『正解するカド』プロデューサーインタビュウ特別公開(前篇)
作家・野﨑まど氏が脚本を担当したことでも話題のSFアニメ『正解するカド』。そのプロデューサーである東映アニメーション・野口光一氏のインタビュウを特別公開します(前篇)(聞き手:小林治、構成:編集部)
■「カド」始動
──「正解するカド」の脚本は作家の野﨑まどさんがつとめられます。まずは、野﨑さんにお願いすることになった経緯をお教えいただけますか。
野口 あるとき、日頃から情報交換をしている〈Febri〉の編集長から、野﨑まどさんという面白い作家がいますよという話を聞いて、最初に『[映]アムリタ』(メディアワークス文庫)を読んでみたんです。〝最高の映画をつくること〟をテーマにした話で、ぼくも映画をつくっている手前、興味を持ちまして。それがとても面白かったのと、早川書房さんともおつきあいをしていたので、次に『know』(ハヤカワ文庫JA)を読みました。そうしたらこれも面白かった。
続けて読んだ二作品が面白いとなると、この作家の作品は絶対面白いんだなと思いました。その後『2』(メディアワークス文庫)まで読んで、もっと驚くことになるんですけど(笑)。特に『know』の電脳戦に惹かれるものがあって、野﨑さんに劇場アニメのシナリオをお願いしたいと思い、早川書房さんに取り次ぎをお願いしたんです。もし、野﨑さんに興味があれば、映画のシナリオをオリジナルで書きませんか? と。
──それはいつごろのお話ですか?
野口 「楽園追放-Expelled fromParadise-」を作っているときだったので、二〇一四年ですね。「楽園〜」がある程度落ち着いて、次の企画を考えていた二月ぐらいのことだと思います。何度かお話をして、野﨑さんに無事引き受けていただいて、企画が動き出しました。
──当初、映画の企画だったのが、テレビシリーズに移行していったのは、どういった経緯でしょうか。
野口 まず野﨑さんにプロットの執筆をお願いしました。こちらの希望で「SF」「女性が主人公」「謎解きがある物語」というキーワードをいくつかお伝えしましたね。何度かやりとりをして、「正解するカド」の原型となったプロットに決まり、詳細を詰めようとしたところで、野﨑さんが「僕はじつはテレビがやりたいんです」と仰いまして。ウチは映画部なんですけど(笑)、ちょうどスポンサーの木下グループさんから、テレビの企画がいいんじゃないか、という話もありまして。せっかくですから、テレビでやりましょうという流れで、すぐに決まったんです。
──なるほど、そうだったんですね。劇場アニメとして検討していた企画を、テレビシリーズにするとなると、映像的にダウンサイジングせざるを得なくなったり、制約や新たな作業も増えたりすると思うのですが、それに関してはいかがでしたか?
野口 僕は東映アニメーションに十年くらいいるのですが、今までに関わったテレビ番組は「デジモンセイバーズ」だけ、しかもCGディレクターとしてだったんです。それ以外はずっと映画をつくっているので、なんとなくのシナリオの感覚はわかるんですが、テレビの感覚は最初はわかりませんでした。ダウンサイジングとかクオリティとか、キャラクターの数を絞るとか、そのあたりは実はあまり深くは考えていないんです。
僕はこれまでVFXの仕事をしてきましたが、「この作品にはこういう表現が合うんじゃないか」という自分の意見を引き取ってくれる監督とは、仕事がとてもやりやすかったんですね。それに、そういうキャッチボールができた作品は、うまくいくようにも感じていました。
いまは自分がプロデューサーという立場になりましたが、同じように作り手が作りたいものを吸い上げて、それを実現するようなプロセスでつくりたいと思っています。うまくいかない部分はうまくまわせるように自分が立ち回ればいいだけなので、劇場アニメをテレビアニメにするにあたっての抵抗感は、まったくありませんでした。会社としても、ちょうどテレビ用のCGアニメを作っていこう、というタイミングでもありましたし。
■「楽園追放」の経験
──「楽園〜」が公開されるとき、東映アニメーションさんがSFアニメをCGで作ったとうかがって、期待すると同時にとても驚いたんです。東映さんというと、低年齢向け作品をベースに作られているイメージでしたので。「楽園〜」は虚淵玄さんが脚本を担当されていますが。
野口 虚淵さんとの出会いも小説で、『神林長平トリビュート』の『敵は海賊』トリビュートを読んで、面白い人だなぁと思ってお声掛けをしました。まだ「まどか☆マギカ」を発表される前でしたね。「楽園〜」のSF的な要素は、虚淵さんが構築してくれた部分が大きいです。その内容に合わせて、監督は水島精二さんにお願いをしました。そもそもCGアニメーションをどう進行したらいいかもわからない状態からのスタートだったので、楽しかったんですがいろいろ大変でしたね。
──「正解するカド」をつくるにあたり、「楽園〜」の経験値が生きているんですね。
野口 そうですね。やはり、監督、キャラデザイン、そしてスタジオを動かして作品をつくる過程を一回経験したのは大きかったです。
後篇に続く