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【連載12】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー
ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優

Episode 6 出撃
Part2

「アルフリーデ、ククリ。そして、ユウリ、ルリハ。上がってきたようですね」
 戦闘機〈零嵐〉のコクピット。ルリハに通信が聞こえてくる。
 ミツハその人――その分人格だ。彼女が大和帝律星の防衛責任者なのだから当然なのだが、違和感は拭えない。というよりも、緊張してしまう。
 皇帝のミヒトも、今は防衛指揮を執っているのだろう。ただ、彼女は一人しかいないからこのような小部隊にまで通信する余裕はないが、ミツハは大量の分人格がいるから、こうした芸当も出来るのだろう。
「さて。状況を説明するわ。敵の爆撃部隊は和泉帝律星方面から進入しつつある。高高度からの侵入のため、発見が遅れたという状況よ。我が帝律圏の中核領域に侵入を許したのは一年前、氷見名市が攻撃を受けたとき以来初めてよ。一年前と同じく、敵は和泉には手を出さず、まっすぐこの大和に侵入しつつある」
「なぜ発見が遅れたのです? 近衛艦隊群は何をしていたのですか?」
 
 アルフリーデが言う。
「近衛艦隊群に所属していたあなたとしては、忸怩たる思いでしょうね、アルフリーデ。しかし、理由ははっきりしている。相手の機動部隊が相当な無茶をしているのよ。敵は重質量――巨惑星級を超え、おそらくは準矮星級に近い質量の高次元爆撃機を航擁艦から発艦させた。数は五〇。我々はこの爆撃機を、『超巨惑星級』と呼ぶことにしたわ。この超巨惑星級の爆撃機は高高度飛航能力を有し、我々の索敵網は彼女らをとらえそこねた。高度は、約一万二〇〇〇GIM」
『高度』とは、「高次元方向において常次元からの垂直の距離」を意味する概念である。その単位には、Gravity Inverse Metric、略してGIMと呼ばれる単位を使用する。これは、常次元(通常次元)膜から離れるにつれて重力定数が弱くなる余剰次元の性質から定義されたもので、重力定数が常次元時空の何分の一になっているかによって定義される。一万二〇〇〇GI
Mなら、重力定数が一万二〇〇〇分の一ということだ。
「そのような新兵器だと。しかし、それは……発艦はできても、戻ってきて航擁艦に着艦するのは無理でしょう。大きすぎる……」
「そうね。あるいは、アメノヤマトを通過した向こう――オリオン渦状腕の更に外側に着陸基地となる拠点があるならばよいのだけれど、アメノヤマトの向こうにあるのはアルヴヘイムの勢力圏。無事に帰還できる見込みはゼロね。でも分かっているでしょう? 人類連合が星霊をどう扱うか。彼らにとって星霊――彼らの言葉で言えば『スターAI』とは、無人の制御システムにすぎない。そのまま行って、死んで来いということよ」
ミツハ――その分人格は、冷静な指揮官の口調で話していたが、その言葉だけは、憎々しげに、吐き捨てるように言った。
「しかし――我々はそれでも相手を殲滅しなければならない。さもないと、一年前の悲劇が繰り返されてしまう。あなたの『時空噴進エンジン』あるいは『ラケータ』。期待しているわ。あなたの力がなければ、我々は彼女らを効果的に撃墜することができないでしょう」
「――状況は理解しました。しかし、そのような状況では、私一機ですべて撃墜するのは困難でしょう。そうできればよいのですが、流石に五〇は数が多すぎる。まずは『ラケータ』について説明したいのですが、よいでしょうか?」
「勿論よ。我が軍には『ラケータ』エンジンの搭載戦闘機の運用経験はない。戦闘機本人からの説明なら最優先で聞きましょう」
「アメノヤマト軍では『時空噴進航法』と呼んでいる私のエンジンですが、その原理はシンプルです。通常の時空延展航法では、余剰次元に垂直な方向に常次元時空を高密度で圧縮し、後方に延展することで推進する。我々飛航機のような高次元をも航行できる機では、高次元時空をやはり圧縮し、延展することで推進する。いずれの場合も、時空がそこに存在することが前提です。時空がなければ、圧縮する対象がないから推進できない。高高度の飛航に限界高度が存在するのは、あまりにも時空が希薄だから、圧縮できないのです。敵は高度一二〇〇〇GIMを達成したようですが、超巨惑星級という巨大な主機ゆえに圧縮効率が良いのでしょう。しかし、私の『ラケータ』は、圧縮すべき時空を機体内に収容し、高高度まで持って行く。だから限界高度は原理的に存在しません」
「時空を切り取る……? ディリクレブレーンを……?」
「データを送ります」
 アルフリーデが言う。それから一秒も経たないうちに、ミツハは真顔に成り、それから笑顔になった。
「理解したわ――ありがとう」
「しかし、収容できる時空には限界がある。つまり、私の高高度滞在時間にも限界があります。そしてそれは――残念ながら極めて短い。だから五〇機全機を打ち落とすことはできないのです、単機では」
「僚機の支援があれば、それが違ってくると」
「はい」
 通信スクリーンの向こうで、アルフリーデは真剣な表情で頷いた。
「でも、どうするの――? 希薄な高高度高次元時空では、あなた以外の機は上がれないでしょう」
 アルフリーデは、時空を収容して持っていくから、どんな高度へも到達できる。人類連合の爆撃機は、ある程度まで時空が希薄な領域なら、その強力な主機で時空を圧縮できるから、上昇できる。
 だが、一般的な零嵐には無理だ。
 ルリハは考えを巡らせる。
(……難しい状況ですわ。でも、アルフリーデさんの説明した原理ならば、あるいは……)
 時空噴進エンジンは時空を高高度まで持って行ける。
 そして、時空があれば、一般的な零嵐でもそれを圧縮し、航行できる。
 とすれば――。

2023/01/24/12:00更新【連載13】に続く


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