デビュー長篇で世界を席巻! サリー・ルーニーってどんな作家? 『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』訳者あとがき(山崎まどか)
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デビュー長篇で世界を席巻! サリー・ルーニーってどんな作家? 『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』訳者あとがき(山崎まどか)

 

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  『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』は現在、世界で最も注目されている新世代作家の一人、サリー・ルーニーの長篇デビュー作である。  

2017年にフェイバー&フェイバー社からこの小説が発売された時、彼女はまだ26歳だった。タイトルの通り、友人同士のおしゃべりやメールのやり取り、チャットなどの“会話”に溢れた独特のスタイルが注目を集め、『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』はセンセーションを巻き起こした。ルーニーは同時代の映画作家であるグレタ・ガーウィグなどと比較されて「ミレニアル世代の代弁者」とまで謳われるようになったのである。 

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Sally Rooney/ アイルランドの作家。1991年生まれ。トリニティ・カレッジ・ダブリンで英文学を学び、その後同大大学院で米文学の修士号を得る。
 2017年に発表したデビュー長篇の本書は、サンデー・タイムズ文学賞新人賞を受賞。テレグラフ紙、オブザーバー紙、Vogue、Elleの年間ベストブックおよび「サンデー・タイムズ、21世紀の100冊」にも選出され、著者は一躍文学界のスターとなった。世界27カ国で翻訳され、Hulu/BBCによるドラマ化が進行中。2018年の第2長篇 Normal People(早川書房近刊)は、英国最高峰のブッカー賞の候補となった。2021年には最新長篇 Beautiful World, Where Are You を刊行する。2019年にはタイム誌の次世代の100人に選ばれた。ダブリン在住。Author Photo©Kalpesh Lathigra

『カンバセーションズ』の語り手は、ダブリンで名門トリニティ・カレッジに通う大学生のフランシス。彼女は高校時代の恋人ボビーと今も親密な関係にあり、二人でスポークン・ワードのパフォーマンスをしている。フランシスとボビーは歳上のジャーナリストのメリッサと出会い、それがきっかけでフランシスはメリッサの夫で俳優のニックと関係を持つようになる。 

物語の中心にあるのは、フランシスとニックのロマンスだ。社会的な地位があり、裕福で、既婚者の歳上の男性に若い女性が恋をして、自分を見出していくというプロット自体は珍しくない。フランソワーズ・サガンの『ある微笑』や、サリー・ルーニーと同じくアイルランドの作家であるエドナ・オブライエンの『みどりの瞳』といった作品が思い浮かぶ。歳の離れた男女の恋愛の向こう側には、常に不均等な力のバランスがあり、若いヒロインはそれに傷つく。しかし、サリー・ルーニーが『カンバセーションズ』で描いたのは、フランシスとニック、二人の男女の不平等な関係ばかりではない。メリッサに惹かれる同性愛者のボビーと、他の男性や女性と浮気しながらもニックと別れられないでいるメリッサがそこに絡むと、関係性もパワー・バランスもより複雑になっていく。裕福ではない出自のフランシスは、富裕層である他の三人のアドヴァンテージを常に意識している。更に自分が憧れているような職業に就き、ニックの正式なパートナーであるメリッサは彼女にとっては強者だ。しかし実態はフランシスが思うほど単純ではない。メリッサにとってフランシスの若さは脅威だし、フランシスの目から見ると申し分のない環境で知性を発揮してきたボビーにも、どこか自分の才能に限界を感じている面がある。二人の女性から愛されているニックは、本来ならば四人のパワー・ゲームの頂点にいてもおかしくないが、彼は人間として脆く、危うさを含んでいる。社会階層、セクシュアリティ、ジェンダーの差。四人の関係性に持ち込まれる要素は多彩で、それによって一筋縄ではいかない展開とダイナミズムが生じる。共に左翼的な思想の持ち主で、理想主義者であるフランシスとボビーは資本主義や男性優位の社会における不平等について語り合っているが、実際の人間関係に同じ構造が持ち込まれると、問題に上手く対処できない。 

ロマンスの不条理と格差社会の問題は、サリー・ルーニーにとって大きなテーマだ。長篇第二作の『ノーマル・ピープル』Normal People の主人公は、高校で人気者の労働者階級の少年と、学校では最下層にいる裕福な家の少女だった。大人になっていくにつれて変わっていく二人のヒエラルキーは時に彼らを引き離し、時に強く結びつける。フェイバー&フェイバー社のミニブックのための短篇「ミスター・サラリー」では、若い女性と彼女の面倒を見ている歳上の男性との危うい絆を描いていた。 

ルーニーは複雑な恋愛模様について、安易な結論を出したりしない。『カンバセーションズ』でも主人公たちはロマンスにおける不平等性を自覚しながらも、惹かれ合う気持ちを信じて、混沌の中に飛び込んでいく。彼女の恋愛小説は結末のない現在進行形の物語で、そこがスリリングであり、もっと言うとセクシーなのである。 

サリー・ルーニーは1991年、アイルランドのメイヨー県カッスルバー生まれ。早くから執筆を始め、15歳で初めての小説を完成させたという。『カンバセーションズ』のフランシスとボビーと同じくトリニティ・カレッジ・ダブリンの出身で、大学では英文学を学び、更に政治学で修士号を獲得するために同大学院に進んだが、途中で専攻を変えてアメリカ文学で学位を取得している。『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』を書いていたのは、この時期のことだ。最初は短篇の予定だったが構想が広がり、初稿を三ヶ月で書き上げた。その頃に文芸誌に発表した短篇が文芸エージェントの目に留まって、それが『カンバセーションズ』の出版につながった。ルーニー自身が小説に描いたフランシスの作家デビューを思わせるエピソードだ。 

トリニティ・カレッジではディベート部でも活躍し、2013年にはヨーロッパ大学ディベート選手権に出場している。ルーニーは「マルクス主義者」と名乗っていて、資本主義社会に批判的だ。雑誌「エル」のインタビューに答えて、誰かを犠牲にして成り立つ社会のシステムは間違っていると発言している。社会主義がポジティブな変化を世の中にもたらすだろう、とも。

 『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』の次に発表した『ノーマル・ピープル』(近刊、早川書房)は世界的なベストセラーとなり、イギリスでBBCがドラマ化。ルーニー本人が脚色を手がけ、映画『ルーム』で知られるレニー・アブラハムソンが監督したシリーズは大変に好評で、主演のデイジー・エドガー?ジョーンズとポール・メスカルをスターダムに押し上げた。『カンバセーションズ』も引き続き、BBCでドラマ化される予定だ。前作と同じくアブラハムソンが監督し、主要キャストの四人も決定している。小説を初めて読む人たちに自分のイメージを大事にして欲しいので、ここでは名前を挙げないが、私の思い浮かべるフランシスたちの姿に近い俳優たちである。 

サリー・ルーニーは今年の秋に新作 Beautiful World, Where Are You が発売予定。七月に冒頭部分の抜粋が Unread Messages というタイトルでニューヨーカー誌に掲載された。今までの彼女の作品の主人公は学生だったが、今回の四人の主役は全員社会人だ。どんな関係性の物語が紡がれるのか、楽しみである。 

山崎まどか

TIME誌、次世代の100人の記事(英語)
https://time.com/collection/time-100-next-2019/5718853/sally-rooney/




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