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「別冊NHK100分de名著 フェミニズム」に登場。『侍女の物語』『誓願』(マーガレット・アトウッド)はどんな作品?

2023年1月に放送されたTV番組「100分deフェミニズム」と、6月に刊行された『別冊NHK100分de名著 フェミニズム』に、マーガレット・アトウッドによる小説『侍女の物語』『誓願【せいがん】』が登場。
どんな作品なのか、2作の読みどころをご紹介します。

『別冊NHK100分de名著 フェミニズム』では、『誓願』の訳者である鴻巣友季子さんが2作品を解説しています。番組で放送されなかった議論もあるそうです! こちらは、鴻巣さんのツイートです。


さて、『侍女の物語』と『誓願』は、カナダの作家マーガレット・アトウッドによって書かれた小説です。

2作に共通する舞台は、近未来のギレアデ共和国。ギレアデとは、アメリカ合衆国がキリスト教原理主義の一派によるクーデターで打倒され、成立した全体主義国会です。ここでは、環境汚染の影響で出生率が激減するなか、女性たちの自由が奪われ、その一部は「子どもを産む」道具、つまり〈侍女〉になることを強いられています。
『侍女の物語』は侍女オブフレッドを主人公とし、『誓願』はその15年後の別の女性たちを主人公としています。

(1)『侍女の物語』

「子を産む」道具として扱われる〈侍女〉たち
男性絶対優位の近未来社会で、彼女たちは自由を取り戻すために抗う。

侍女の物語
マーガレット・アトウッド/斎藤英治訳
ハヤカワepi文庫 紙・電子ともに好評発売中

◉あらすじ
ギレアデ共和国の侍女オブフレッド。彼女の役目はただひとつ、配属先の邸宅の主である司令官の子を産むことだ。しかし彼女は夫と幼い娘と暮らしていた時代、仕事や財産を持っていた昔を忘れることができない。監視と処刑の恐怖に怯えながら逃亡の道を探る彼女の生活に、ある日希望の光がさしこむが……。自由を奪われた近未来社会でもがく人々を描く小説。

本作は、1985年に発表されると、カナダ国内の最も優れた文芸作品に与えられるカナダ総督文学賞と、最も優れたSF作品に与えられるアーサー・C・クラーク賞を同時受賞し、世界的ベストセラーとなりました。

高い評価の一方で、刊行当時は「リアリティがない」という酷評も受けていました。
ところが、その後の世界は、むしろ作品に近づいていっています。象徴的なのは2017年。この年の1月、分断を煽り、女性蔑視の発言をくり返すトランプ元大統領の就任前後には、危機感とともに数多くの読者に読まれることになりました。さらに、同年作られたドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」も話題に。
日本でもたとえば、フリーアナウンサーの宇垣美里さんが「(本書の)物語はどんどんリアリティを増している。だから私は黙らないと決めた」(2021年ハヤカワ文庫の100冊フェア冊子)と書いています。
(さらに詳しく知りたい方に、鴻巣友季子さんのこちらのインタビューもおすすめです。)

発表から時間が経っても色あせない、それどころか価値を増していく名作の中の名作です。
そんな『侍女の物語』から30数年を経た2019年に発表されたのがつぎに紹介する『誓願【せいがん】』です。

(2)『誓願』

『侍女の物語』から15年後を描く続篇。
「子を産む」道具であることをやめた女たちは――

『誓願』
マーガレット・アトウッド/鴻巣友季子訳
※書影は、単行本版。

◉あらすじ
〈侍女〉オブフレッドの物語から15年後。
〈侍女〉の指導にあたっていた小母リディアは、司令官たちを掌握し、ギレアデ共和国を操る権力を持つまでになっていた。
司令官の娘として大切に育てられるアグネスは、将来よき妻となるための教育にかすかな違和感を覚えている。
カナダで古着屋の娘として自由を謳歌していたデイジーは、両親が何者かに爆殺されたことをきっかけに思いもよらなかった事実を事実を突きつけられ、危険な任務にその身を投じていく。
まったく異なる人生を歩んできた3人が出会うとき、ギレアデの命運が大きく動きはじめる。
『侍女の物語』の続篇となる長篇小説。

『侍女の物語』が侍女オブフレッドの視点で暗闇を探るように進んでいくのに対して、本作『誓願』は3人の女性たちの視点で物語を展開。スリリングなエンタメ要素もあります。
訳者の鴻巣さんは「シスターフッド(女性同士の絆)がしっかり描かれ、希望に向かって進む物語になっている」(東京新聞)と語っています。小説家の柚木麻子さんも「大いに勇気づけられた。声はいつか必ず誰かに届く。そう誰かに優しく背中を押されたような気持ちになれる」(図書新聞)と書評しています。

『侍女の物語』の続篇ではありますが、独立した物語として『誓願』から読んでも楽しむこともできます。

『誓願』、待望の文庫化!

その『誓願』がついに文庫になります。2023年9月5日に発売! ただいま鋭意、制作中です。あと少しお待ちください!


最後にご紹介するのは、『侍女の物語』をもとにしたグラフィックノベルです。

(3)『侍女の物語 グラフィックノベル版』

それは、「産む道具」の赤。
名作ディストピア文学が鮮烈なイラストレーションで登場。

侍女の物語 グラフィックノベル版
マーガレット・アトウッド原作、ルネー・ノールト、斎藤英治訳
B5判変形上製単行本 紙・電子ともに好評発売中

◉あらすじ
ギレアデ共和国の〈侍女〉オブフレッド。
赤い制服を着た彼女の役目はただひとつ、主人である〈司令官〉の子を産むことだ。
厳しい監視の目におびえながらも、自由だった過去や引き離された家族のことが忘れられない彼女を、普段は交流を禁じられている〈司令官〉その人が部屋に呼び出して……
『侍女の物語』を原作としたグラフィックノベル。

◆イラストレーター紹介
ルネー・ノールト

カナダ出身・在住のアーティスト、イラストレーター、グラフィックノヴェリスト。
浮世絵や漫画、バンド・デシネに影響を受けており、水彩絵の具とインクで制作を行なっている。広告や雑誌のイラストを手掛けているほか、いくつかのアンソロジーに漫画やグラフィックノベルを寄稿。また、自身のウェブサイトでグラフィックノベルWitchlingを公開している。
3年以上をかけてすべて手描きで制作し、2019年に発表した本書は、カナダのみならずアメリカ、イギリスでベストセラーとなり、アメリカで最も権威ある漫画賞のひとつであるアイズナー賞と、カナダのSF文学賞であるオーロラ賞にノミネートされた。

◆著者アトウッドの紹介

© Luis Mora

マーガレット・アトウッド Margaret Atwood

50以上の小説、詩、批評を発表しているカナダの代表的作家。
昏き目の暗殺者』(鴻巣友季子訳)、『オリクスとクレイク』(畔柳和代訳)(以上早川書房刊)、『キャッツ・アイ』(松田雅子、松田寿一、柴田千秋訳)、『またの名をグレイス』(佐藤アヤ子訳)等の著作がある。
1985年に発表した『侍女の物語』(斎藤英治訳)(ハヤカワepi文庫)はドナルド・トランプ大統領の誕生をきっかけに再びベストセラー入りし、〈侍女〉は女性への抑圧に対抗するシンボルとなった。同作は2017年にドラマ化し、エミー賞を8部門で受賞した。
ブッカー賞、アーサー・C・クラーク賞、フランツ・カフカ賞など数々の賞を受賞。2019年にはその文学活動によってコンパニオンズ・オブ・オナー勲章を受けている。
また、イラストレーター、劇作家、脚本家、操り人形師としても活躍。カナダ・トロント在住。

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