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『2022年 地軸大変動』が9月16日刊行!著者によるあらすじを公開

実業家としても知られる松本徹三氏による超近未来シミュレーション小説『2022年 地軸大変動』が、9月16日(木)に刊行となります。
その発売に先駆けて、著者による本作のあらすじをnote限定で無料公開いたします。

■著者からのメッセージ

読んで面白い「新しいタイプのSF小説」にすることを心掛けましたが、執筆の動機は「世界の将来をより深く洞察する」ことでした。

人間とは何か? 理想主義やヒューマニズムは生き残れるのか? 
人類は自らの科学技術による破滅を免れ、安定した未来を築き得るか?
地球上から全ての国境をなくし、恒久平和を実現することは可能なのだろうか? これらがこの本の隠されたテーマです。

前提となっているのは「異星人の漂着」という荒唐無稽に近いものですが、突然の危機に晒された地球人の対応は、国際社会の現状に根ざした緻密なシミュレーションに基づいて、丁寧に描きました。(ホワイトハウス内での議論や国際的な会合の様子などを書くに当たっては、元駐米大使の藤崎一郎さんのご意見もいただききました。)

SFファンの方々に「ジャンルとしての新機軸」として評価していただきたいのは勿論ですが、SFはおろか科学技術全般に全くご興味がない方々も含め、老弱男女を問わず、できるだけ多くの方々に読んでいただき、「私たち(人類)の将来をグローバルなスケールで共に考える」ことができれば、著者としてはとても嬉しく思います。

■あらすじ

旧友との再会、そして異星人との遭遇
2022年2月のある日、日本人のルポライター速水俊雄と米国国務省の若手女性官僚スーザン・マクブライドは、ベネズエラの首都カラカスのホテルのバーで偶然邂逅する。二人は20年近く前にホノルルの高校で同級生だった。俊雄の父親は日系三世の米国人、母親はドイツ系と先住民族の混血(メスティーサ)だったが、母親は混乱期のベネズエラで消息を断っていた。スーザンの父親は米国の有力な上院議員、別れた夫のポール・サイモンはユダヤ系で、CIAの分析官としてイスタンブールに駐在していた。

二人はカラカスでの仕事を終えた後、観光目的で(俊雄の場合は「失踪した母親の手がかりを掴む」目的も兼ねて)ギアナ高地を訪問するが、そこでセルヒオ・ロペスという見知らぬ人物から、テーブルマウンテンの上にしつらえられた地下空間に招かれる。彼は「自分は今は地球人の身体を借りてはいるが、地球から36,000光年離れたブラックホールに近い天体からきた『ショル』という知的生命体で、本来の名前はバンスル・モルテという」と自己紹介する。

それから4時間以上にわたり、二人はこのバンスルという『ショル』から、彼らの『三性生殖生物』としての特性や、彼らが住む母惑星、彼らの進化の歴史、その社会や技術や哲学について、詳細なレクチャーを受ける。しかし彼が、想定外の事故によってただ一人で漂着した「この地球という銀河系の辺境に位置する惑星」のことをことのほか気に入ってしまい、仲間たちを誘ってこの地に植民する計画を立てていると聞くと、二人はさすがに愕然とした。

しかもバンスルは、「自分たちにとってより快適な植民地を作るためには、風光明媚で標高の高いアンデス山脈の南部全体を赤道直下に位置するように地球の地軸を変え、そこが一年中強い直射日光を浴びるようにすることが必要」と考えていたのだ。この為には、現在赤道直下にある、太平洋のど真ん中のクリスマス島を北極点に、ゴリラの生息地として有名なコンゴ民主共和国のサロンガ国立公園の近傍を南極点にする必要がある。

彼はすでに全ての国連加盟国の首長にこのことをメールで通知しており、スーザンと俊雄の二人に対して「自分はもうこれ以上地球人と接触するつもりはないので、地球人がこの事態にどう対処するかは、二人に委ねる」と一方的に伝えた上、地下施設に格納されていたUFOのような「少人数用の近距離宇宙船」で二人をワシントンD.C.に送り返した。事の重大さと責任の大きさに圧倒されながらも、二人は「人類の為に自分たちにできることは何でもやるしかない」と腹を決め、すぐに活動に入った。

父親の支援にも助けられたスーザンの理路整然たる報告には説得力があった上に、国防省が即座に行った空陸の威力偵察が不思議なバリアの力で簡単に跳ね返されたこともあり、ホワイトハウスは熟慮の結果、世界各国に対して「バンスルが予告した全てのことは実現する可能性が高い」と発表した。バンスルが世界各国の首長に送ったメールは、それまではどの国でも悪質な冗談としか受け取られず、そのまま放置されていたが、これによって全ての国は態度を一変させた。

変わりゆく世界地図
世界中が極めて迅速に、この驚天動地の状況を信じるに至ったのには、もう一つの理由があった。バンスルは、地球人が自分の言うことを容易には信じず、何の準備もしないだろうということを予期していたので、それを防ぐために一つの警告を行い、それを実行した。それは無作為に選ばれた二つの都市、米国のサンディエゴと中国の杭州への強力なウィルスの散布であり、バンスルは「居住民全員を退避させなければ多くの死者が出るだろう」と警告した。米中両国の政府は、この警告を真剣に受け止めはしたものの、全居住民に退避を強制するところまでは踏み切れず、戒厳令による外出禁止にとどめた。結果として両都市では、それぞれ全人口の3%程度が失われたものと推測された。バンスルが言ったことは全て寸分違わず実現したので、「もはや彼の言うことは全て信じるしかない」と誰もが考える状況に、世界中は否応なくなっていったのだ。

もっとも、そこに至るまでには様々な混乱もあった。「みんな騙されてはいけない。実はエイリアンなんて存在しないのだ。これは、欧米の白人どもが、昨今のアフリカでの人口増大に恐れをなし、架空のエイリアンがしたことに見せかけて地球の地軸を変え、アフリカ大陸を南極にして、アフリカ人を絶滅させようという恐るべき陰謀なのだ」と、誰かがネット上で言いふらしはじめたのが発端だった。この「陰謀論」は、まずは米国で、それからアフリカ全土で、燎原の火の如く広がっていった。アフリカの至る所で、白人や、今や白人に準じるとみなされるに至っていた東洋人は、見境なく襲われ、暴動や放火が頻発、治安維持の為に大量の国連軍兵士が次々に送り込まれるまでは、アフリカ中の各都市は完全に機能不全に陥った。

バンスルが予告した「地軸変動計画」によれば、30日後には地球の自転速度が遅くなり始め、それから90日後には完全に止まる。それから4日間かけて地軸の向きが変わり、南北の極点が新しい地点に定まった時点から再び自転が開始され、その45日後には現在の自転速度の半分に達し、そこで速度が固定されることになる。それ以後は、一日の時間は現在の二倍になり、世界のどこでも四季はなくなり、熱帯地域はあくまで暑く、寒帯地域はあくまで寒くなる。その間もその後も、各地の天候は全く予測不可能になり、これまでには全く予測できなかったような暴風雨や異常気象が各地を襲うだろう。これにより農業は世界中で壊滅的な被害を受け、世界の食糧事情は一気に逼迫するだろう。

これに備えるにはどうすればよいか? 世界中がパニックに近い状況になったが、中でも急を要するのは14億人にも及ぶアフリカ大陸の居住民をいかにして救出するかだった。国連はこの問題に対応するためのワーキンググループを直ちに組織したが、議論ばかりが続いて何事も前には進まず、時間は刻々と経っていった。スーザンの推挙でこのグループの一員となっていた俊雄は、ある日決意を固め、「アフリカ連邦共和国」を直ちに組成して、熱帯化する現在の南極大陸の大部分をこの新しい国の領土とすると共に、世界各国がこの国の政府に人材を拠出して、この政府が「アフリカ居住民全員の脱出・移住計画」を総括的に起案し、それを実行すべきだと提案した。あまりに唐突で、「組織」や「権限」のことを全く無視した提案だったので、誰もが一瞬呆然としたが、結局この案が国連総会で可決され、全てのことがようやく前向きに進み出した。

時をおかずして、ほとんど「見切り発車」の状態で、アフリカ全土で「民族大移動」が開始された。なぜ「発車」したのか? これでももう遅すぎるぐらいで、なおも「準備」をしている時間など全くなかったからだ。何故「まともな発車」ではなかったのか? 目的地も、資金も、必要資材も、何一つ保証されていないのに、とにかく移動だけは開始しなければならなかったからだ。

この民族大移動の実行責任者となったのは、日本から出向して連邦共和国の運輸長官になっていた北山隆三だったが、彼の毎日はたちまちのうちに修羅場となった。アフリカ各地からジブラルタルや、スエズや、ジブチに向かう徒歩での脱出ルートは、全てが初体験であり、はじめは毛細血管の様に細く、それが次々に合流を繰り返して太くなっていく様は、計画している時には壮大で感動的に見えたが、実際に避難民がそこに群がり出すと、混沌たる魔界に変わったのだ。

多くの人たちが結局は脱出に間に合わず、大陸に取り残されて餓死したり凍死したりせざるを得なかった。それは地獄絵だった。しかし、脱出できた人も、新天地での自立までには相当の年月を要するだろうから、難民キャンプでの彼らの生活を長期間にわたって支えるには巨額の資金が必要となる。連邦共和国の初代大統領となったボツワナ出身のセンツ・クームは、臨時国連総会で「土地や食料や資材の供給と、それを可能にする資金の供与は、切り離して考えるべき」とと懇願し、彼に続いて登壇した米国人の財務長官は、国連の全加盟国に対して各国のGDPの10%を拠出することを要請したが、各国の代表は「自分たちの国の中の問題でも手一杯なのに、そんな事ができるわけはない」と顔を見合わせるばかりだった。

ところが、前年に就任したばかりの日本の石橋毅志首相が、全てが八方塞がりのように見えたそのような状況に大きな一石を投じた。総会のプログラムの最後に演壇に上がった彼は、歴史に残る格調高い演説を行い、その最後に「日本は連邦共和国の全ての要請を無条件で引き受ける」と明確に宣言したのだ。石橋のこの勇気ある宣言が、G7諸国のみならず中国やロシアの指導者にも大きな影響を与え、これによって、全ての問題を一気呵成に解決させるきっかけが作られた。

国連の場だけではなく、世界の至る所で、各国間の協議も進んだ。国土の主要部分が全て人の住めない場所となるサウジアラビアは、インドネシア政府と協議し、ニューギニア西部にメッカとリヤドを移転させようとしていた。広大なグリーンランドが熱帯となるデンマークはナイジェリアと、カナダはエジプトと、ロシアはアフリカ西海岸諸国と、自国の領土内の熱帯地域に、彼らの自治領(新国家)を建設することを認める協議を行っていた。もっとも、その一方で、これまで蜜月の関係にあった中国とロシアの間には、ある種の緊張関係が生まれていた。国土のほぼ全てが熱帯化する中国では危機感が高まり、「温帯化するシベリア東部への植民」をもしロシアが認めないなら、帝政ロシアがこの地域を占拠した際に結ばれた古い不平等条約を反故にして、実力を行使してでもそれを実現すべきだという機運が盛り上がりつつあった。

しかし、世界中を襲った災厄は、大水害や暴風、干ばつや山火事だけにとどまらなかった。異常気象がもたらした生態系の激変で、インド南部にイナゴの大群が発生、これが東北に進んで中国大陸をも舐め尽くした。同様のことはメキシコと北米大陸でも起こり、ただでさえ疲弊していた農業を各地で壊滅させた。更には、シベリアをはじめとする世界の各地で溶け始めた永久凍土から蘇った古代のウィルスが、新しい疫病を世界中に広め、やっと終息の目途が立ちつつあった新型コロナをはるかに超える数の人々を死に至らしめた。そして、最後に、地軸の変動がもたらした地下深くのマグマの流れの変動が、全く予期せぬ規模の地殻変動を引き起こし始め、フィリピンと日本では早くも大地震が頻発し始めた。

人類の新しい生き方
この相次ぐ大災厄で、関係者の必死の努力にもかかわらず、人類は既にその総人口の約15%にあたる10億人強を失ったものと試算されていた。しかし、この大惨事がもたらしたものは、必ずしも悪いことばかりではなかった。全てが大きく混乱する中でも、辛うじて「人道」と「公正」という理念を堅持した地球人達は、「人類の将来をどの様に構築すべきか」について、微かな手がかりを得た様でもあった。

「人類」を代表する「国際社会」には、「口先だけの『支援』でごまかして、アフリカの人達の命運は成り行きに任せる(我関せずを決め込む)」という選択肢もあったわけだが、実際にはその選択肢は取られなかった。「国際社会」は、絶望的に短い時間しか与えられていなかったにも関わらず、また、各国がそれぞれに自分自身の大きな問題も抱えていたにも関わらず、死力を尽くし、可能な限りのアフリカ人救済策を一致協力して遂行した。「人道(ヒューマニズム)」という言葉の定義は必ずしもはっきりしたものではなく、「人間が自ら同一種(仲間)とみなした個体間に働く『理性と感情のパッケージ』に過ぎない」と断ずる人もいたが、とにかく地球人が「人道(ヒューマニズム)」と呼んでいた「一つの考え方(理念)」が、「利己の追求」という生物としての生存本能を、とりあえずはしのいだのだ。

地球の自転が曲がりなりにも安定化し始めたその日に、俊雄とスーザンとポール・サイモンは、今回のことが示唆した「人類の新しい生き方」について、ビデオ回線を通じて話し合っていた。三人は、「自分たちの力をはるかに凌ぐ力の存在を知って、人類は総じて謙虚になり、ともすれば『お山の大将』を決め込む独裁者達も、その権威と意欲を次第に失おうとしている」という「望ましい状況」を、等しく認識していた。こうなれば、世界はもう少し安定したものへと再構築できるかもしれない。しかし、それには、民族、人口、領土、国家 …、そういったものの全てが見直され、人類は名実ともに一体となり、恒久平和が実現されることがどうしても必要だった。「その為には、人類もショルのように、生物としての自らの限界を正しく認識し、超越的な『科学技術』と『純粋理性』の力で人類の存続を保証してくれる人工知能(AI)に、自らの将来を委ねる必要があるのかもしれない」と、三人は真剣に考え始めていた。

■著者紹介

松本徹三(まつもと・てつぞう)
1939年東京生まれ。京都大学法学部卒。伊藤忠商事(米国会社エレクトロニクス部長 東京本社通信事業部長等)、米クアルコム(米国会社上級副社長 日本法人会長・社長)、ソフトバンクモバイル(取締役副社長)での勤務を含め、60年近くを実業の世界で過ごし、現在も独立コンサルタントとして活躍中。最近の著書『AIが神になる日』は英・中・韓の各国語に訳されている。(財)高IQ者認定支援機構代表理事。Twitterアカウント(@matsumotot68)



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