アリエリー教授の

人生100年時代…でもお金はどうすれば? 『アリエリー教授の「行動経済学」入門―お金篇―』訳者あとがき

ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー『アリエリー教授の「行動経済学」入門―お金篇―』を本日、早川書房より刊行します。
著者のアリエリー氏は、テレビでも人気の行動経済学者。『予想どおりに不合理』『不合理だからうまくいく』などのベストセラーで行動経済学ブームをつくりあげました。
そのアリエリー氏が、金融ネタを得意とするコメディアンのジェフ・クライスラー氏と組んで、お金に焦点を絞って書いたのが本書です。
その読みどころを、訳者の櫻井祐子さんが紹介します。

* * *

訳者あとがき

櫻井祐子

■人生100年時代、でもそのためのお金はどこに?

最近では人間の寿命がますます延び、いつのまにか「人生100年」があたりまえの時代になっているらしい。これまで7、80年ほど生きる心づもりでいたのが、じつはまだまだ時間があった。充実したバラ色の老後バンザイ! でも考えてみたら、その余分な2、30年を過ごすお金はあるのだろうか? その間ずっと健康でいられるとも限らない。これに完璧に対応する準備ができているなんて人は、ほとんどいないはずだ。どんな人も、お金のことを早急に、真剣に考えるべき時がきている。

■じっさいに役に立つ学問

本書はそのお金の問題を、行動経済学という観点から考えようという試みだ。金融リテラシー教育でもなく、投資指南でもなく、なぜ行動経済学なのか?

ここでおさらいをしておくと、行動経済学は伝統的な経済学とはちがって、人間を完全に分別ある計算高い「合理的経済人」とは見なさず、人間がじっさいにどうふるまうかを観察する。人間の不合理な面や弱さを理解したうえで、誘惑を避け、自制を働かせ、長期目標を実現するための手助けをする方法を見つけようという学問だ。また人間の心のメカニズムを解き明かすために、心理学や神経科学など他分野の理論や実験手法が多用されるのも特徴だ。実験は顕微鏡やストロボのようなもので、私たちに同時に影響をおよぼしているいくつもの複雑な力を拡大して見せ、光を当ててくれる。そうしてさまざまな力を切り離し、一つひとつをくわしく調べ上げることができる、と著者のダン・アリエリー氏は述べている。

行動経済学は実社会の問題解決に役立てられ、とくに英米では公的機関が率先してとり入れて、すでに大きな効果を上げている(たとえば年金加入や省エネなど)。近年になって行動経済学者のノーベル経済学賞受賞が相次いでいるのも、そうした功績が認められたことが大きい。

この本は、私たちがお金に関してどんなまちがいをなぜ犯しやすいのかを、行動経済学のレンズを通してくわしく考える。そうすることによって、自分のバイアスに気づきやすくなり、それが自分にどう影響しているかをよりはっきり自覚し、より賢明な決定ができるというわけだ。

■大やけどをきっかけに人間行動の観察者に

アリエリー氏はイスラエル出身。10代の頃に全身に大やけどを負い、長い入院生活中に肝炎まで患うなど、心身に大きな痛手を被ったが、そのおかげで人とはちがったふうに人間行動をとらえられるようになった。また自分自身のバイアスのしくみについても深く考え、研究するようになったという。こうしたユニークな視点をもとに、ちょっとふつうでは考えつかない斬新で洞察に富む実験を行い、それらをユーモアあふれる著書や講演などを通して説明している。行動経済学をわかりやすい言葉で一般に広めた、この分野の第一人者だ。

■お金を使わされていないか?
 デジタルマネーに気をつけろ

本書のキーワードは「主体性」だろう。私たちの不合理な側面は、必ずしも不都合なことばかりではない。そうした側面に身を委ね経験を引き立てることができれば、たとえ散財になったとしてもよいお金の使い方ということになる。でも問題は、それを自分の意思でやっているのかどうかということだ。むしろ、不合理な側面を研究し悪用され、知らず知らずのうちにお金を使わされていないだろうか? 私たちがなぜ不合理な行動を取ってしまうかを理解することによって、自分の選択を自分の手に取り戻そう、とアリエリー氏は訴える。

本書でとくに重点を置いているのが、昨今のスマートマネーなど、テクノロジーを利用した決済方法だ。私たちは新しい方法が出るとただ「便利だから」という理由で、大して考えもせずにとり入れてしまう。でも便利さと引き替えに、なにを失っているのだろう? アリエリー氏は別のインタビューで、「テクノロジーは必ずしも悪いとはいわないが、これまでは使う側よりも使わせる側に圧倒的にためになるかたちで利用されてきた」と警告している。今後ますます高度な技術が開発されるなか、私たちも行動経済学の理論で自衛して臨む必要があるだろう。

■楽しみながら学べる

本書はアリエリー氏の友人でコメディアンの(第3作の『ずる』にも登場した)ジェフ・クライスラー氏の協力を得て、お金という、ともすればややこしく深刻になりがちなテーマを楽しく取り上げている。訳者は第2作の『不合理だからうまくいく』から翻訳を担当させてもらっているが、実生活でもアリエリー氏の教えが役立つことが多い。その際一番鮮明に心に残っているのは、本で描かれる物語やエピソードだ(失敗したあとで思い出すことも多いのだが……)。本書でも、セールに目がないスーザンおばさんや新婚旅行中のジェフ、家を売ろうとしているブラッドリー夫妻など、誰もが身につまされるような失敗をする、実物大の人たちが登場する。楽しみながら読んでいただければさいわいである。

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【著者紹介】

ダン・アリエリー Dan Ariely
デューク大学教授。1967年生まれ。過去に、マサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院とメディアラボの教授職を兼務したほか、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン高等研究所などにも在籍。また、ユニークな実験によりイグ・ノーベル賞を受賞。2014年にはNHK Eテレ「お金と感情と意思決定の白熱教室」に出演して話題を呼ぶ。著書に『予想どおりに不合理』『不合理だからうまくいく』『ずる』『アリエリー教授の「行動経済学」入門』『「行動経済学」人生相談室』(すべてハヤカワ・ノンフィクション文庫)がある。

ジェフ・クライスラー Jeff Kreisler
プリンストン大学卒。弁護士を経て、お金と政治を扱うコメディアン、作家、コメンテーターになる。著書に風刺エッセイ【イタ/Get Rich Cheating】がある。

【訳者略歴】
櫻井祐子 Yuko Sakurai
京都大学経済学部卒、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書にダン・アリエリー『不合理だからうまくいく』『ずる』、ジョージ・フリードマン『100年予測』『続・100年予測』(すべてハヤカワ・ノンフィクション文庫)、シェリル・サンドバーグ他『OPTION B』など多数。

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アリエリー教授の「行動経済学」入門―お金篇―』(ダン・アリエリー、ジェフ・クライスラー/櫻井祐子訳、46判並製、定価1800+税円)は早川書房より刊行中です。

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コメント1件

「テクノロジーは必ずしも悪いとはいわないが、これまでは使う側よりも使わせる側に圧倒的にためになるかたちで利用されてきた」には、思わずニヤリとしてしまいました。使う側として。
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