持ちの金が乏しいことを痛感していた。
 いや、金がないわけではない。俺の給料は支払われている。商連は、そこは、律儀にきっちりと払っていた。電子口座に振り込まれたやつは、必要とあれば電子決済だろうが何だろうが自由に使える。物は試しと試してみたが、タイロンの奴に通信枠を売り払った分の代金は奴の口座から移ってきたし、逆もまたちゃんと機能した。
 久しぶりに、手元に金がある状態ってことだ。にもかかわらず、俺は金不足に直面していた。問題は、火星の娯楽設備で本物の食事(唯一、かつ、まともなものだ)を出すマクドナルドと、ちょっとした嗜好品のPXってやつに掲げられている値段表だ。
 勿論、違う飯が食べられるのはいいことだろう。だが、『本当の料理』というのが火星でどんな値段かわかるか?
 一週間分の稼ぎだって、火星マクドナルドの一食分にも届きはしないだろう。理由は単純だ。商連の連中、食事は『大満足』を供与しているので食品には『地球──火星航路』の運賃と検疫費用その他をきっちりと乗せやがった。
 唯一の慰めは地球上で支給されたきりの『茶』がPXで売っていたことだ。正直、こいつも安いとはいいがたいが、普段飲んでいるやつと違うのがあるのは悪いことじゃない。
 茶なんて馬鹿げた上に高くつく趣味だと笑い飛ばしていたが、火星への道中、俺は考えを変えていた。ズーハンとかいう中国人は気に入らないが、奴の先祖が湯と茶葉という組み合わせを教えてくれたことには感謝するべきなのだろう。
 悩みの種は、やはり値段。とはいえ、これは、今の手当で手が出ないという話に過ぎない。正式な試験に合格すれば手取りも増えるし、何より『茶』が割り増し支給されるとかいう話だ。
 そして聞いた話じゃ、訓練ってのも割と簡単に終わるという噂だった。
 キッチンのアナウンスでも、一週間ぐらいの火星生活と言っていたことを思えば、純粋な訓練期間なんて二、三日か?
 パプキンの奴が、K321は長期間にわたって火星で訓練をなんて言っていたが、どうなっているんだか。いずれにせよ、俺は、明日からいよいよ火星の土を踏む。形だけの地表じゃなくて、施設外で火星の大地を踏めるわけだ。
 どうせ一週間なんてやれることは限られたもんだ。訓練とやらも、適当に形だけ済ませて、他のところで専門的なのはやるとか、とにかくその後の指示ぐらいパプキンからあるだろうぐらいに思い、俺は眠りにつく。
 その翌日、俺は指定された区画へ時間通りに顔を出していた。
 ブースに足を運べば、見慣れた顔が四つだけ。タイロン、スウェーデン人、イギリス人、そして、中国人。
 他の連中と一緒だとばかり思ってた俺としては、若干だが面食らう。
「この面子だけだと?」
 みたいだなと相槌を打つタイロンが不思議そうにしているが、俺だって首をかしげたい。
指定されたのは、演習グラウンド前のゲートブース。
 訓練で使う武器ぐらいあるのかと思ったが、見渡したところで何一つない。
 何、一つ、だ。
 文字通りにがらんとしたグラウンドと、火星の表面世界と施設を区切る大きなゲートが一つ鎮座しているだけの空間。それで全部だ。
「こんなところで、何をやるっていうんだ?」
「新しい教育プログラムとかいうやつだろう」
 俺の呟きに対し、律儀に反応するスウェーデン人の推測。新しい何かというのは、いい線をいっているのだと思う。たぶん、その通りだ。ほかの連中と俺やこいつらが分けられているんだから。
 ただ、と俺は思ったところを口に出していた。
「正直、こいつは胡散臭いぞ」
 訓練っていったって、何をするんだ、こんなところで。
「モルモットにされているんじゃないかという危惧はあるわね。……でも、案じるばかりでも仕方ないでしょう。わかっているとは思うけど、最低限、やるべきことはやらないと」
 言葉が分かるからと言って、親しく交流し得ないのは変わらないらしい。イギリス人の持って回ったような言い回しは、どうにも好きになれない。
 なにより、その上から目線は受け付け難い代物だ。
「なんだって、一々人に説教をせずに話すことができないんだ?」
「何ですって?」
 俺はやれやれ、と首を振る。
「言葉が聞こえるのに、理解できない振りか? 何様のつもりかと……」
「みんな、教官よ」
 中国人が警告の声を小さく発し、そこで俺は漸くこちらに向かってくる人影に気が付く。
小さな粒のような点だが、良くもまぁ、こいつも気づいたものだ。
 ノッシ、ノッシと歩いているはずだが、奴はあっという間に眼前へ姿を現す。
 こっちはたった5人だ。だというのに、全員が揃っていることをわざわざ確認するべく、そいつは俺や連中を一人一人数え、睨みつけ、そして、満足げに腕を組む。
 教官様は、ひょっとして指以上の数が数えられないのだろうか? 俺としては、前途に対して早くも不安になってくるのでやめてもらいたいものだ。
 そんな気も知らず、奴は俺や他の奴らを睥睨し口を開く。
「訓練を開始する前に、一つ、要求したいことがある。貴様らは、俺の言うことを聞け。以上だ。口答えは許さん」
 何事かをぽつり、とイギリス人が呟いたのを地獄耳が捉える。
「『こういうのを、省くんじゃなかったの?』か、そこのやつ」
 軽い殺意を漂わせながら教官はニヤリと笑み……に見えるような表情を造る。
「スリランカ語以外を使ったからと言って、ごまかせると思うな。クイーンズで罵倒してやろうか、そこの没落階級。身の程を弁えろ」
 イギリス人が分かっているかどうかはさておき、これはジャブみたいなもんだ。この手の連中が、こっちを激発させようと挑発してくることは社会福祉公団の収容所で嫌というほど知悉させられた。分かりきっている話じゃないか。
 敢えて怒らせ、叩きのめし、上下関係を叩き込む手口だ。そんな馬鹿に付き合ってやる道理なんぞなし。
「さて、貴様らを俺が罵るのは自然の道理だ。貴様らチキン共と俺では、程度が違う。俺は失敗した降下作戦に二度参加している。意味が分からなければ、それはそれで結構。鳥頭なりに覚えておけば、それ以上は求めない」
 自慢か? 二度の降下とやらが、どれほどのことか分からないのがちょっと面倒だ。くそっ、宇宙に出てからというもの、こういうことばかりなのは予想外だ。
 こいつらのいう基準、標準が分からないのは俺の弱点だった。糞面倒な。
「だが、貴様らウジ虫同士でいがみ合うのは自然の理に反している。目糞鼻糞を笑うというのは、チキンシットも同然だ」
 チキンシットという言葉は聞き取れても、その意味が分からないのだ。翻訳機の時もそうだったが、単語の意味が分からないのが若干多い。
 空気の清浄と正常じゃないが、商連の仕事は、どうも、雑な感じだ。
「ここ数日、どうにも目に余った。次に、俺の前で、〇〇人という呼び合いをするアホが居れば、それを放置している間抜け共々連帯処罰だ」
 理解しておけと教官様は仰せ遊ばす。
「覚えておけ、お前たちは全員がヤキトリだ。それどころかヤキトリ以前のチキンであって、日本人だとか、アメリカ人だとか、はたまた馬鹿げたアングロサクソンだとかじゃない」
 お友達ごっこをやれという優雅な表現を、こうも変則的に指示されたのは俺にとって生まれて初めてだ。教官様の語彙力とやら、いやはや、意外に豊富らしい。
「慈悲がほしければ、ターキーにでも生まれ変われ。貴様らはチキンだ。それも、半生の焼かれかけだ。出来損ないだと言っていい」
 なんだって、ターキー?
 さっぱり訳が分からない。
「頼むから、俺を絶望させるな。貴様らのような低脳に無理難題だとは理解しているが、俺も仕事なんだ」
 取りあえず、こいつが挑発しようとしていることだけは理解できる。たぶん、それで十分だ。俺はこいつが気に入らないし、たぶん、奴は奴で俺が気に入っていない。
 だから、あいつの言葉を一々まともに受け止める理由もない。福祉関係の豚共に対するのと同じだ。大抵の戯言は適当に聞き流し、必要なところだけ拾っていけばいいだろう。
「せめて賞味期限が切れる前に、さっさと訓練を終えてくれ。品質試験に合格してくれれば、俺は、お前たちの御守から解放されて安眠できるんだ」
 分かっていれば、罵詈雑言というのは聞き流せる。腹に来るか? 来るに決まっている。
だが、それが相手の目的だと分かっていれば別だ。
「貴様らが出荷できる程度にまともなことを祈るしかない。だが、神とかいう偶像が死んでいるのは知っているだろう? 大丈夫だ、俺は神ならざる商連人に祈る」
 雑音が今日は酷いなとばかりに俺は眉を顰めつつ、モーツァルトの方が殺意を掻き立てられたことを思い出す。狭い空間で延々とリピートされ、睡眠すら遮られることに比べれば、名無しのジョンとやらがどれだけ叫ぼうともたかが知れている。
 そして、それは、一人で滑稽に怒鳴り続けている教官様も気づいていたらしい。
 こっちが俺以外の連中も含めて全員が『礼儀正しい』沈黙を守っていることに軽く舌打ちしつつ、話を切り上げに行く。
「さて、一応説明しておこう。諸君の鳥頭で理解できるかは知らないし、期待するほど俺も目出度くはないが、キッチンは地球じゃない」
 なんてまぁ、ご丁寧なんだろう。教官様は、ここが地球じゃないってことを、わざわざ教えてくれるんだ。……言われずとも、分かるんだよ、この糞野郎。あからさまな挑発だって、ムカつくのはムカつくんだがな。
「貴様らを地球から連れ出し、火星のテラフォーミングをし、挙句は給料さえ払うのは商連が慈善家だからってわけじゃない。ひとえに、必要に迫られてのことだ」
 教官様の空疎な言葉に続き、本題が放たれる。要するに、商連軍は惑星作戦に参加する全要員が母星以外でも訓練を受けることを義務付けているってことらしい。地球生まれのチキンだって、火星で焼かれないと品質管理上は出荷できないって算段だ。
 凄く勉強になる。
 日本の教室を思いださせる学習効率だ。素晴らしい教師のおかげで、毎年毎年大量の落第生を生み出すにふさわしい。
 白けた思いで過去に浸っていた俺ほどではないのだろうが、他の連中だって別段、楽しんで聞いちゃいなかったんだろう。場の空気がどうしようもなく淀み始めたところで、教官様は手を叩く。
 ああ、ようやく、終わりか。
「金のために宇宙くんだりまできた最底辺共、では、マラソンといこう。地球よりも低重力なんだ、さっさと走れ!」
 掛け声とともに、教官様はゲートを操作し、扉を開ける。いよいよ、野外演習場にせよ、
火星への第一歩だ。ほかの連中に先んじて、新しい世界へ踏み出そうとゲートを潜ったところで俺は違和感に気が付く。
 なんだ、これは。
 宇宙から見たときとは、違っていた。中途半端な青さはどこだ? 真っ赤な大地じゃないか。いや、火星の地表が赤いってのはいいんだ。
 問題は、空気だ。ゲートの外に立った瞬間から、何かが違う。俺はテラフォームされた惑星にいるはずじゃないのか? 息が苦しいのは、なんでだ?
 なんだって、地上で溺れたように喘がなきゃいけないんだ?
「さっさと走れ! ゲートで立ち止まるな!」
 背後から捲し立てられ、俺はぎょっと後ろを振り返る。
 信じられない。
 なんだって、教官は、こんなところで、こんな息苦しい中で。
 声を張り上げられるんだ。
「火星の重力が軽いからといって、さぼりか!?」
 あいつの、肺は、どうなっているんだ?
「息ができなければ走るもくそもない。呼吸法と体の動かし方を覚えるためにも、走れ! チキン共、走れ! 走って、体で覚えろ!」
「覚えろ、って」
 どうやれっていうんだ、と反論しようとした俺を力いっぱいに突き飛ばし、ジョン・ドゥは叫びやがる。
「うだうだいうな!」
 全員に対し、二度は言わないとばかりにそいつは叫び続ける。
「走れ! いいから、走れ! 口先だけの愚図共、出来もしないくせに鳥頭で一々考えるな。言われたとおりに、さっさと走れ!」
 そしてK321に属する全員が、教官に追い立てられマラソンとばかりにほのかに赤みを帯びた大地の上を走り続けることを強要される。
 そこからのことは、思い出したくもない。
 俺はその日だけで、商連人のいう正常の『正しい定義』とやらを自分の体でもって理解する羽目になった。
 嫌になるような惨めな経験でしかない。
 だが、上には上があった。いや、下か?
 翌日に待ちかまえていたのは、『惑星軌道歩兵技術評価演習Aプロセス』とかいうやつ。
俺やほかの連中が、後にフィールド・テストと理解することになる代物だ。いうなれば、チキンがしっかり焼けてヤキトリになったことを証明するための、ユニット対抗で行われる模擬戦闘ってところか。
 そこで、俺は劣等感を覚えるほど記憶転写装置の威力を無様に味わうところとなる。努力も、工夫も、最新技術の前にはあっけなく踏みにじられるってやつだ。
 商連の力ってやつを、初めて、俺は、屈辱と共に噛み締めていた。
 記憶転写装置ってやつで、俺はスリランカ語を焼かれている。それだけで、喋って読んで、書くことすらできるってのは大したもんだろう?
 K321以外のユニット連中と話していたって、その辺で差がないのですっかり忘失していた。
 他の連中は、スリランカ語以外のデータもちゃんと焼かれていた。火星にたどり着いた際、『必要な当該知識と記憶を転写する』って言われたのは本当だったんだ。
 早い話が、あっちこと、K321以外の連中には『戦闘技術』も『戦術知識』も『連携』のやり方まで頭に焼きこまれていやがった。
 こっち側? はっ、どうしようもないさ。
 頭の中にあるのは、スリランカ語だけ。命乞い以外に、どうしろと? それどころか、火星の特異な環境で溺れる始末だった。動くか、動けないか。そんなレベルだ。
 火星の環境でのたうち回るのはK321側だけ。他方、こっち以外の連中ときたら標準的な記憶転写のおかげで準備万端ときやがる。
 軽やかに迷わず動く奴らが、羨ましかった。実際、連中は何をすべきか全て知っていたんだ。全部だ。何一つ残らず、奴らは知っていた。
 なぜならば、奴らの頭の中には、書き込まれていたからだ。
 たった一日の転写処置で、奴らはチキンを脱しヤキトリとして完成済み。
 そんな状況で、いきなり技量テスト。各ユニット対抗で演習に放り込まれた結果は、悲惨極まりない産物になる。
 戦績は、3戦3敗だった。
 敗北率は100%。
 成績表が手元にあるが、笑えて来る。
 生存性:F(著しく劣悪:生存の見込みなし)
 戦果:F(著しく劣悪:戦意に疑義あり)
 戦術貢献性:F(著しく劣悪:任務概要の理解が疑われる)
 個人戦技評価:F(著しく劣悪:サボタージュ同然である)
 総合評価:F(著しく劣悪:速やかな改善が可及的に必要)
 元は優等生だった俺としてみれば、久方ぶりにFの羅列を見た思いだ。著しく劣悪って言葉は、胸を抉る。当然、不合格率もきれいに100%だ。
 これ以上、悪い結果なんて残しようがないだろう。
 全敗全滅。
 ある意味、当然の結果だろう。
 最初の演習なんて、呼吸すら難しかった。教官様が無理やり取り付けた演習用の電子判定装置が全滅判定を告げてくれたことすら、理解できなかった。
 漸く二度目で、電子判定装置を理解したが三度目の演習まで、渡されたニードル・ガンの使い方さえ教えられず、俺は何をすべきかさえてんで分からなかった。
 そして、全滅だ。F判定だって、そりゃ、当然そうなる。
 ニードル・ガンを構えることから学び始めるK321ユニットは、文字通り、鴨だった。演習場に放り出され、ポカンとしている間に全滅判定。
 俺だって、逆の立場であれば、喜々として狩りにいそしんだことだろう。他のヤキトリ共は同じ初めてのくせに、何をすれば良いか十二分に知っていたんだから、当たり前だ。
 とにかく、こういう次第だ。
 キッチンのオーダーに対し、俺とK321ユニットは惨憺たる結果で応じていた。教官のジョン・ドゥはいつも、呆れ顔で俺とほかの奴らを罵る。こんな結果か、と。侮辱されるのは腹に来る。
 はっきりいって、これがこっちのせいじゃないのは明らかだろう。俺のせいじゃない。まともに考えれば、分かるはずだろうに! 肝心の教育係は怒鳴り散らすばかりとくれば、全然教育の効果とやらがでないのも必然だ。
 こんなことを続ける意味があるのかすら、俺にしちゃ酷く疑わしい。
 ジョン・ドゥが何を考えているのかはさっぱりだ。或いは、奴が何も考えていないということさえあり得る。
 どっちにしたって、これで決まりだろう。パプキンのいう胡散臭い新教育プログラムとやらは完膚なきまでに大失敗だ。当事者である俺が断言してやる。こいつは、ダメだ。ほかの連中も、その点で意見は似たようなものに違いない。
 付き合わされている俺は、とんだ馬鹿だろう。
 糞ッ、糞ッ、糞ッ!
 ……なんだって、俺は、こんな羽目になっているんだ! 大学への出願と同じで、俺が、俺が、活路を求めると、いつも、躓くのはなんでだ!?
 パプキン、あの疫病神め。ジョン・ドゥ、その犬め。
 まともな戦いをさせろ。俺は、ただ、的になるために来たんじゃない。


……地獄の訓練とヤキトリたちのその後は、本篇でお楽しみ下さい!
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