『Arc アーク』主演・芳根京子インタビュウ「私自身もきっと、いつか、自分の人生の時間がもっと長くあってほしいと思う瞬間が来る」
大好評公開中の映画『Arc アーク』、もうごらんになりましたでしょうか? 本欄ではSFマガジン2021年8月号に掲載した、『Arc アーク』主演・芳根京子さんの独占インタビュウを再掲します。芳根さんがリナという、人類で初めて永遠の命を得た女性を演じるうえで感じたこととは――。
よしね・きょうこ
1997年生まれ、東京都出身。2014年、NHK連続テレビ小説「花子とアン」、16年にも「べっぴんさん」のヒロインを演じ、知名度が全国区に。2018年、『心が叫びたがってるんだ。』(17/監督:熊澤尚人)、『累―かさね―』(18/監督:佐藤祐市)、『散り椿』(18/監督:木村大作)などの演技が評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
■石川組としての日々
──まずは主人公のリナ役が決まったときの素直なお気持ちを教えていただけますか。
芳根 すごく面白い作品だなと思って、どういうふうに撮るのかわくわくしました。けれど、同時にこの役は今の私の年齢と人生経験と、芝居経験から考えると力不足だなと思って、やりたいけれどできないと思います、ということをお伝えしました。 それを聞いた石川監督が、一緒に戦うと言ってくださったんです。監督は「今回は、自分が思う一番のスタッフを集めました」とも言ってくださって、こんなにも自分を求めてくださっていることへの喜びと、感謝の気持ちがふっと芽生えて、やらないという選択肢はないというくらい、すごくうれしい気持ちがあふれたんです。もしかしたら石川監督とだったらできるかもしれないという思いが芽生えて、「私でよければやらせてください」とお伝えしました。
──芳根さんは石川監督と『イノセント・デイズ』(2018、WOWOWドラマ)でもご一緒されていましたね。できないと言うのも勇気がいったのではと思うのですが、それはすでに監督と信頼関係が築けていたからこそなのでしょうか。
芳根 そうですね。石川監督じゃなかったら、たぶん、できないと言い張って終わっていただろうと思います。石川監督だからちゃんとお話しして決めないと、と思えたし、監督じゃなかったら最後まで演じられなかっただろうと思います。
──監督に全幅の信頼を置かれていることが伝わってきます。芳根さんからごらんになった石川作品の魅力はどのようなところにありますか。
芳根 石川監督の作品は、すごくふわっとした柔らかさもあるんだけれど、パワーもあるような作品だと思います。心にドン! と衝撃を与えるわけではなくて、ふんわり寄り添っているような。それがすごく心地いいと思っています。岡田(将生)さんも、ずっと石川監督とご一緒したかったので今回とてもうれしいんだ、とおっしゃっていました。監督ともう一度お仕事が一緒にできたことをとても光栄に思います。
──撮影の雰囲気はいかがですか。
芳根 チームの一体感がすごく強くて、アットホームで愛のある現場です。みなさんが石川監督を信頼していて、すごく素敵なチームです。このお仕事をしていると、作品を撮っているなかで孤独を感じる瞬間もけっこうありますけど、この現場ではいっさいそういうことはありませんでした。すごく優しさに包まれていた一カ月だったなと思います。
■主人公・リナについて
──主人公のリナは、ストップエイジング技術により三十歳の身体のまま永遠の人生を生きることになります。芳根さんはリナの若いころから百歳以上歳を重ねるまでを演じられています。こういうSF的な役柄を演じるにあたって一番気をつけられたことはなんでしょうか。
芳根 あまり「三十歳だからこうしよう、九十代だからこうしよう」みたいなことは考えませんでした。その瞬間のリナを精いっぱい生きるという感じでしたね。撮影は十代のリナから始まりましたが、そのときは三十代のリナをどういう風に演じるかは自分の中で全然固まっていませんでした。でもふとした時に「あっ、三十代のリナってこうすればいいかもしれない」と思いついて、監督と相談したりしました。それでその場で骨組みを立てて、衣装をつけてメイクもしてもらってどうなるかやってみましょう、というような。
──まさにリナとともに生きたという感じですね。
芳根 そうですね。リナの人生を追体験したという感じがします。
──リナは不老不死になってから長い時間を生きていくことになりますが、どのようにご自身のなかで気持ちを作っていかれましたか。不老不死になるという、ある意味想像を超えた部分をご自身の中でつくらなくてはいけなかったのではと思いますが。
芳根 不老不死になったとはいえ、それはあくまでもリナにとっては日常の延長なんですよね。だからことさらに自分は不老不死なんだ! とは思わないだろう、と考えました。リナは自分のペースで生きる女性であるだろうな、と。
石川監督とは、歳をとっていくお芝居って、腰が曲がっていくとか声が変わるとか、白髪が生えるとか、そういう体の老化現象によるものが根幹にあるから、それがないなかで年齢を重ねている表現をするにはどうしたらいいんだろう、というお話をしたんです。監督は「歳を取っているということは経験値があるということ、つまり近道を知っているということだと思います。近道を知らない人はいろんな道をたどっていくしかないけれど、近道を知っている人は最短距離を行ける、歳を取っている人はたくさんの最短距離を知っているんだと思います」とお話しされていて、なるほど、と思いました。最短距離を行けるリナの人生には余裕もあるし、ちょっとゆっくりしゃべってみようかなと思って、すごく楽しんでやらせてもらいました。誰も答えを知らないから、なにをやっても間違ってるよ、とは指摘されないのもよかった(笑)。楽しかったです。
──遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)するシーンがすごく印象的でした。
芳根 主なロケ地だった香川に行く前から東京でワークショップをひらいてもらって練習をしました。前半部分で出てくる、ダンスといっしょに。プラスティネーションはとにかく難しくて、どうすればきれいに見えるのか、いっぱい動画を撮って自分で確認しながらやりましたね。振付の先生にもたくさんご指導をいただいて、やれることはやった! と思って香川に行きました。
撮影場所にはプラスティネーションの装置がずっと置いてあったので、撮影の合間も人目を盗んで練習していたんです。でも、ある日、(寺島)しのぶさんと一緒に撮影が終わったときに練習をする機会があったんですね。しのぶさんのプラスティネーションの動作を拝見したらとても格好よくて、自分の動作に絶望してしまって、ヤバい……と青ざめました。そこで改めて気合が入りました。いっぱい練習させてもらって、自分のやれることはやったぞ、と言えるまでになりました。自分の出せる力は全部出した、がんばったということを伝えたいです(笑)。
──芳根さんのプラスティネーション、凜としていて素晴らしかったです。
芳根 よかった、うれしい! ありがとうございます。
■リナが下した決断
──その中で、リナが下した決断はどのように思われましたか。
芳根 理想的だなと思いました。自分がやりたいことを精いっぱいやって、自分で人生を選択していく。それができたらどれだけ幸せだろうと思いました。
私自身もきっと、いつか、自分の人生の時間がもっと長くあってほしいと思う瞬間が来るのだと思います。私はまだ二十四なので、この先の未来はまだ長いと思っていますが、きっと歳を重ねていくたびに、もうちょっと若いときにこうすれば良かったとか、もうちょっと体力があのころと同じだったらこれができたのにな、とか考えてしまうんだと思います。そういうことにぶつかったときに、よりいっそうリナのことをうらやましく思うんだろうな、と思いました。
(二〇二一年四月三十日/於・都内某所)
本インタビュウはこちらに掲載されています!▼
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映画『Arc アーク』原作はこちら!▼
『Arc アーク ベスト・オブ・ケン・リュウ』
ケン・リュウ=著
古沢嘉通=編訳
装幀:早川書房デザイン室
つらい別れを経て心身ともに疲弊したわたしは、職員募集中だったボディ=ワークス社の門を叩く。防腐処理を施した死体にポーズを取らせ、肉体に永続性を与えるその仕事で才能を見いだされたわたしは創業者の息子ジョンと恋に落ちる。ジョンは老齢と死を克服したいと考えており……。――石川慶監督、芳根京子主演で映画化された表題作ほか、母と息子の絆を描く感動作「紙の動物園」、地球を脱出した世代宇宙船の日本人乗組員の選択を描く「もののあはれ」など、知性と叙情の作家ケン・リュウによる傑作を選びぬいたベスト・オブ・ベスト。
〈収録作品〉
Arc アーク
紙の動物園
母の記憶に
もののあはれ
存在(プレゼンス)
結縄
ランニング・シューズ
草を結びて環を銜えん
良い狩りを
『Arc アーク』
2021年6月25日(金)全国ロードショー
■CAST
芳根京子
寺島しのぶ 岡田将生
清水くるみ 井之脇海 中川翼 中村ゆり/倍賞千恵子
風吹ジュン 小林薫
■STAFF
脚本:石川慶、澤井香織/音楽:世武裕子/監督・編集:石川慶
原作:「円弧(アーク)」ケン・リュウ/古沢嘉通訳
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c) 2021 映画『Arc』製作委員会