新シリーズ『放課後地球防衛軍』スタート記念!「現役最古のラノベ作家」笹本祐一インタビュウ全文公開
──本作『放課後地球防衛軍』は、満を持しての笹本さんの早川書房初登場作品となります。本作はどのような経緯でご執筆されることになったのでしょうか。また、『ARIEL』や『ミニスカ宇宙海賊(パイレーツ)』などのご自身の既存の作品と異なる試みをされた部分はありますか。
笹本 プロ作家なので依頼があれば原稿を書きます。問題はいつ書き上がるか、という点にあります。ハヤカワで新作を、というオファーはもう数年以上前から頂いていましたが、諸事情により今回やっと書き上げることができました。
笹本としては原点回帰的なストーリーでもありますので、今までと違った試みというのはやっていないと思います。断片的なイメージ繋げて話にでっち上げるのも、長期的なシリーズ構成なんか考えないでやってるのもいつもといっしょです。
──本作は、さびれた町に流星群とともにやってきた美少女の転校生、という、ジュヴナイルの王道といえる導入からはじまります。このような設定を選ばれたのはどのような理由からなのでしょうか。
笹本 笹本にとってのSFの源流のひとつに、一九七〇年代にNHKで放送された少年ドラマシリーズがあります。かつてジュヴナイルと呼ばれ、今ライトノベルと呼ばれているジャンルに後生大事にしがみついているのは、子供の頃に触れたそんなSFがいちばん面白かったからでもあります。
作家になって、じゃあそのどこが面白かったのか、自分はどこを楽しんでいたのか分析してみました。
現代の現実的な風景からはじまるSFがいちばん面白いのは、あるシーンのある瞬間から見慣れた風景や住み慣れた街がまったく別の意味を持って登場人物の想像もしていなかった舞台になるところだと答えが出ました。
ここから逆算していけば、物語開始当初のキャラの心情とあるべき舞台は導き出せます。この話は、そうやってはじまりました。
──本作の舞台は、太平洋沿いの古い漁師町「岩江市」です。東京や大阪などの大都市ではなく、また笹本さんがお住まいの北海道でもなく、あえてこのような土地を舞台にした理由をお教えください。
笹本 話の舞台は、太平洋に向いた西日本、具体的には四国、足摺岬の近くの土佐清水市辺りをイメージしています。
南方、東方に海が開けている場所は落下物を太平洋に落とせるのでロケットの打ち上げに便利、また赤道に近いほど地球の自転速度をロケットに上乗せできるので有利とかいわれてますが、今のところ作中で化学推進の大型ロケットを打ち上げる予定はありません。
んじゃなんでそういう場所を選んだか、というと、ロケット打ち上げに適した場所は宇宙に開いているようなイメージがあるからです。
実在の地名を使わなかったのは、ひとえに現地の土地勘がないからです。グーグルストリートビューであちこち廻ってみたんですが、現地は札幌からも東京からも遠い。んじゃまあ、イメージだけで適当にやるか、と、今までの西日本、一部は東日本の旅先でのイメージが寄せ集められて岩江町及びその周辺を形成しました。
もうひとつ、場所を特定せずに、読者が共通してイメージしやすい田舎を舞台にしようと、共通言語の一般化を狙ったところもあります。実在の場所を舞台にすると、知ってる人にはイメージしやすいけれども知らない人にはわからないから描写する手間は同じです。現地の地図を見ながら、今ならストリートビューも駆使して話を作るのもそれはそれで楽しいんですが、今回はどこにでもありそうな田舎を好き勝手に舞台にすることにしました。
蓑山の天文台は、四国から遠く離れた野辺山の天文台をモチーフにしました。三四メートル鏡がダース単位で配置されているのは、最初に野辺山の天文台の四五メートル鏡の説明を聞いた時にそんなもんが列を作ってずらずら並んでいるのかと間違ったイメージを作ってしまったので、それをそのまま使っております。
──本作における各章のタイトルは「なぞの転校生」「ねらわれた学園」などジュヴナイルSFへのオマージュとなっています。これらの作品は重要なモチーフになっていると思いますが、章タイトルに冠した理由、そしてそれぞれの作品への笹本さんの思いをお聞かせください。
笹本 なぞの転校生、ねらわれた学園とくればこれはもう一九七〇年代の少年ドラマシリーズですが、八〇年代に大林宣彦監督の『時をかける少女』に端を発した映画、テレビのシリーズもあります。
今回はそんな話と考えて、じゃあどこからはじめるか。ぱっと思い付いたのが、大林版『時かけ』の冒頭シーンです。スキー教室そのまんまやってしまうわけにもいかないので、流星観測に変更しました。
第三話のタイトル、星空の向こうの国は、八〇年代に少年ドラマシリーズへのオマージュとして発表された作品です。映画も小説も、同好の士がいるなあと喜んでおりました。
第四話あたりになると、いろんなところからオマージュやパロディ持って来た話もついに笹本の本流に入ってきます。なので、メインタイトルに近い章タイトルになっております。
──本作は岩江高校の天文部員の面々を中心に、和やかな掛け合いで構成されながらも、最新の天文学についての目配りがされています。このユーモラスでコミカルな日常とハードSF部分とのバランスこそ笹本さんの真骨頂だと思いますが、本作においてこのバランスで気をつけられた点などはありますか。
笹本 すんません、最新の天文学といいつつ実際にはそれほど熱心にウォッチしてるわけじゃないんで、実は最新でもないのです。
最新の天文学の欠点として、発表される新理論や観測結果、その解釈などによってトレンドとなる流行語がころころ変わり、場合によってはあっという間に時代遅れになることもあります。具体的には、九〇年代初頭まで天文学会に太陽系外の恒星に存在する惑星を示す系外惑星という言葉は語られることはありませんでした。当時の観測技術では恒星までは見えても惑星までは観測できておらず、観測できないものは理論的に存在しても実在が証明できない。なので、ほぼ無視されていたのです。
これが業界なら、専門用語もトレンドも毎年アップデートしていけばいいのですが、小説だとそういうわけにもいきません。また、作品に自分の作家寿命と同じくらいの寿命を期待するなら、できるだけ長持ちするような工夫が必要になります。
最新トレンドに目を配ってるようなふりしつつ、観測や理論が更新されてもそれほどダメージを受けないで済むようなイメージを構築しています。って、これ、天文学だけじゃなくて日常の生活やら風俗やらもですねえ。今回の話はどれくらい長生きしてくれるかな。
──本作のキャラクターに関して。祥兵、雅樹、マリアたち天文部の少年少女と、梅田先生をはじめとする大人たちは、笹本さんの中の位置づけではどのように描き分けていらっしゃいますか? また、それぞれの描き方は、移りゆく時代の変化に合わせて異なってきているところはあるのでしょうか?
笹本 主人公となる高校生たちはいつもの通りです。杏は、かつて同じ岩江高校に通っていた先輩でもあり、彼女もたぶん自分で岩江町の秘密に気付いてその活動に参加したんでしょう。佐伯さんは杏にとってすでにベテラン教師だった世代、網元はさらに上。
時代の変化に合わせて書き分けてる自覚は、正直ありません。作劇法もキャラの作り方も、「とにかく考える」これだけです。そのキャラクターが子供の頃どうだったのか、若かった頃どうだったのか、なにをしたのか。なにをしたかったのか。その結果なにをどう考えるようになったのか。ひたすら考えていれば、そのうちにいろいろ出来てきます。
ただし、長年作家やってますんで、その作り方も変化はしてきていると思います。自己分析してもあんまり役に立たないのでやっていません。その辺りは研究者にお任せします。
──笹本さんは、宇宙開発や天文学の最新動向で、今いちばん気になっていらっしゃるのはどのようなトピックでしょうか? また、そこでの興味関心は本作の今後の展開に、どのように絡んでくるでしょうか?
笹本 二〇一六年年末、という今の時期に限れば、これはもうホリエモンロケットを開発しているISTつまり、うちのこと(編集部注:インターステラテクノロジズ(株)およびなつのロケット団)がいちばん気になります。
目の前の目標として宇宙空間と定義される高度一〇〇キロに届く単段式の観測ロケットを打ち上げるというミッションがあり、そのためのロケット開発が北海道十勝の大樹町で進んでいます。基礎技術はおおむね確立しているんですが、いざそれを実際に打ち上げるフライトモデルとしてまとめ上げるには、軽量化のために全部の要素を絞りながら組み合わせる必要があり、なかなか大変です。
自分というか身内のことに限らなければ、スペースXが着々と進めている民間開発ロケットであるファルコン、アポロ計画当時の米ほどではないにせよ着々と実績を積み重ねて月、火星を目指している中国など、宇宙開発の最新状況はいつも興味深く眺めております。
それがこれから本作にどう関わってくるか、ってえと、先の構成とか展開とかろくに考えてないので絡んでくるか、絡んでこないかもわかりません。
しかし、宇宙開発を取材し、実際にロケット開発に関わった経験そのものがいろいろとこれからの執筆にも役に立つものと思っております。
──本作では「地球外生命体」と「地球防衛」が大きなキーワードとなっていますが、笹本さんの中で、それぞれ典型的なイメージとなっているものはなんでしょうか。具体的な作品名(小説、映画など)を挙げて教えてください。
笹本 九〇年代にリメイクされたウルトラセブンを見た時に思ったんです。
「ウルトラセブン抜きのウルトラセブンが見たい」
言葉にするとなんじゃそりゃ? になりますが、ウルトラセブンが出てこない、ウルトラ警備隊対宇宙人、あるいは宇宙人が出てこなくても警備隊の日常業務の話が見たい、と思ったんですね。
特撮怪獣ものってえと宇宙から来た侵略者が最後には巨大化して暴れ回るのがテンプレートみたいになってますが、巨大化しなくても、侵略しなくても、充分話になるんじゃないのかとかねがね考えておりました。
地球防衛、というテーマでは、子供の頃に本放送をリアルタイムで見ている『謎の円盤UFO』が印象的です。
映像的イメージとしての宇宙人は、大きく分けて『スター・トレック』的な人間型が主要な世界と『スター・ウォーズ』に代表されるなんでもありな世界があります。『放課後地球防衛軍』ではヒューマノイド型宇宙人がメインになるだろうと考えております。
作品構想中に、映画、『MIB』が公開されました。お、これ、と思いましたね。スタイルもストーリーも全然違うけど、こういうのやりたいのよねえと思って見てました。
宇宙人が攻めてくる特撮テレビシリーズは、日本では最近は絶滅危惧種です。今も元気なウルトラマンのシリーズはとりあえずチェックするとして、昔の作品になりますが『特捜戦隊デカレンジャー』は、宇宙人が日常的に地球を訪れている設定での宇宙警察ものとして見ておりました。
──巻末に掲載されている「次回予告」に度肝を抜かれつつ、また大変ワクワクいたしました。これを入れた意図と、2巻以降の展開について、少しだけお教えください。また、結末まで構想は考えていらっしゃいますか?
笹本 網元のじっちゃんが「わしの若い頃は毎週のように宇宙人や怪獣が攻めてきたもんじゃがのう」っていいまして、ああつまりこれはそういう話かと気付きました。たぶん、担当さんも気付いたんでしょう。「こういう話には次回予告が必要である」と。なんで、次回予告に関しては担当さんとイラストレーターさんにすべてお任せしております。
二巻以降の展開については、毎度のことながらろくに考えてないんです。岩江町の沖に大昔墜落した宇宙戦艦が沈んでるとか、ほんとに宇宙怪獣が出てくるとか、かつての特撮ネタを今風にアレンジしたらどうなるかとか、ネタは山のようにあるんで心配はしてませんが、担当さんは心配かもなあ。
──ありがとうございました。
(二〇一六年十一月/メール・インタビュウ)
SFマガジン2017年2月号掲載記事