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【11月22日発売】『ホワット・イズ・ディス?』ランドール・マンローさん来日イベントレポートその1「この本では、1,000語の基本英単語だけを使って、難しい事柄を説明しています」

2016年7月2日(土)に紀伊國屋書店新宿本店8階イベントスペースにて行われた「ランドール・マンローさんトーク&サイン会」のレポートをお送りいたします。

イベントでは、この度発売になる『ホワット・イズ・ディス?』の着想、工夫、思いがたっぷり語られました。

イベント開始

(ランドール・マンロー氏)

本日はご来場ありがとうございます。今回日本はもちろん、アジアを訪れるのは初めてです。

この本では、1,000語の基本英単語だけを使って、難しい事柄を説明しています。

ちなみに英語では“thousand”(1,000)という単語が『ホワット・イズ・ディス?』で使用する基本単語の中に含まれないため、1,000と表現するときは、ten hundredと書いています。

こうした制限があるため、この本を書く中では特殊な科学用語や専門用語は使っていません。

あえて難しいものを説明するときも、そのものずばりの名前ではなく、子供でも使える言葉で全てを表現しました。

今日はなぜこうしたことを始めようと思ったのかを皆さんにご説明します。

このプロジェクトは、教育目的ではなく、ビデオゲームを作るような感覚でスタートさせました。

https://note.mu/hayakawashobo01/n/n10eacb617c3b (画像の拡大図はこちらから)

まずこうした宇宙ロケットのイラストに、そのまま「ロケット」と名付けるのではなく、私たちが人工衛星に「ひとみ」と素敵な名前をつけるようなことを考えました。

ところが実際にやってみると、ロケットにキラキラネームのような名前をつけても不釣り合いであることに気づき、おバカな名前に変えてみることにしました。

例えば“Flyng Tube”(飛ぶチューブ)や、“Flyng Car”(飛ぶ車)、“Up-Goer”(上に行くもの)と名づけています。

こうしたことを繰り返すうちに、ロケットのパーツにもおバカな名前をつけたら面白いのではと思うようになりました。

子供が思いつくような名前を考えようとしたことが、この本で子供でも理解できるやさしい言葉を使うことにしたキッカケです。

さて、実際に名前をつける作業をするうちに、困ったことが起きました。

例えばロケットの中についてです。

ロケットの中にあるたくさんのタンクには、特殊な燃料が入っていて、それらを1,000語のシンプルな言葉で表すことは、とても難しいことがわかりました。

その一つに液体酸素のタンクがあります。

「酸素」という言葉は、最もよく使う1,000語の中に含まれていないので、「空気の中で私たちが良く使う成分が冷たくなったもの」と名づけました。

またタンクに入ったケロシン(石油)は、「私たちが電気を使えなかった時代に明かりをともすためにランプを燃やすために使っていた液体」と表しています。

他にも様々な名前をつけましたが、自分が一番気に入っているのはエンジンが噴射する部分です。

「自分が上に行きたいときに上に向かって出るのではなく、下に向かって出るもの」という名前にしました。

このように液体酸素やケロシンなどの化学物質を説明する言葉を考えることは難しい一方で、とても面白いことだと気づきました。

そこでロケットだけでなく他のものにも、名前をつけて説明してみようと思ったのです。

https://note.mu/hayakawashobo01/n/nd15e61e219fd (画像の拡大図はこちらから)

次に取り組んだのがこちらです。

元素周期表も見開きページで作りました。

なんでも細かく説明するのがすきなので、出版社の人に「こんな小さい字は印刷できない」と言われてしまうけれど、

いくつかのページは見開きで作りました。

「元素」と「周期表」という言葉も1,000語の中に入っていなかったので、「全てのものが作られている部品」という名前にしました。

元素は118個ほどあるのですが、1つ1つの元素名の代わりに、その元素が何か? どんなことをするのか? ということを名づけました。

一番上にあるのがヘリウムですが、ここには風船の絵を描いて「この中に入っている気体」と表しています。

続いてこちらのタングステンという元素です。

これは電球の中のフィラメントをつくっている元素なのですが、電気の絵を描いて、「この中の繊維を作っている金属」としました。

シリコンは「コンピュータを作っている石」としています。

しかし調べるうちに、特徴づけて説明できない元素がたくさんあることに気づきました。

例えばスカンジウムという元素があるのですが、調べてもとくにパっとした特徴のない元素だということがわかりました。

(スカンジウムと)似たような特徴を持った金属が他にもあったので、「全然面白くない元素」と名づけたのです。

この本がアメリカで出版された際にプロモーションツアーでたくさんの読者に会ったのですが、そこで研究論文のテーマにスカンジウムを選んだ研究者と出会いました。

「〈あまり面白くない元素〉と名づけて、なにかクレームを言われるのでは……スカンジウムに他の元素を混ぜると、性質が変化することを描けば良かったかな」とナーバスになりました。

そこで「たとえばスカンジウムにアルミを入れると、性質が強くなり、色々なことに使えるようになるのですか?」とその研究者に聞いたのです。

すると彼は「アルミを入れると逆に弱くなって、余計使いものにならなくなるんだよ」と教えてくれました。

彼の答えを聞いて、自分が最初に名づけた「あまり面白くない元素」というのは間違っていなかったということに確信を得て、そのままその名前で通すことになりました。

周期表の一番下のあたりは、瞬間的に消えてしまう元素ばかりで、言葉で表現しづらいものばかりです。記述の仕様がないので、名前の特徴を紹介することにしました。

カリフォルニア州にちなんだ(カリホルニウム)があるので、そこにはカリフォルニア州のイラストを描きました。

118個の元素はヨーロッパの地名にちなんだ名前が多いのですが、そのうち4つがヨーロッパの1カ所の地名にちなんでつけられていることがわかりました。

そこはスカンジナビア(スウェーデン)にある、イッテルビーという町です。

イットリウムとその近辺だけで採取できる特殊な4つの元素が発見されたのです。

まだ訪れたことはないのですが、すごい町なのだと思います。

世界には素敵な町がたくさんあると思いますが、この町だけで周期表の3パーセントを占めていると思うと、ちょっと不公平な感じがしますね。

最近では日本が命名権を得たニホニウムというのがありますが、その名前に決定してほしいです。周期表にはあまりにヨーロッパの名前が多いですから。

https://note.mu/hayakawashobo01/n/nd6958c12e336 (画像の拡大図はこちらから)

こちらは「内臓」という言葉は使えないので、「君の体内にあるいろいろなふくろ」としました。地下鉄の路線図をイメージしています。

この本を刊行したとき、色々な人から「シンプルに表現するのは難しかったですか?」と質問されたのですが、シンプルな言葉で表現することが難しいというよりも、「言葉で何かを表現すること自体」が難しいと感じました。

(つづく)