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大好評のホームズ・パスティーシュ第二弾!『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』訳者・日暮雅通氏あとがき

シャーロック・ホームズとクトゥルーの旧き神々が対決する《クトゥルー・ケースブック》シリーズ待望の第二弾! 『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』が発売となりました!

本欄では、翻訳者・日暮雅通氏によるあとがきを掲載します。

解説(あとがきにかえて) 日暮雅通

 本書は、英国の作家ジェイムズ・ラヴグローヴによる・クトゥルー・ケースブック・三部作──つまり・クトゥルー神話・をテーマにしたホームズ・パスティーシュの、二作目である。

 この三部作の成り立ちについては、ラヴグローヴによる「はじめに」で概略が説明されているが、なんらかの理由によりこの第二作を先に手にとってしまった方のために、少し補足しておこう。

 ジョン・H・ワトスンの回想録として発表されたシャーロック・ホームズ物語では、アフガニスタンの戦役で負傷して帰国したワトスンが、聖バーソロミュー病院時代の手術助手であるスタンフォードの紹介によってホームズと出会い、ベイカー街二二一Bで共同生活を始めることになっている。

 しかし、事実はまったく異なっていた。ワトスンの傷はジェザイル銃弾によるものなどではなく、もっと忌まわしい、H・P・ラヴクラフトの記述したクトゥルー神話世界の怪物によるものだったのだ。身体と心に深い傷を負って帰国した彼は、偶然出会ったホームズが追っていた事件により、ふたたびクトゥルー神話のおぞましいものどもに関わっていくことになる。そして、グレグスン警部やマイクロフトを巻き込み、人類以前の神々および怪物たちとの闘いに発展していくのだが、争いのカギとなるのが、あのモリアーティ教授だった。

 一八八〇年に起きたその最初の闘いを描いたのが、一作目の『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』だ。ホームズたちはその後もずっと闘いを続け、二作目である本作『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』には、十五年後(一八九五年)の出来事が描かれている。一作目の頃に二十六歳だったホームズが、十五年間にわたる闘いでどんなふうに変わったか──本書のカバーを見るとわかるだろう。

 そして三作目の『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』(仮題)は、さらに十五年が経った一九一〇年の出来事だ。晩年になったワトスンが、三十年間にわたるホームズたちとクトゥルーの神々や怪物たちとの闘いを──いわば真実を暴露するかたちで──回顧録として残したわけである。

 ……と、ここまで私は「三部作」と書いてきたが、・クトゥルー・ケースブック・としてはもう一作、Sherlock Holmes and the Highgate Horrors (シャーロック・ホームズとハイゲイトの恐怖)という長篇が予定されている(二〇二三年十月刊行予定)。ラヴグローヴは前述の三部作を二〇一六年から二〇一八年まで毎年出版して完結させたが、その後二〇二二年初めのインタビューで、四作目の着想を得ているが個人的な事情により書きはじめられなかった、と語っているのだ。

 この解説を書いている時点では詳しい内容がわからないが、死期が迫っていることを自覚したワトスンが、一九二九年に新たなクトゥルー事件簿の執筆に取りかかるという設定で、二人がロンドン北部のハイゲイト共同墓地で生き返った死体に遭遇したあげく、本作にも登場する地球外生命体「ミ゠ゴ」の地球侵略計画に対抗するというものだが、アイリーン・アドラーも登場するらしいのが、楽しみなところだ。ラヴグローヴによれば、「(三部作の続きでなく)スタンドアローンのストーリーだが、作中の出来事は三部作に書いたこととつながっているので、調和はとれている」という。

 また、一作目の解説に書いたように、クトゥルー・ホームズ・パスティーシュとしてはもうひとつ、二〇二〇年に発表された“The Affair of the Yithian Stone”という短篇があり、三部作の一作目と二作目のあいだの時期に起きた出来事が描かれている。これは《ミステリマガジン》に訳出の予定なので、いましばらくお待ちいただきたい。

 最後に、肝心の本作について少し。すでにお読みになった方はご存じのように、本作は一作目と異なる構成になっている。『緋色の研究』および『恐怖の谷』という二長篇と同じく二つのパートに分かれており、ラヴグローヴが序文で書いているように、第一部は「ホームズが直接関与する物語」、第二部は「本篇と入れ子になっている補助的な物語」なのだ。この点から、原書の刊行時、クトゥルー神話ものやラヴクラフト作品よりもホームズ物語に愛着をもつファンから、長々とした第二部でホームズが登場しないことに物足りなさを感じるという感想があった。だが、その第二部の存在がむしろ・正典的・な要素をもち、前後のパートに対して重要な役目をはたしているということを考えれば、納得できるだろう。

 ラヴクラフト的なラヴクラフティアン、あるいはクトゥルー神話的な作品とホームズ物語を融合させたパロディ/パスティーシュの変遷については、三作目の解説で触れることにしたい。

 今回も、クトゥルー神話関係のカタカナ表記やルルイエ語は、特にどの文献に準拠したというわけではないということをお断りしておく。また、訳出にあたっては、ラヴクラフト関係の訳書がある府川由美恵氏にご協力いただいた。記して感謝したい。 

 二〇二三年六月

『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』
ジェイムズ・ラヴグローヴ
日暮雅通=訳
イラストレーション/鈴木康士
デザイン/albireo

ホームズとワトスンがクトゥルーの古き神々と初めて対決してから15年後。その間もふたりはロンドンで邪悪な闇の勢力と戦い続けていた。ある日グレグスン警部の依頼でふたりは精神病院ベドラムを訪れる。そこに収容されていた男はクトゥルーの言語・ルルイエ語を壁や床に書き殴っていた。背後にはアメリカを流れるミスカトニック川にまつわる恐るべき謎が!? ホームズ物語×クトゥルー神話の大好評パスティーシュ、第二弾!