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コンピュータのない時代、既にインターネットが存在した!? トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』まえがき

コンピュータも抗生物質も飛行機もなかった19世紀に、インターネットがあった⁉ 情報時代の起源をヴィクトリア朝に見出し、現代の私たちのメディア観を大きく揺さぶる話題のノンフィクションが『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(トム・スタンデージ、服部桂訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ヴィクトリア女王の治世で登場した電信は、かつてない距離を即時に越えるコミュニケーションを可能にしました。通信社間のスクープ合戦、当時の最新技術を利用した詐欺、オンライン恋愛、ハッキングなど、その社会的影響を現代の様相と比べてみると――。本書「まえがき」を全文公開します。

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』トム・スタンデージ、服部桂訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫(早川書房)
『ヴィクトリア朝時代のインターネット』早川書房

【各氏推薦!】
“蒸気船と電信が行き交う情報の新時代としての19世紀、スチームパンクの起源がここにあります”
  ――北村紗衣(英文学者)
“これはインターネット版『三国志』ですね。よくある「IT革命と産業革命のアナロジー」の真実はここにあったんだ、ということを思い知らされました。面白い!”
  ――村井 純(計算機科学者)

まえがき(『ヴィクトリア朝時代のインターネット』より)

19世紀にはテレビも飛行機もコンピュータも宇宙船もなかったし、抗生物質もクレジットカードも電子レンジもCDも携帯電話もなかった。

ところが、インターネットだけはあった。
ヴィクトリア女王の治世には新しいコミュニケーションの技術が開発され、とてつもない距離を即時に越えるコミュニケーションを可能にし、それが結局、世界をあっという間にかつてないほど小さなものにしてしまった。大陸や海を越えてケーブルが引かれることで世界規模のコミュニケーション・ネットワークができ、それがビジネスのやり方を革命的に変化させ、新しいかたちの犯罪を生み出し、利用者を情報の洪水で呑み込み、これを介した恋も芽生えた。

秘密の暗号を誰かが作ると、他の誰かが破った。このネットワークがもたらす恩恵を手ばなしで擁護する人がいれば、それを否定する懐疑派もいた。政府や当局は、この新しいメディアを規制しようとして失敗した。ニュース報道から外交まで、あらゆるものにどう向き合うべきかを、一から考え直さなくてはならなくなった。一方で、その周辺では、独自の習慣や言葉を持ったテクノロジーのサブカルチャーが立ち上がってきた。

これって、どこかで聞いたような話ではないだろうか?
今日ではインターネットはよく「情報スーパーハイウェー」などと呼ばれるが、その19世紀の先駆者だった電信も「思想のハイウェー」と呼ばれていた。現代のコンピュータはネットワークのケーブルを介してビットやバイトを交換しているが、電信では人間のオペレーターが電信回線を介して、モールス符号と呼ばれる短点(ドット)と長点(ダッシュ)でできたコードを送り合っていた。装置は違うものだったかもしれないが、その利用者の生活に与えた影響は驚くほど似ていた。

電信はコミュニケーションにおいて、活版印刷以来の最大の革命を引き起こした。現代のインターネットの利用者は、多くの点で電信の伝統の後継者である。つまりわれわれは現在、電信を理解できるユニークな状態にあるということだ。そして電信は逆に、インターネットの課題やチャンスや落とし穴について、われわれにすばらしい洞察を与えてくれる。

電信の興亡は、科学的発見や巧妙なテクノロジー、そして抗争や熾烈な競争の物語だ。それはまた、ある人にとっては楽観主義の精神そのものであるが、他の人には新しい犯罪の方法だったり、ロマンスを始めるものだったり、手早く儲ける手段だったりする。それらは昔からテクノロジー自体のせいにされがちだが、われわれが新しいテクノロジーにどう反応するかの教訓に満ちた寓話でもある。

本書で語るのは、この最初にオンラインの最前線に立っていた、変人、奇人、夢想家のパイオニアや、彼らの構築した世界的ネットワーク、つまり「ヴィクトリア朝時代のインターネット」の物語である。


テレビもコンピュータもない時代に、新しいネットワークはいかに作られたのか? ……気になるこの続きは、是非本書でご確認ください(電子書籍も同時発売)。

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著訳者紹介

■著者紹介:トム・スタンデージ(Tom Standage)
ジャーナリスト・作家。1969年生まれ、オックスフォード大学卒。英『エコノミスト』誌副編集長。『ニューヨーク・タイムズ』『ガーディアン』『ワイアード』など多数の新聞・雑誌に寄稿。著書に『世界を変えた6つの飲み物』『謎のチェス指し人形「ターク」』『A Brief History of Motion』など。

■訳者略歴:服部 桂(Katsura Hattori)
1951 年生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学理工学部で修士取得後、1978 年に朝日新聞社に入社。84 年にAT&T 通信ベンチャーに出向。87 年から89 年まで、MIT メディアラボ客員研究員。科学部記者や雑誌編集者を経て2016 年に定年退職。関西大学客員教授。早稲田大学、女子美術大学、大阪市立大学などで非常勤講師を務める。著書に『VR 原論』『マクルーハンはメッセージ』『人工生命の世界』など。訳書にケリー『テクニウム』『〈インターネット〉の次に来るもの』、マルコフ『ホールアースの革命家』など。監訳書にダイソン『アナロジア AI の次に来るもの』(早川書房刊)がある。

この記事で紹介した本の概要

『ヴィクトリア朝時代のインターネット』
著者:トム・スタンデージ
訳者:服部 桂
出版社:早川書房(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
発売日:2024年5月9日
本体価格:1,100円(税抜)
*本書は2011年12月にNTT出版より単行本として刊行された作品を文庫化したものです。

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