「ケラリーノ・サンドロヴィッチ自選戯曲集」発売記念!(No.006) 「社長吸血記」作品紹介
不条理劇からウェルメイド劇まで、振り幅の大きい作品群を精力的に発表し続ける現代劇の鬼才、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。
著者初となる自選戯曲集(全2巻)では、広がりのある作品世界を一望する8作品を一挙収録します。
収録作品:
「シャープさんフラットさん 」
「2番目、或いは3番目 」
「社長吸血記」
「ちょっと、まってください」
「睾丸」
(以上[ナイロン100℃篇])
「東京月光魔曲」
「黴菌」
「陥没」
(以上[昭和三部作篇])
解説:徳永京子[ナイロン100℃篇]
嶋田直哉[昭和三部作篇]
装幀:はらだなおこ
写真:平塚篤史
発売:6月18日
定価:4,600円+税[ナイロン100℃篇]
3,800円+税[昭和三部作篇]
*著者直筆サイン入りをお求めの方はこちら!
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発売に向けた特別企画として、早川書房のnoteでは、
自選戯曲集に収録する全8作品を、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)のコメントとともに紹介。
今回は「ナイロン100℃篇」収録の「社長吸血記」の紹介です。
◎「社長吸血記」作品紹介
女3 じゃああたし達はどうなるの......? 物集(もず)くんがいなくなったら。
男3 いなくなるんだよ私たちも。これはこいつの思った世界なんだからね。(…)
男2 え、じゃ、いないんですか僕は。
男3 いるにはいるんだよ。いるんだけどね
女1 ただそれは平井くんがいると思ってるからいるんじゃなくて、物集くんがいると思ってるからいるのよ。
女2 チーちゃんそれって私も?
女1 もちろんみんなよ。みんながいるのも、みんなが思ってるからいるんじゃなくて、物集くんがいると思ってるからいるの。
女2 冗談じゃないわよ......私、物集くんがいないと思ったっているわよ。
女1 でもいないと思わないのよ物集くんは。
男3 (やる気を見せて)いないと思わせてやろうじゃないか、こいつに。
男1 でもどうやって......?
再び風が吹く。(「社長吸血記」)
2014年秋に本多劇場で上演された、ナイロン100℃・42nd session「社長吸血記」。
低層ビルの屋上を舞台に、ある金融会社の話を描く”リアルパート”と、以前この場所で営業していた会社のOB・OGたちを描く”不条理パート”が交互に展開されていく。
”リアルパート”は2006年に上演された『労働者M』の変奏であり、”不条理パート”は別役実の劇世界にインスパイアされて執筆がなされた。
破綻寸前のネズミ講の会社で働きつづけ、無気力、苛立ち、衝動におそわれる社員たちと、
関節が外れてしまったような世界でナンセンスなやりとりをしつづける人間たち……。
「ナイロン100℃篇」の収録作でKERAの不条理劇を考えてみると、
前回の「2番目、或いは3番目」(10年)を経て、今回の「社長吸血記」(14年)があり、そして次回の「ちょっと、まってください」(17年)へと、不条理劇の探究がおしすすめられていく形になる。
◎ケラリーノ・サンドロヴィッチ コメント
(本書収録「あとがき」より)
この辺りからは記憶も鮮明で、ついこの間書いたような気がするが、いざ読み返すと、細部はまったく忘れていた。今回収録した五作品のうち、『シャープさんフラットさん』『睾丸』を除く三作はどれも、先日鬼籍に入られた別役実さんからの影響を強く受けている。本作で山内圭哉が演じてくれた探偵には、最初期の別役作品のイメージに多くを負っている。この芝居は当初、タイトルでもあからさまに示す通り、森繁久彌主演の東宝喜劇シリーズのような小品を想定していたのに、書いてみたらこんな代物になっていた。まったくアテにならない。
次回は、別役実とルイス・ブニュエルにオマージュを捧げて執筆された「ちょっと、まってください」を紹介します。
◎作品紹介バックナンバー
◎著者略歴
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
劇作家、 演出家、 映画監督、 音楽家。1963年1月3日生まれ。82年、 ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。またインディーズ・レー ベル「ナゴムレコード」を立ち上げ、70を超えるレコード・CDを プロデュースする。85年、「劇団健康」 を旗揚げ、 演劇活動を開 始。92年解散、93年に「ナイロン100°C」を始動。99年、『フロー ズン・ ビーチ』 で第43回岸田國士戯曲賞を受賞し、 現在同賞の選 考委員を務める。2018年秋の紫綬褒章を始め、 第66回芸術選奨文 部科学大臣賞、 第24回読売演劇大賞最優秀演出家賞、 第26回読売 演劇大賞最優秀作品賞(ナイロン100°C『百年の秘密』)、 第4回ハ ヤカワ「悲劇喜劇」 賞(世田谷パブリックシアター+KERA・ M A P # 0 0 7 『 キ ネ マ と 恋 人 』) な ど 受 賞 多 数 。 音 楽 家 と し て は 、 ソ ロ活動の他、「有頂天」(2014年再結成)、鈴木慶一とのユニット 「No Lie-Sense」、ケラ&ザ・シンセサイザーズなどで、ライブや 新譜リリースを活発に展開中。