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世界幻想文学大賞受賞! デイヴィッド・ミッチェル最新邦訳作『ボーン・クロックス』の魅力に迫る。

 『ナンバー9ドリーム』、『クラウド・アトラス』、『出島の千の秋』などの著作で知られるデイヴィッド・ミッチェルの最新邦訳作『ボーン・クロックス』(原題:The Bone Clocks)が、8月20日に刊行されました。2015年に世界幻想文学大賞を受賞した本作は、15歳の少女ホリーの人生を中心に展開される6つの物語からなる大作で、舞台は、1984年のイングランドからイラク、アメリカ、ディストピアと化した2043年のアイルランドまでに渡ります。今回は、本書のあらすじと、ミッチェルの作風の特徴、そして本作の装画・装幀をご紹介します。

ボーン・クロックス・オビ付き

デイヴィッド・ミッチェル/北川依子訳『ボーン・クロックス

装画:木原未沙紀/装幀:坂野公一(welle design)

A5判上製/2段組/648ページ/4,900円+税

◆あらすじ

1984年夏、英国グレイヴゼンドのパブの娘ホリー・サイクスは、母との喧嘩で家出したある日、老婆エスター・リトルと出会い、不思議な約束を交わす。

1991年、ケンブリッジ大の小賢しい学生ヒューゴ・ラム、2004年、イラク戦争を取材する仕事中毒のジャーナリスト、エド・ブルーベック、2015年、才能の枯渇した作家クリスピン・ハーシー。

彼らはそれぞれの日常の中で、ホリーとのささやかな邂逅を果たし、いっぽうホリーは彼らと交差する人生の背後で、〈時計学者(ホロロジスト)〉と〈隠者(アンコライト)〉との永遠に続く戦いに巻き込まれていく。

そして2043年、自然災害が頻発するディストピアと化したアイルランドで、死を前にして静かに暮らすホリーは、ボーン・クロックス〈骨でできた時計〉の意味を悟る──。

ひとりの女性の人生を舞台に、6つの物語が展開する壮大なるサーガ。

◆ウーバーブック(Überbook)というコンセプト

 あらすじにあるように、本書はひとりの女性の人生を軸として進んでいきます。舞台はイングランドから、アイルランド、スイス、イラク、中国、コロンビア、アイスランドなどに渡り、読者はこの壮大な時間と空間の中を旅することとなります。そして、このような作風の背景には、ある物語が一つの小説のなかだけで完結せず、他の小説にも繋がっている仕掛けが存在し、ミッチェルはそれをウーバーブック(Überbook)と呼んでいます。以下、訳者の北川依子氏の本書あとがきより抜粋いたします。

 『ボーン・クロックス』の出版以来しばしば話題に上るのは、ミッチェル作品において同じ人物が複数の小説に登場するという特徴だ。本作でも『出島の千の秋』のマリナス医師を筆頭に、ヒューゴ・ラムやモー・マンタヴェリーなど、ミッチェルの読者には馴染みのある名前がいくつも現れる。以前の作品にも人物の反復は見受けられた。著者によると、初期の小説では、敬愛する村上春樹が羊男やワタナベ・ノボルをしばしば登場させる手法に憧れて、カメオ出演のような形で試していたらしい。しかし、本作を執筆したころから、ミッチェルはより大きな構想を意識するようになった。セプターのペーパーバック版の巻末には「再登場する人物について」という文章が収録されている。そのなかでのミッチェルの説明によると、同一人物を繰り返し登場させる手法をとる背景には、せっかく創造した人間像をあっさり葬り去りたくはない、すでに十分に肉づけされた人物を用いれば効率がよいといった、実際的な理由もある。しかしそれに加えて、彼の念頭には〈ウーバーブック〉(Überbook)──直訳すれば「超小説」とでもなるだろうか──という遠大な構想があるのだという。すなわち、個々の作品がもっと大きな未完の本の一部を形作っており、ひとつ作品が完成するたびに新たな一章が加わる。さらに、それらの作品間をトンネルで繋ぐことによって、人物の自由な行き来が可能になるという仕掛けだ。

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デイヴィッド・ミッチェル/©️Leo van der Noort

(中略)幼いころ、ミッチェルは想像上の地図を描くのが好きで、どんどん描き足していきながら、そのすべてに地名をつけることに夢中になったという。地図には細部まで明瞭に描きこまれた島がいくつか浮かんでいて、島がひとつ加わるたびに、その地平は広がっていく。同じことをいま、彼は小説という形で進めているわけだ。小さな島が集まってひとつの小説の世界が形成され、さらにその上の次元でも、個々の小説という島が集まってひとつの宇宙が作られる。そして、作者が書きつづけるかぎり、その宇宙はどこまでも広がっていく。こう考えると、ミッチェルの創造の原理が少しだけ見えてくる気がする。(訳者あとがきより)

 この「どこまでも広がっていく」というウーバーブックの仕掛けが本から飛び出してきたかのように、邦訳版『ボーン・クロックス』では、イラストとデザインが、カバーの表から裏へと続きます。

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 2014年に原書が刊行された本作ですが、2020年、出口の見えない状況が続くいま、私たちが生きている「時間」について、考え直すきっかけを与えてくれます。家にいる時間が増えている今こそ、このウーバーブックの宇宙に飛びこんでみるのはいかがでしょうか。

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デイヴィッド・ミッチェル(David Mitchell):1969年、イギリス・ランカシャー生まれ。ケント大学を卒業後、英語講師として広島に滞在する。日本滞在中に執筆した長篇デビュー作Ghostwrittenがガーディアン紙の新人賞候補に選出されるなどして、注目を浴びる。二作目の『ナンバー9ドリーム』と三作目の『クラウド・アトラス』はつづけてブッカー賞最終候補に選出。『クラウド・アトラス』は、ネビュラ賞、アーサー・C・クラーク賞の候補にもなり、2012年に映画化された。その後刊行された長篇Black Swan Green、『出島の千の秋』もつぎつぎとブッカー賞にノミネート。また、2013年には、東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』の英訳を刊行し、日本との縁が深い作家としても有名。本書は、2014年のブッカー賞の候補に選ばれ、2015年に世界幻想文学大賞を受賞。2015年にはSlade Houseを刊行し、1960年代の英国のロックバンドが主人公となる最新作Utopia Avenueは2020年7月に本国で刊行された。ジャンルを超えて壮大な物語を紡ぎ続ける、唯一無二の作家である。現在は、妻と二人の子供と共にアイルランドで暮らしている。



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