【ラスボーンズ・フォリオ賞受賞】『津波の霊たち』著者からの特別メッセージ
英国の国際的な文学賞「ラスボーンズ・フォリオ賞」を受賞し、ますます注目を集める『津波の霊たち』。本書の著者リチャード・ロイド・パリー氏が、日本の読者に向けて特別メッセージを寄稿しました。
【あらすじ】在日20年の英国人ジャーナリストは、東北の地で何を見たのか? 2011年3月11日、東日本大震災発生。その直後から被災地に通い続けたロイド・パリー記者は、宮城県石巻市立大川小学校の事故の遺族たちと出会う。74人の児童と10人の教職員は、なぜ津波に呑まれたのか?
一方、被災地で相次ぐ「幽霊」の目撃談に興味を持った著者は、被災者のカウンセリングを続ける仏教僧に巡り会う。僧侶は、津波の死者に憑かれた人々の除霊を行なっていた。大川小の悲劇と霊たちの取材はいつしか重なり合い――。
傑作ルポ『黒い迷宮』の著者が6年の歳月をかけ、巨大災害が人々の心にもたらした見えざる余波に迫る。
日本の読者へ
(早川書房編集部・訳)
5月8日の火曜日、私はじつに良いニュースと、じつに悪いニュースをそれぞれ受け取った。
良いニュースは、東日本大震災に関する私のノンフィクション『津波の霊たち』(原題 Ghosts of the Tsunami )が、英国の文学賞「ラスボーンズ・フォリオ賞」を受賞したことだ。この賞は、ロンドンで毎年発表されている文学賞である。300人ほどの作家・ジャーナリストから寄せられた一次候補作のなかから、年間最優秀作品を3人の選考委員が選ぶ。こうした文学賞では珍しいことに、フィクションとノンフィクションの両方が、同じ土俵で選考される。小説と回想録を含む他の7作の最終候補は、こちらが怖気づくほどの力作ぞろいだった。リストを見たとき、自分にチャンスはないと思ったものだ。
受賞は、じつに素晴らしい栄誉だった。しかし同時に、私の受賞は、震災から7年がたつ今も、外国の読者のあいだに、東北の人びとに対する関心が途絶えることなく続いている証左でもあると信じている。
悪いニュースは、同じ日に届いた。2011年3月11日、宮城県石巻市立大川小学校の子どもたちが津波に呑まれて死亡した事故に関して、市側の過失を認めた仙台高裁の判決に対し、石巻市議会が最高裁への上告賛成を決議したのだ。この学校では、教師たちが高台への避難勧告に耳を貸さなかった結果、本来なら助かったはずの74人の児童が命を落とすという悲劇が起きた。これは、私の本の中心を占める物語である。
震災から数年のあいだに、私は亡くなった子どもたちの親の何人かと知己を得、そのなかにはこの訴訟の原告となった方々もいた。親たちは、その当然の怒りを法廷に持ち込むことには最後まで本当に及び腰で、何年にもわたる行政側の言い逃れと隠蔽の結果、ようやく訴訟に踏み切ったのだった。
親たちは、すでに愛する我が子を失っている。つまり、法的手続きの引き伸ばしは、さらなるストレスと苦痛の種となった。原告たちは地裁で勝訴した。それを受けて行政側は控訴。親たちは高裁で再び勝訴し、一審よりもさらに大きな損害賠償を認められた。石巻市議会の議員たちは、潔く敗北を受け入れることなく、子どもたちの死を招いた役人と教師たちの大失敗を認めることもなく、最高裁に上告することによって遺族たちの苦痛を長引かせる道を選んだ。私は、その強情さと傲慢さにうんざりしている。この決定によって、彼らはすでに十分だった恥の上塗りをすることになったのだ。
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リチャード・ロイド・パリー『津波の霊たち――3・11死と生の物語』(濱野大道訳、本体1,900円+税)は早川書房より発売中です。
【書評・著者インタビュー多数】
産経新聞(2/18):書評(黒木亮氏)
WEB本の雑誌(2/22):書評(原口結希子氏)
福島民報(2/24):書評(東えりか氏)
クーリエ・ジャポン(2/28):著者インタビュー
HONZ(2/28):書評(鰐部祥平氏)
中央公論(4月号):書評(奥野修司氏)
週刊現代(3/17日号):著者インタビュー
AERA(3/12日号):対談(金菱清氏と)
週刊文春(3/15日号):書評
産経新聞(3/7):著者インタビュー
読売新聞(3/8):著者インタビュー
日経新聞(3/10):書評(最相葉月氏)
朝日新聞(3/11):書評(横尾忠則氏)
読売新聞(3/11):書評(森健氏)
中日・東京新聞(3/11):書評(中野不二男氏)
神戸新聞(3/11):書評(東えりか氏)
STORY BOX(4月号):書評(東えりか氏)
週刊現代(3/24日号):書評(末井昭氏)
北海道新聞(3/23夕刊):コラム(土方正志氏)
Wedge(5月号):書評
週刊ダイヤモンド(5/19日号):書評(平野雅章氏)
文藝春秋(6月号):書評(角幡唯介氏)