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【11月22日発売】『ホワット・イズ・ディス?』ランドール・マンローさん来日イベントレポートその2 「この本を書くことで、人からバカだと思われたくないという不安から開放されました」

2016年7月2日(土)に紀伊國屋書店新宿本店8階イベントスペースにて行われた「ランドール・マンローさんトーク&サイン会」のレポートの第2弾をお送りいたします。

(ランドール・マンロー氏)

この本を刊行したとき、色々な人から「シンプルに表現するのは難しかったですか?」と質問されたのですが、シンプルな言葉で表現することが難しいというよりも、「言葉で何かを表現すること自体」が難しいと感じました。

それをもっとも強く感じたのが、細胞について説明しようとしたときです。

https://note.mu/hayakawashobo01/n/nbd8ecf781814 (画像の拡大図はこちらから)

細胞という単語は使えないので、「君の体を作っている小さな水のふくろ」という名前にしました。

子供のころ学校で細胞の授業を受けたとき、生徒たちに細胞の絵を描かせる時間がありました。

基本的に丸を描いて、その中に様々な色でパーツを描き込み、各パーツにラベルをつけるように名前を書き足しました。

当時は「細胞とは、色々なものがぐちゃぐちゃに入った奇妙なもの」という印象で、全然素敵なものに見えずがっかりしました。

そんな子供時代に細胞を描いたときよりも、この本で描くほうがはるかに難しかったです。

というのも、シンプルな言葉で細胞が何をしているのかを説明する工夫が必要でした。

例えば時計だとパーツの役割がはっきりしていて、それぞれのパーツが一つになって時計を動かしていることが明白ですよね。

細胞の場合は、「この袋の中にはこんな化学物質があって……」というようにしか描けないのです。なぜならどれも複雑な働きをしていて、わかりやすい言葉で表現できるほど概念が明確でないものが多いからです。

こうした大変な作業を終えたとき、体調を崩して風邪をひいてしまいました。

風邪は大体ライノウィルスによって引き起こされるので、ページの隅っこにライノウィルスを実物大くらいに描きました。

「もうこっちに来るな!」という感じでつまみ上げているイラストです。

ほとんどお遊びみたいですが、生物の系統樹も描きました。

色々な動物におバカな名前をつけたのですが、一番気に入っているのは5つにわけた恐竜のグループです。

子供の頃は恐竜を「○○ザウルス」と呼ばず、「つのがあるやつ」とか「板があるやつ、「かみつくやつ」、「鳥」、「長いやつ」と呼んでいたので、そのまま名前をつけました。

こうしたおバカな名前をつける作業は楽しかったです。

動物で気に入っている名前は、ハリネズミを「とげとげネコ」、コウモリを「羽なし鳥」と名づけたことです。

こうしたおかしな名前をつける作業は、ある面で自分を解放してくれました。

私は学校で物理や数学を勉強して、NASAに入りました。

アメリカ政府のためにUp-Goer”(ロケット)を作るところです。

そのとき私が思い悩んでいたことは、人からバカだと思われたくないということでした。

「あいつは何もわからないで喋っている」と思われているのではないかという不安を、つねに抱いていました。

バカだと思われたくないために複雑で難しい言葉を使い、他の人が難しい言葉を使って言い間違えたときには、「あなたはこう言ったけど、本当はこれが正しいのでしょう」とわざわざ間違いを指摘したりもしました。

そのせいで私もその人も嫌な思いをして、気弱になった経験があります。

内容を理解するのに、難しい言葉を使うかどうかは全然必要なことではないのに。

一番の問題は、人から揚げ足を取られることを恐れ、バカだと思われなくないために、本当にわからないときに質問をしなくなってしまったことでした。

こうした背景があり、人からもらったちょっとおバカな質問に丁寧に答える取り組みを考え、生まれたのが『ホワット・イフ?』です。

そして次の『ホワット・イズ・ディス?』では物事の説明をすること自体に、おバカな言葉を使うことを試みました。

『ホワット・イズ・ディス?』では、自分がこだわっていた難しい言葉を一切捨てて、単純な言葉で、あえておバカな言葉を使って表現することができたので良かったです。

皆さんも他人に馬鹿にされることを恐れず、『ホワット・イフ?』に登場するようなおかしな質問をしてみたり、『ホワット・イズ・ディス?』のようにあえてやさしい言葉を使って説明してみてください。

難しい専門用語を使いこなすことではなく、中身を楽しむことが一番大切です。

これらの本を読んで、楽しさを味わってほしいと思います。

今日はありがとうございました。

■質疑応答

(司会)1,000語の基本的な単語を決めることは、言葉の構造も違う日本語ではなかなかできないことだと思いますが、今はどのように翻訳されていますか?

(訳者:吉田三知世、以下吉田)大体半分くらい形になってきたところです。「原書の1,000語で書かれている特徴と、同じような制約をかけて訳文を作って欲しい」とマンローさんからの強いご意向がありました。

日本語で1,000語に限るのは非常に厳しいのですが、早川書房と相談をして、「小学校6年生までで習う漢字だけを使用する」という制約をかけて訳文を作りました。

制約をつけることで、表現もやさしくなりますからね。

どうしてもやさしく書けない部分もあるのですが、日本語は非常に便利で、難しい単語でも漢字と仮名をまぜたり、習わない漢字はカナにするなどしています。

どうしてもやさしく書けない部分もあるのですが、そんな時に日本語は非常に便利です。漢字と仮名をまぜて使えますからね。

難しい単語、例えば臓器の名前も、小学生くらいだったら皆知っているんですよね。

ただ漢字が書けないだけで。

ですので、習わらない漢字はカナに直しています。

お読みになった方はわかると思うのですが、この『ホワット・イズ・ディス?』は普通の百科事典とは違って、マンローさんの世界観を体現しています。

マンローさんが「もの」をどう把握しているのか、その世界観を伝えたい、「この〈もの〉をこう捉えたら面白いんだよ。」というところを伝えたいと思って訳しています。

例えば家のなかの水道の排水のシステムについて書いてあるのですが、この何百年かの間に人間たちの健康が改善したのは水をどうコントロールするか、水をコントロールすることによって体に害をおよぼす細菌や汚いものを家の中にいれないシステムをつくったことで私たちの健康が向上したということをもっとわかりやすい言葉でマンローさんは書いているのですが、それを読んで、自分自身が自宅の水道や下水を恥ずかしながら意識したことがなかったので「これはすごいな」と思いました。

そういうところが随所にあるので、それをなるべく素敵な言葉で日本の読者に味わっていただけるような訳文にしたいなと思っています。

(司会)お話聞くと、楽しんで訳されているようですね。

(吉田)そうですね。楽しいです。眼を開いて下さっているというか、「物事ってこういう風に見るのだな」という発見があります。

(『ホワット・イズ・ディス?』を読んで頂けると、)物の見方が自由になるのではないかなと思います。

本書は絵と文のコラボで、文章もデザインの一部という本なので、自分の力を超えているけど、なるべく楽しいところが伝わる訳にしたいです。

(おわり)

ランドール・マンロー氏の新作『ホワット・イズ・ディス?』は全国書店で好評発売中!

詳しくは http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013376/

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