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【連載07】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優

Episode 4 「再開」

Part 1

 マヒロのダンスの相手を探して五人があつまり、解散したあと、ユウリはナオとダンスパーティ会場を歩いていた。
「なあユウリ、やっぱりお前は艦隊勤務志望か」
 ナオの言葉に、ユウリは頷いた。
「いやはや。オレも艦隊勤務に誘われたんだがね。そんなに艦隊がいいかね」
 ナオは肩を竦めて見せた。
「……分かっているだろう、君は」
 ユウリはつぶやくように言う。
 一年前の、大和帝律星襲撃事件。最も被害を受けたのはユウリとナオの故郷、氷見名市だ。そこでユウリは不可解なことに性別を決定する遺伝子を奪われてしまった。それを取り戻すのが、ユウリの基本的な動機だ。
「とりあえず、主席おめでとう、と言わせてもらうぜ」
 ナオはユウリの肩をぐっと引き寄せて、言った。子供の頃と変わらない、親しみの仕草。だが子供の頃と違って、ナオの身体は蠱惑的に成長していたから、ユウリはそうされるたびに、どぎまぎしてしまう。
「……まあ、ありがとう、と言っておくよ」
「しかし、艦隊勤務ともなると、これからやってくる『招待客』たちと仲良くなる機会も増えるんだろうな。楽しい時間が過ごせそうだ」
 ナオは言う。
 招待客とは、艦隊勤務の星霊たちだ。これから親しく付き合うであろう彼女らと、予め親交を結んでおくのが第二セッションの目的なのだ。
だが、ちゃかすように言うナオに、ユウリはむっとして少し頬を膨らませた。
「確かに星霊はみんな美しい……。でもボクが艦隊勤務を志望するのは、それとは違う理由だよ」
「ああ……分かってるさ」
 ユウリとナオは長年の幼なじみで、彼女と彼子の関係は、ナオが士官学校に入学しても、変わっていない。だから、二人は将来への展望を互いによく話し合っていた。
「悪いな。まあお前をちゃかさずにいられないのはオレのさがみたいなもんだ」
 ユウリの将来への展望ははっきりしていた。
 人類連合に奪われた自分の遺伝子情報を取り戻す。
 自分たちのように、アメノヤマトの市民が二度と連合圏に襲われないようにする。
 この二つだ。
二年前のあの日、襲撃を受けたユウリたちは、その後失われた氷見名市を離れた。ユウリは帝都で失われたゲネクトーム情報を復活させるための治療を受け続けたが、結論としてはそれは不可能とのことだった。ユウリの両親のゲネクトームから再構成しようとしたが、両親からユウリに遺伝した性染色体が何だったのか、氷見名サクヤ、そして大和帝律星が保管していたバックアップ情報すら失われてしまったために、分からなかったのだ。勿論両親から適当に選んだ性染色体を使うこともできたが、それではユウリではなく別人(ユウリの仮想的なきょうだい)のそれとなってしまう。ユウリの性染色体ではない。そのようなことを星律は禁じていた。
 唯一、再構成する方法があるとすれば、それは、あのときユウリのゲネクトーム情報を奪った人類連合軍からデータを奪い返すことだ。
 そのためには、ちゃちな諜報戦ではうまくいかないだろう。連合圏の中枢部まで攻め込むことが必須になる。
 ユウリはそう考え、艦隊勤務を志望していたのだ。
「君は……情報部志望だったか」
「ああ」
 ナオは短く答えた。
「母さんを見つけるためにな」
 ナオは、氷見名市が人類連合に襲撃される前から、軍に入ると決めていた。その話をユウリはすでに聞いていた。
 連合圏にさらわれた母親の情報を得たい。
 それが動機だ。
 ナオの母親は元星霊だ。一〇年前のある日、彼女が滞在していた星律系が連合軍の襲撃を受け、以来行方不明だ。
 ナオの求める母親の情報は、連合圏の中枢にあるとも思えない。偶発的にさらわれただけなので、連合圏に潜入し、各地でいろいろな情報をさぐっているうちに見つける――それが唯一、彼女が期待できる母親を見つける方法だった。
「……お互い、目的がかなうといいな」
 ユウリが言う。
「ああ」
 ナオは言ったが、彼女は言葉を付け加えた。
「だが、お前の身体のこと、あまり気に病むことはない。オレは今のままのお前の身体も好きだぜ」
「そう言われてもね。ボク自身はやはり、いつまでも未熟なままなのは嫌だよ」
 ユウリは素直にそう言った。彼子が自分のコンプレックスを素直に認めるのは、おそらくナオに対してだけだろう。ユウリは内向的な努力家で、自分の苦労やコンプレックスを容易には他人に語らない。日々人知れず努力し、自分の望みを叶えていく、そういうタイプだ。
「でも、君がそう言ってくれることには素直に感謝しておく」
 彼子はそう付け加えた。ナオは微笑む。
「まあ、成長した身体、成長しない身体、どちらにもそれぞれ魅力があるってことさ。オレはそう思ってる。ただ、オレはどっちも経験しているからそう言えるが、お前は成長した身体のことが分からない――それはやっぱり嫌なことなんだろうな。だが」
 ナオはユウリの手首を握って、自身の豊かな胸に触れさせた。
「成長した身体のことが知りたかったら、いつでも教えてやるぜ?」
 ユウリは顔を赤らめ、手を引っ込める。
「……遠慮しておく。君の善意はありがたいが、そういう好奇心だけで、人と深い関係になるのはボクの性に合わない」
「くっく。気にするな。善意じゃない。お前の慌てる顔が見たかっただけさ」
「こいつ……!」
 ユウリはナオの詰め襟をつかむ。
「本当に残念だよ。お前がYESと言ったら、ベッドでも存分にお前が慌てたりびっくりしたり、興奮したりした顔が見れると期待したんだがな」
 ナオが更にそう言いつのったので、ユウリは更にナオの詰め襟を持って自分に引き寄せた。
「まったく! 君はいつもそれだ。ボクが真面目な話をしているつもりになっていたら、いつの間にかボクを茶化してくる……! いいかい、ボクは確かに未熟だが、成長したって、君のように楽しみのために他人と深い仲になったりはしないからな!」
「おいおい、今度は嫉妬かよ。勘弁してくれ。いいじゃないか、人脈だよ人脈。お陰で同期の学生とはみんなだいたいよく知り合えるようになった」
 ナオは詰め襟をつかまれながらも、ふざけた態度をやめない。だが、ユウリが更に何か言いつのろうとしたとき、ふっと真面目な顔になり、その美しい紫の双眸で、ユウリをじっと見つめた。
「ま、それでも、一番大切に思っている同期はお前だよ。それは絶対に間違いない」
「……まったく」
 ユウリはナオの詰め襟から手を離す。
 ナオは、表面上はただの悪ふざけの好きな性格だが、時に真面目な顔もするし、意外に物事を広く見ていて、思考も深い。それが、彼子が彼女との関係をずっと大切に思っている理由の一つかもしれなかった。
 それに、そんな彼女の性格も、ユウリは嫌いではない。内向的で友人関係も少ない彼子にとって、彼女は世界を広げてくれる、得がたい存在だとも、実は認めていた。
 こんなときにそれを素直に認める言葉を吐くようなことは、流石に彼子は嫌だったが。
 ナオが「同期たちとだいたい『仲良く』している」という時の『仲良く』というのは、おそらく同衾を指すのだろう。アメノヤマト人にとって、十六歳という年齢は特別だ。性別決定の儀を経て、初めて性というものを実際に経験できる最初の年だからである。
 そして、ナオが飛び抜けて奔放なのは確かだが、士官学校生の間では、「学生同士の恋愛は遊び」という認識が広く定着していることも、彼女の奔放な行動を容認する素地になっていた。将来帝律次元軍の将校となることが約束されている学生らは、彼子/彼女/彼(ユウリを含む必要があるので3つの三人称の羅列となる)の将来のパートナーは星霊だと決め込んでおり、その前に人間を相手にするときは、その関係は一時的なものであると思い做す傾向があった。
 そのとき。ダンスパーティ会場の正面の演壇に、一人の学生が立った。
「お。ルリハだ。お前と同じく、オレが『仲良く』したくてもできなかった少数派の一人だな」
 ナオは不埒なコメントでルリハを評する。ユウリたちの同期の中では、ルリハは第三席の成績であった。
 第一セッションの開始の挨拶は次席のナオ、第二セッションの終わりの締めの挨拶は主席のユウリが行うことになっており、第一・第二セッションの切り替えの挨拶は第三席のルリハの役割というわけだ。
 登壇したルリハの、ぱっちりした目も、一本の三つ編みにして右肩から垂らした艶やかな髪も、いずれも瑠璃色。即ち、濃い紫で、青の成分もあり、艶やかで吸い込まれそうな美しさだ。ナオの紫の瞳もそうだが、髪や瞳の色に紫の成分が濃いのは、帝律圏では通常、星霊――正確にはもと星霊――の血が入っていることを意味する。ただ、普通は星霊の血が入っていると言っても、紫の成分を僅かに含む程度だが、彼女の髪と瞳は星霊と寸分変わらないほどに紫の色が濃い。
しかし耳の先は尖っておらず、かつ、ドレスの胸元にも星勾玉が見当たらないため、辛うじて彼女は人間だと識別できる。このように紫が濃いのは、軍人家系の特徴だ。星霊と接する機会が多い軍人はそれだけもと星霊と結婚する確率が高く、それが代々続くとこのように星霊と見分けがつかなくなる。
 しかし、ルリハが誇っているであろうその濃い紫の髪と目よりも先にユウリが注目したのは、ルリハの成長した大人の女性としての身体であった。
(ああ、あれほどあの大人びたドレスが似合う身体になれたらな……)
 ユウリは心の内でそう慨嘆するのを止めることができなかった。
「お集まりの皆さん」
 ルリハの声は緊張のためにややこわばっていたが、聞きようによってはハリのある、凜とした声になっていた。
「我がアメノヤマト帝律圏がこの銀河において誇れることは何でしょうか? 国力においては、我が圏界はアルヴヘイムの約半分、人類連合に比して約三十分の一――比べるべくもありません」
 ルリハの言葉に、特に異を唱える者はいない。事実だからだ。アメノヤマト帝律圏の誇りとするところは、別の部分にある。
「しかしながら、人類文明の後継者たる人類と星霊――その二種類の知性体の間の大いなる和こそは、我等が真に誇りとするところ。古来、地球時代において、我が国の始祖の地である弧状列島は、大陸から様々な民族が最後に流れ着く地でありました。我が国の長い歴史の中で、多くの民族が融和し、一つのテーゼを信奉する民族にまとまっていきました。そのテーゼとは『和』です。その伝統を受け継ぎ、この銀河時代の今、我等が新たな二種の知性種の宥和を掲げ『大いなる和』を敷延することをテーゼとした圏界として存続していることは、我等の始祖、そして皇室の皇祖皇宗の御心にも叶う慶賀に足ることであろうと、私は確信しています。そして、我が帝律次元軍こそ、この『大いなる和』の敷延の一番の担い手でありましょう。それは、外においては天之川銀河全域に我が圏界の影響力を広め『大いなる和』の名の下に集う星律系を増やすこと、そして、内においては星霊との誓約の絆の尊さを体現すること――その二つの意味においてであると考えます。そして、私が思うに、まずは後者が我等にとって重要でありましょう。なぜなら、星霊との絆なくして、我等帝律次元軍がその精強さを保ち、我等に倍するアルヴヘイムや、我等の三十倍もの人類連合を相手に、第三の勢力としてこの銀河に独自のテーゼを打ち立て、彼等と伍することなどできないのですから」
 ルリハの挨拶は長い。ルリハは軍人家系の惣領姫であり、それを誇りに思っているから、帝律圏の伝統だの皇祖皇宗だの語らせると、必然的に話が長くなる。
「ったく――偉そうなこと言ってるわりに『絆』って何をするのか分かってんのかね。アイツ、一応一ヶ月ほど同期と付き合っていた時期があるようだが――たぶんそういう経験ないぜ?」
 ナオが飽き飽きした顔で言う。
「なんてこと言うんだ。話は長いけどいいこと言ってるじゃないか」
 一応彼女の話は素直に聞いていたので、彼子はそう反論する。
「はいはい、主席様はさすが優等生。お前、あいつのこと嫌いじゃなかったっけ」
「嫌いだよ。あまり話したくはないね」
 ユウリはきっぱりと言った。
「――ただ、別にこの世からいなくなれとまでは思わない。あのやたらとボクにかみつく狂犬のような性格を直してくれればそれでいい」
 ナオはふっと息をついた。
「その方法は、やつが一番知りたいことだろうぜ」
「え……?」
 ユウリはきょとんとした。ナオの言っていることが全く理解できなかった。だがナオもそれ以上説明する気もないらしく、頭の後ろに腕を組んでルリハの方を見た。
 実のところ、ルリハの話はまだ続いていたからだ。
「――と、話して参りましたが、結論は一つ。こうした得がたい機会を作ってくださった皆様に感謝しつつ、星霊の皆様と、是非仲良くなりましょう。招待客の皆様の、ご入場です!」
 ルリハの言葉を真面目に聞いていた八割の学生、そして、ナオを含む残りの二割の学生も、ルリハの最後の言葉には身構えた。

2023/01/05/12:00更新【連載08】に続く


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