開幕4ページで地球が滅亡する!? SF小説『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』プロローグ
9月20日(水)、宮澤伊織『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』が刊行となります。同著者の『裏世界ピクニック』が膨大なネット怪談の蓄積を下敷きにしたホラーなら、本作はSFというジャンルそのものをエスプレッソマシンにぶち込んだようなSFコメディ。マルチバースの流行を先取りした設定と共に繰り広げられる壮大な冒険物語、そのプロローグを先行公開です。
プロローグ
「……で、どうするんですか?」
「え?」
下校途中の通学路。
唐突にそう訊かれて、久遠空々梨は困惑した。
「どうするんですかって訊いたんです」
長い銀髪を五月の風になびかせて、ヌル香は繰り返した。
「聞こえませんでしたか? 既に二回言いましたが、もう一回言いましょうか?」
「いや、聞こえたけど」
口調は丁寧なのに微妙にぞんざいな、この少女の名前は、非数値无香。
同じ高校に通う、同い年の、空々梨の従姉妹だ。
「どうするって、何を?」
「あれです」
ヌル香が細い指先をすっと持ち上げて、空々梨の背後、かなり上の方を指した。
振り返って、ヌル香の指し示す先を見上げた空々梨の目に飛び込んできたのは──
青い空。
白い雲。
……ではなく、
今まさにこちらへ向かって落下しつつある、真っ赤に焼けた、巨大な隕石だった。
「は!?」
見ている光景が信じられず、空々梨はあんぐりと口を開ける。
「い、い、隕石──!?」
「はい。直径およそ四〇〇キロメートル。地球大気圏に突入しつつあるため、大気との接触部分が赤熱しています」
背後のヌル香の声は場違いに冷静だ。
「あと三〇秒で地表面に接触します。落下予測地点は……まあ、だいたいこの辺りですね」
途中で説明する気をなくしたみたいに、ヌル香はぞんざいに説明を終えた。
「ど、ど、ど」
「だから、どうするんですかって訊いたんです。あ、これ三回目ですね」
「ど、どうするって……どうしろっての!?」
空々梨は隕石とヌル香を交互に見ながら、うわずった声で叫ぶ。
「あ、あれが落ちたら、ど、どうなっちゃうの!?」
「TNT火薬六四兆トンに匹敵する威力のエネルギーが解放されて、惑星上の全生物が死に絶えますね。早い話が、地球は滅亡します」
「……だから、それを私にどうしろってのよ!?」
極めて唐突に、心の準備もなく、地球滅亡の危機に直面した空々梨の慌てふためく様子を、ヌル香は不審そうに眉根を寄せて見つめた。
その顔に浮かんでいる表情を言葉にするなら──「おまえは何を言ってるんだ」というのが最も近いニュアンスだろう。
呆れたように小さくため息をついて、ヌル香は言った。
「どうにかできるでしょう?」
あまりにも当然のように言われたので、パニックに陥っていた空々梨も一瞬冷静になった。
──あれ? 私、なんかできるんだっけ?
ここで久遠空々梨のスペックを確認しよう。
一五歳。高校一年生。女。人類。
現代日本、東京に暮らす、ごく普通の高校生だ。
確認終わり。
「……やっぱりできないよ!」
「そうですか。残念でしたね、クー・クブリス」
さして残念そうではない口調でヌル香が言った直後、大気との摩擦で焼けた隕石の先端が地球に激突した。
斜めの角度で東京に着弾した巨大隕石は、首都圏を根こそぎえぐり取りながら東京湾に突っ込み、マントルに到達して地殻津波を引き起こした。
衝突の影響は惑星全体に及び、超高温の岩石蒸気の中で、地球上の全生命が死に絶えた。
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