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ライムスター宇多丸「民主的プロセスというものの意義を再確認する意味でも、今こそ必読の書」『冤罪と人類』書評

発刊後早々に重版が決定した、管賀江留郎『冤罪と人類――道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)。戦前・戦後の冤罪事件の考察を通じて人間の本性を抉る本書がいま、大きな話題を呼んでいる理由とは? 本記事では、ラッパー・ラジオパーソナリティのライムスター宇多丸さんによる書評を公開します。

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書評 ライムスター宇多丸(ラッパー・ラジオパーソナリティ)
認識の歪みが生む悲劇

「凶悪化する少年犯罪」は現代特有の「心の闇」の産物である……などという物言いが、いかに思い込みだけの妄言に過ぎないかという事実を、実証データから喝破してみせたのが前著『戦前の少年犯罪』(築地書館)から約8年(編集部注:単行本時)。管賀江留郎氏久々の新刊『冤罪と人類』は、そこからさらに踏み込んで、ではなぜそもそも、人はそのような錯誤に陥ってしまうのか?という領域にまで分析の射程を伸ばしてみせた、恐るべき一冊だ。

たしかに人間とは、さしあたって「自分が見たいものしか見ようとしないし、聞きたいことしか聞こうとしない」生き物だろう。物事をありのままに捉えるのではなく、経験則上予測される枠内に無理矢理にでも当てはめたり、因果関係を類推して「物語化」したり、いずれにせよなんらかの「編集」を経て初めて、世界というものを認識できる……それは無論、我々が進化の過程で獲得した、一種の知的能力ではあるのだが。そこから生じる歪みが、必然的にもたらす悲劇として、例えば「冤罪」がある。

かくして、戦後史から進化心理学、アダム・スミスまで、あらゆる領域を横断してゆくこととなる本書はしかし、最終的に、極めて真っ当な道筋を提示してみせるのだ。すなわち、「手前勝手に"考える"前に、正確な情報をできるだけ多角的に集めて、検証を重ねよ」! 己の不完全さを自覚している者だけが、辛うじて完全性に「近づいてゆく」ことができる……民主的プロセスというものの意義を再確認する意味でも、今こそ必読の書だと思う。

※初出:日本経済新聞 2016年6月23日


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