大森望のSF観光局note出張版#02 「演劇女子部 タイムリピート~永遠に君を想う~」ゲネプロレポート
大森望さんによる、SFマガジンで大好評連載中のコラム「SF観光局」。SF的トピックをいちはやくnoteでお伝えする「出張版」です!(編集部)
まさか、ハロプロのミュージカルでSF的に感動するとは。
Juice=Juiceメンバー8人が主演する演劇女子部の舞台「タイムリピート~永遠に君を想う~」は、ハロプロ演劇史上最高のSF作品というだけでなく、時間ループものの歴史に新たな1ページをつけ加える傑作。ハロー!プロジェクトって何? Juice=Juiceって誰? というSFファンも、ぜひスペース・ゼロに足を運んで、歴史の証人になってほしい。
どんな話なのか、公式サイトから粗筋紹介を引くと――
宇宙歴3255年。銀河連邦とロア帝国は30年にわたり、冷戦状態となっていた。銀河連邦の宇宙船・乗組員総勢13名を乗せたエスペランサ号は、希少エネルギー・ネオクリスタルが眠る惑星を発見。着陸準備に入ったところ、突如、小惑星のような謎の天体が現れ、衝突により大破してしまう……
ところが、乗組員の鉱物学者・ルナは再び目を覚ます。気づけばそこは、大破する前のエスペランサ号内部だった。
永遠に繰り返される時間の中で、やがて一つの真実が明らかになる。
ぱっと見、スタートレック的な宇宙SFに時間ループをくっつけた感じで、「アイドルの舞台でそんなのやって、ちゃんとまとまるのかね」と思うのがふつうのSFファンの感覚だと思う。実際、ゲネプロの幕が上がっても、しばらくは期待より不安のほうが先に立つ。宮本佳林が物理学者役、稲場愛香が鉱物学者役とか、違和感しかないでしょ。
ところが、最初のリピートが起きた瞬間から、舞台ならではループものの見せ方が新鮮な驚きをもたらす。自信満々で高圧的にふるまっていた冷静沈着な〝イヤな女〟キャラのルナ(稲場愛香)が異常事態を前に動揺する一方、他のキャストは前回と同じ芝居を続ける。
これだけでも、芝居のモードがいきなりルナ視点に切り替わる衝撃があるが、なにしろこれはミュージカルなので、ヒロインは「まるで巻き戻した映画のよう」「これはデジャヴじゃない」「時間が戻ってる」「くりかえされてる」と歌いはじめる。うわあ、こんなの初めて見たよ。
……と、ここまでは主に表現形式に起因するインパクトだが、リピートの回を重ねるたび、隠されていた事実が明らかになり、限られ短時間内でカタストロフ(宇宙船爆発)を避けるためのヒロインたちの行動が変化してゆく。そこに投入された、いくつかのアイデアはSFとしても画期的で、度肝を抜かれた。さんざんつくられてきた時間ループものに、まだこんな手が残っていたとは! 小説や映画ではリアリティをもって描きにくいアイデアかもしれないが、舞台では非常にうまく成立している。舐めててすみませんでしたと謝るしかない。脱帽。
プロデューサーの丹羽多聞アンドリウが公式プログラムのコメントで、「私は超がつくくらいのSFオタクです」「小説の『宇宙船ビーグル号の冒険』やレイ・ブラッドベリの『火星年代記』はじめハヤカワ文庫の愛読者であり、SF映画を見まくっておりました。だからSFにはうるさいです。脚本の太田(善也)さんは私のダメ出しが多くて相当大変だったかと思いますが素晴らしい作品にあがったと思います」と述べているが、その言葉通り、時間ループネタ以外にも、あんなSF映画こんなSF小説でおなじみのネタが縦横無尽にちりばめられ、それがたいへん有効に機能している。
ハロプロの舞台は、劇団ゲキハロの旗揚げ公演 『江戸から着信!?~タイムスリップto圏外!~』(2006年)に始まって、半村良原作の『戦国自衛隊~女性自衛官帰還セヨ /女性自衛官死守セヨ~』と『ミュージカル戦国自衛隊』、くらもちふさこ原作の『TRIANGLE-トライアングル-』、萩尾望都原作の『続・11人いる!東の地平・西の永遠』など、数々のSFを舞台化してきたが、オリジナル脚本でこれだけ正面からSFに挑むのは初めて。
いままでは、SF的にはちょっと微妙かな……と思うものもあったが、『タイムリピート』は、本格SF劇として、SFファンに自信をもって推薦できる。10月分のチケットはまだ買えるので、「アイドルが演じる時間ループもののSFミュージカルってどんなの?」と思った人はぜひ。
蛇足ながら、Juice=Juiceは今のハロプロ内でも歌唱力には定評があるグループなので、生歌でも安心。ハロヲタ的には、主演のふたり(稲場愛香と宮本佳林)はじめ、演じる役柄が、アイドル本人の背景やキャラクターと微妙に重なるあたりもポイント。
とくに稲場愛香は、カントリー・ガールズに所属していた2年半前(2016年4月)、健康上の問題でとつぜん活動を休止し、主役に抜擢されていた演劇女子部の舞台「気絶するほど愛してる!」を途中降板(大阪公演はキャンセル)、その後カントリー・ガールズからの卒業が発表されたいきさつがある。
1年半の休養を経て、昨年9月に活動再開、今夏、Juice=Juiceに電撃加入してハロヲタを驚愕させたと思ったら、4年ぶりのJuice=Juice舞台でいきなり主役に帰り咲き、複雑な背景を持つ一匹狼キャラを鮮やかに演じて、ポテンシャルの高さを改めて証明した。
対する物理学者ソーマの役柄にも、ハロプロでもっともストイックに理想のアイドルを追求しながら、二度の病気休養もあってファンからいろいろ心配されがちな宮本佳林のイメージがなんとなく二重写しになる。
Juice=Juiceのリーダー宮崎由加とサブリーダー金澤朋子がそれぞれ船長と副船長を演じたり、その他のメンバーも本人のキャラに合わせてあて書きされたような役柄を演じていて、ファンにはいろいろと楽しい(とくに植村あかりの素っ頓狂ぶりが絶妙)。Juice=Juice以外のキャスト5人(今後活動が始まる新グループに加入予定のメンバー)も、高瀬くるみと前田こころの軍人コンビ、岡村美波と山﨑夢羽のミカ&エリー、副整備士役の清野桃々姫と、それぞれ見せ場が用意され、隅々まで楽しめる。
*大森望さんによる、演劇女子部「タイムリピート~永遠に君を想う~」の詳細レポートはSFマガジン2018年12月号(10月25日発売号)にて掲載予定です。お楽しみに!
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演劇女子部「タイムリピート~永遠に君を想う~」
2018年9月28日(金)~2018年10月8日(月・祝)
全労済ホール/スペース・ゼロ
脚本:太田善也
演出:西森英行(Innocent Sphere)
出演:Juice=Juice、高瀬くるみ、清野桃々姫、他
※出演者は変更になる場合がございます。