華文ミステリの新境地!『悪童たち』(紫金陳)――卓越したチャイニーズ・ノワールの傑作
華文(中国語圏)ミステリの注目作、紫金陳(しきんちん/ズージンチェン)の『悪童たち』が刊行以来大好評をいただいております!
一読した時、本当に驚きました。こんなに面白い華文ミステリがまだ紹介されていなかったのか! と。そして、こんなに面白いノワール・ミステリが中国で書かれていたのか! と。そんな風に読者の皆様も仰天してくれること間違いなし! そんな『悪童たち』を改めてジャンル小説の面からご紹介いたします!
◎あらすじ
それは完全犯罪のはずだった――妻の実家の財産を狙う男、張東昇(ジャン・ドンション)は、登山に連れ出した義父母を事故に見せかけて殺すことに成功する。だがその光景を偶然、朱朝陽 (ジュー・チャオヤン)ら少年たちのカメラがとらえていた。彼らはある事情から、自分たちの将来のために張東昇を脅迫して大金を得ようと画策するが……。殺人犯と子供たちの虚々実々の駆け引きの果てに待ち受ける、読む者の胸を抉る結末とは?
◎著者について
著者の紫金陳は浙江省生まれの中国人作家。中国の名門である浙江大学在学中に書いた小説『愛不明白』をネットで公開したのちに出版社の目に留まり、2005年同書が大衆文芸出版社より刊行、作家デビューを果たします。さらに2007年には『少年股神』をネットに公開し、こちらは当代中国出版より刊行されます。その後、2012年に自身初の推理小説である『官僚謀殺』を刊行。同作は東野圭吾の影響を強く受けて書かれており、一昨年には『官僚謀殺』シリーズの一冊が『知能犯之罠』の邦題で日本でも刊行されました。本作『悪童たち』は紫金陳の代表作で、本国では『隐秘的角落』のタイトルでドラマ化(邦題『バッド・キッズ 隠秘之罪』)し、大ヒットしました。
◎華文ミステリとは?
陳浩基の『13・67』を火付け役として近年大ブームになっている華文(中国語圏)ミステリ。主な作家と代表作に陳浩基『13・67』『ディオゲネス変奏曲』、陸秋槎『元年春之祭』、周浩暉『死亡通知書 暗黒者』などがあります。どの作品も非常にレベルが高く、本格ミステリファンを中心に人気を博しています。紫金陳はそんな華文ミステリ業界の中でも本国での人気が非常に高く、注目の作家です。
もっと詳しく華文ミステリについて知りたい! という方は、小社刊行のミステリマガジン 9月号をぜひお手に取ってみてください! 「躍進する華文ミステリ」を特集に据え、より詳しく、深く華文ミステリの紹介を行っています。
◎ノワールとは?
ノワール(暗黒小説)は、主に犯罪や暴力を描く小説ジャンルのひとつで、代表的な作家にジェイムズ・エルロイやジム・トンプスンがいます。
主にフランスやアメリカで書かれてきたノワールですが、昨今、ディアオ・イーナン監督による、出所した元犯罪班を主人公に中国の裏社会を描いた『鵞鳥湖の夜』(原題『南方車站的聚会』、2019年)が本国で公開され話題になると、チャイニーズ・ノワールというジャンルが中国でもひそかにブームになりつつあります。
そして、本作『悪童たち』はその走りのような作品。少年少女を主人公に、行き場のない憤りや格差の問題、そしてどうしても犯罪の方向へと歩んで行ってしまう人間を巧みに描いたチャイニーズ・ノワールなのです。
◎読んで、ガツン! とやられた!
内気で優等生な主人公の朱朝陽、知的で可愛い普普、乱暴だけどどこか憎めない丁浩と、こう書くとまるでティーン向けの青春小説の登場人物たちのように見えてきますが、しかし、彼らが生きるのはノワールの世界。まだ幼い彼らに、容赦ない現実が襲い掛かってきます。そして、彼らをただの幼い少年少女だと思っていた読者にもまた……。
犯罪が行われるのを目撃してしまった少年少女が、そのために自らの人生を歪めていってしまう……。ページをめくるたびに酷い状況になっていってしまうのは、読んでいて心がざわつきますが、それでもどうしても本を捲る手を止めることができません。下巻に入ってからさらに加速していく物語。一体この話はどうなるんだ! と心の中で叫びながら読み進めていくと、ラスト50ページほどで後ろからガツン! と殴られたような衝撃に襲われます。ああ、まさかこんな……。
華文ミステリの新境地にして、今までのイメージをガラリと変えるかもしれないほどの衝撃を与える本作を、絶対に読み逃しなく!
【書誌情報】
■タイトル:『悪童たち』上・下 ■著訳者:紫金陳/稲村文吾訳
■定価:各990円(税込)■発売日:2021年7月14日
■レーベル:ハヤカワ・ミステリ文庫