ベストセラー作家が想像する未来のヴィジョン! 『フォワード 未来を視る6つのSF』作品案内
6人のベストセラー作家によるSFアンソロジー『フォワード 未来を視る6つのSF』。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』で話題のアンディ・ウィアーの新作短篇やN・K・ジェミシンのヒューゴー賞受賞作をはじめ、映画化された〈ダイバージェント〉シリーズのベロニカ・ロス、『モスクワの伯爵』のエイモア・トールズ、シャマラン監督の新作映画『ノック 終末の訪問者』の原作著者ポール・トレンブレイなど、SFにかぎらないさまざまなジャンルの6名のベストセラー作家の書き下ろしSF作品を収録した珠玉のアンソロジーです。
この記事では、各作品とそれぞれの著者について、ご紹介します。
「夏の霜」ブレイク・クラウチ(東野さやか訳)
ゲーム開発者の語り手が、開発中のオープンワールドの歴史ファンタジー・ゲーム内で、NPCを操作するAIの奇妙な行動に興味をひかれ、そのAIをゲームから切り離します。するとそのAIは……
ブレイク・クラウチはM・ナイト・シャマランらによるドラマシリーズ「ウェイワード・パインズ 出口のない街」の原作 〈パインズ〉三部作の著者です。『ダーク・マター』(ハヤカワ文庫NV)もApple TV+でドラマ化が予定されているとのこと。
ブレイク・クラウチの〈パインズ〉三部作も『ダーク・マター』もSF要素のあるサスペンス作品でしたが、本作「夏の霜」も緊張感あふれる良質な近未来SFサスペンスになっています。読みごたえたっぷりです。
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「エマージェンシー・スキン」N・K・ジェミシン (幹遙子訳)
環境破壊が進み、地球を脱出して別の太陽系の別の惑星に移住した一握りのエリートたち。長い年月がたったのち、彼らの兵士の一人が、ある使命を帯びて地球に帰還しますが……。
N・K・ジェミシンはヒューゴー賞を5回、ローカス賞を4回、さらにネビュラ賞や英国SF協会賞など各賞を受賞したアメリカの人気SF・ファンタジイ作家のひとり。訳書に『空の都の神々は』『第五の季節』ほかがあります。
本作「エマージェンシー・スキン」の語り手は、兵士の脳内に埋めこまれた「動的マトリクス集団合意知性」。作中で「おまえ」とだけ呼ばれる兵士は、「コンポジット・スーツ」を身にまとっています。その内側の兵士本体は……? ヒューゴー賞受賞作です。
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「方舟」ベロニカ・ロス(川野靖子訳)
もうすぐ小惑星が衝突し、地球は滅亡する。すでに多くの人々は地球を脱出したが、語り手はできるだけ地球の動植物を保存するプロジェクトにかかわる科学者の一人として、地球に残っていた……。
ベロニカ・ロスは〈ダイバージェント〉三部作が全米ベストセラーになり、一躍人気作家になったヤングアダルトSFの書き手。〈ダイバージェント〉三部作はそれぞれ映画化もされています((映画化名はそれぞれ『ダイバージェント』『ダイバージェントNEO』『ダイバージェントFINAL』)。
本作の舞台は北極圏の氷に閉ざされたノルウェー領スヴァールバル諸島です。家族を失って、もうすぐ滅亡する世界に残る決意をした主人公。悲しみの向こうにある透明感の描かれ方が素晴らしい作品です。
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「目的地に到着しました」エイモア・トールズ(宇佐川晶子訳)
堅実な人生を歩んできた主人公が、妻と話しあった結果、自動運転システム付きの新車で訪れた先は、統計データに基づいて子どもの人生予測を提供している研究所だった……。
エイモア・トールズは『モスクワの伯爵』と『賢者たちの街』の邦訳がある作家。 『モスクワの伯爵』についてはこちらの記事(140万部突破! 超高級ホテルに軟禁された貴族の優雅な生活を描く小説『モスクワの伯爵』(エイモア・トールズ))をご覧ください。
「目的地に到着しました」で、主人公は自分の子どもは遺伝子的/統計的にこういう人生を歩むだろうという予想図を見せられます。しかし、それによって、主人公は自分の人生の「真実」を見てしまう。この書き方がすごく巧みな物語です。
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「最後の会話」ポール・トレンブレイ(鳴庭真人訳)
全編「あなた」とドクター・クーンのふたりの会話で話が進みます。ベッドに横たわった状態で目覚めた「あなた」は、これまでの記憶を失っています。「あなた」には何が起きたのか?
ポール・トレンブレイはこの「最後の会話」が日本初紹介になりますが、ブラム・ストーカー賞(アメリカのホラー作家協会が贈る賞)、ローカス賞ホラー長篇部門や英国幻想文学賞ホラー長篇部門など受賞した、アメリカのホラー界の人気作家。ブラム・ストーカー賞を受賞した近刊の『終末の訪問者』は、M・ナイト・シャマラン監督の新作映画『ノック 終末の訪問者』の原作とのことです。
ホラー界の人気作家だけあり、どことなく怖さが漂う作品ですが、SF短篇としてかなりおもしろいです。最後のページまで読んだら、ぜひ最初に戻ってもう一度お読みください。
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「乱数ジェネレーター」アンディ・ウィアー(小野田和子訳)
近未来のラスベガスを舞台にした量子力学SFです。量子コンピュータの発達により、カジノがクラッキングされる恐れが! それに対抗するために……!?
アンディ・ウィアーは『火星の人』『アルテミス』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の著者、といえば、もうこれ以上なにか言う必要はないですね。 『フォワード 未来を視る6つのSF』収録作「乱数ジェネレーター」も、そのウィアーによるキレのいい短篇です。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でも『火星の人』でも、現実の延長線上のリアルさと物語の面白さをどちらも実現させたアンディ・ウィアー。さすがに、量子力学ネタでそれは難しいのではと思ったのですが、ところがどっこい、面白いうえにすごく巧みに量子力学をSFにしています。量子力学SFとして心からおすすめできる作品です。
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『フォワード 未来を視る6つのSF』
Forward
ブレイク・クラウチ編 東野さやか・他訳
ブレイク・クラウチ N・K・ジェミシン
ベロニカ・ロス エイモア・トールズ
ポール・トレンブレイ アンディ・ウィアー
解説:牧眞司(SF研究家)
装画:緒賀岳志 装幀:岩郷重力
ハヤカワ文庫SF/電子書籍版
1,364円(税込)
2022年12月6日発売