「日本国際賞」受賞!カタリン・カリコ博士のワクチン開発秘話
mRNA研究者のカタリン・カリコ博士が、科学技術の分野で優れた業績を挙げた科学者に贈られる「日本国際賞」の今年の受賞者に決まりました。カリコ氏はこれまでにも、日本の慶應医学賞、そしてドイツやヨーロッパ、アメリカなどの数多くの賞を受賞しており、「ノーベル生理学・医学賞の有力候補」と報じられたことも。
彼女は現在、ドイツ・ビオンテック社の上級副社長をつとめています。ハンガリー出身でアメリカ・ペンシルベニア大学で研究をしていたカリコ氏が、ドイツのバイオベンチャー企業に加わり、世界初の新型コロナワクチンの開発に貢献するまでの間には、まさに波乱万丈のさまざまなドラマがありました。
好評発売中のノンフィクション『mRNAワクチンの衝撃』(ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン:著、石井健:監修、柴田さとみ、山田 文、山田美明:翻訳)から、カリコ氏にまつわるエピソードのいくつかをご紹介します。
mRNAをマウスに注射してもうまく安定せず、mRNAによって「指示」した通りのタンパク質が十分に生成されない……。そうした失敗を繰り返すうちに、異動先のペンシルベニア大学では、降格か別の研究分野への移行のどちらかを選ぶよう迫られてしまいます。
そんな時、彼女の研究人生に大きな転機が巡ってきます。本書では、ドラマチックな出会いが以下のように描かれています。
二人が発見したのは、mRNAを構成しているウリジンという物質をメチルシュードウリジンという代替物に代え、mRNAを「ステルスモード」つまり免疫系に異物と認識されないようにすることで安定性をもたらすという画期的な方法でした。
しかし、この後も苦難の道のりは続きます。2013年に日本での学会から帰国したときには、オフィスの椅子が廊下に出されていて、ほかの研究者のために部屋が空けられていたといいます。
同じ年、カリコ氏はついに、ビオンテック社のウール・シャヒンCEOと運命的な出会いを果たします。本書には、当時のビオンテック社がいかに無名であったかを示すこんなエピソードが登場します。
mRNA研究に情熱を注ぐ「同志」と出会い、存分に研究に打ち込むことのできる環境を手にしたカリコ氏。この出会いが後に、2020年のパンデミックにおいて、かつてないスピードでのワクチン開発に結実することになったのです。
新型コロナワクチンの開発にあたった「プロジェクト・ライトスピード(光速)」は、ハンガリー出身のカリコ氏をはじめ、60カ国以上の専門家で構成されており、その半数以上が女性でした。ビオンテックの創業者であるウール・シャヒン、エズレム・テュレジ夫妻は、二人ともトルコにルーツを持っています。
多様な専門知識と多様な出自を持つメンバーが結集したこと。そこに、画期的なイノベーションを生み出す秘訣があったと著者は指摘します。
カリコ氏をはじめ、多様なバックグラウンドを持つ開発チームのメンバーの活躍ぶりは、ぜひ本書でお確かめください! 『mRNAワクチンの衝撃』(ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン:著、石井健:監修、柴田さとみ、山田 文、山田美明:翻訳)は全国の書店で発売中です。