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連続殺人鬼は、あなたのすぐそばにいるかもしれない。【5刷決定】『死刑にいたる病』冒頭公開

「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」ある日突然、連続殺人犯からそんな手紙が届いたら。そして差出人が自分のよき理解者だったら、あなたならどうしますか――? 衝撃的な展開で話題の小説『死刑にいたる病』(櫛木理宇)の冒頭を掲載します。


絶望とは死にいたる病である。
──キェルケゴール  
 あたしはあなたの病気です
──寺山修司『疫病旅行記』  

プロローグ

 信号が変わり、いっせいに人波が動いた。
 時刻はちょうど昼どきだ。オフィスビルから、サラリーマンやOLの群れがわらわらと路上へ下り立ってくる。近隣の専門学校生、買い物帰りらしいカップル、交代で休憩に入るらしいショップの店員たちと入り混じり、ランチと休憩とを求めて歩きだす。
 飲食店が立ち並ぶ通りは、大きな歩道橋を渡った先にあった。
 マクドナルドやドトール、サブウェイといったファストフード店。安くて量が多い定食屋。最近雑誌で評判になったカフェ。はたまたラーメン屋、牛丼屋、ファミリーレストラン、カレーショップ。通りに向かう人波が、軍隊のように整然と列をつくって歩道橋をのぼっていく。
 その波に逆らうように、歩道橋の下り口にぽつんと立つ人影があった。
 群衆に顔を向けてはいるが、瞳にはなにも映っていない。わずかに焦点を失った双眸(そうぼう)は、いま眼前にある現実ではなく、遠い日の記憶を見つめていた。
 すれ違うOLたちの、
「ねー、なに食べる?」
「サブウェイ。とーぜん海老アボカド」
「またそれぇ? ほんと好きだねえ」
「あたしパン飽きたー。ミスドの飲茶(ヤムチャ)でいいや」
 と笑いさざめく声も耳に入らない。鼓膜の奥から蜂の羽音のように鳴り響くのは、〝あの日〟の〝あの声〟だけだ。
 ──きみの好きにしていいよ。
 ──選んでいい。きみには、その権利があるんだから。
 ──きみがどんな答えを出そうとも、ぼくはそれに従うよ。
 彼の声は、いつだって甘く優しい。
 もう二度と耳もとで聞くことはない声だ。わかっている。なのに彼の声は、言葉は、いまも胸の奥に息づいて、いつまでも消えてくれない。
 自分は一生、彼を忘れることができないのだ──あらためて確信する。彼の幻影を追ったまま、こうして残りの半生を無為に過ごすしかできない。自分は虜囚(りょしゅう)だ。石のごとく冷えて重い罪を抱えた、無様な虜囚だ。
 幸福なんて、もうない。あのとき失ったのだ。なにもかもすべて。
 だから自分はどこへも行けずにいる。何年経っても、気づくとここに戻っている。あのとき彼に「選んでいい」と言われた、この場所に。
 そうして自分は選んだ。他の誰でもなく、己を守るために。なのにあの声に、あの言葉に、いまも囚われつづけている。
 ──そうか。
 ──わかったよ、さよなら。
 ──もう会うこともないだろうけど、元気で。
 これは罰だ。ほんとうに守るべき人を守らずに裏切った罰だ。傷は一生癒えることなく、
じくじくと膿む。静かに音もなく壊死していく。
 あの日のこの場所から、やりなおせたらいいのに。そう何度も願った。だが詮ない祈りだった。
 だって時間を巻きもどすことはできない。いったん口に出した言葉は、誰にも打ち消せはしないのだ。
 目の奥がじわりと潤んだ。みぞおちから、熱い塊がせりあがってきた。塊は小石のように喉をふさぎ、呼吸をせつなく詰まらせた。
 こみあげる嗚咽(おえつ)をこらえた。片手で顔を覆う。
 人びとが街を笑顔で闊歩していく。なまぬるい風が吹き過ぎる。
 浮塵子(うんか)にも似た群衆の中、自分の立つ一点だけが、ぽっかりと切りとったように黒く、深く、どこまでも孤独だった。

第一章

1
  「おーい、筧井(かけい)」
 背後からの声に、ゆっくりと筧井雅也(まさや)は振り返った。
 ──誰だっけ、こいつ。
 雅也は目の前に立つ男子学生を怪訝な思いで眺めた。薄手のカーディガンにチノパンツ。
肩にはルーズリーフをはみださせた安っぽいトートバッグを提げている。典型的な量産型大学生だ。とくに洒落てもいない代わり、けして浮くこともない没個性スタイルというやつだった。
 名前も思いだせないその量産型学生が、
「今日、ゼミの飲み会なんだけどさ、おまえも来る?」
 と顔の筋肉のみで笑う。
「ああ、いや」
 雅也はもごもごと答えた。
「いいよ。やめとく」
「そうなんだ。ひょっとしてもう予定ある?」
「え、ああ。まあ」
「そっか、悪かったな」
 顔に笑みを貼りつかせたまま、いまだ名を思いだせない学生が離れていく。踵(きびす)を返して歩きだす雅也の背に、低いささやき声が刺さる。
「おいおまえ、なんであんなやつ誘うんだよ」
「だって一応同ゼミじゃん」
「筧井ってしゃべるんだな。おれ、あいつの声はじめて聞いたかも」
「キョドってたよな。『え、ああ。まあ……』だってよ」
 悪意あるカリカチュアを含んだ物真似に、どっと笑い声があがる。まだ近くにいる雅也の耳に入るだろうことはまるで頓着していない。いやむしろ、わざと聞かせようとしているのか。
 くだらない、と雅也は内心で吐き捨てた。
 くだらないやつらだ。くだらない、程度の低いからかいだ。どうせやつらの「飲み会」なんて、参加するだけ金の無駄に決まっている。安居酒屋での迷惑きわまりない馬鹿騒ぎに、アルコールと煙草の臭気。考えただけでうんざりだ。
 二年前に入学したばかりの時期はさすがに断りきれず、雅也もよく振りまわされたものだった。
 アルコールハラスメントが提唱されて久しいというのに、いまだすたれない酒の強要。どこの誰が考えたのかも知れぬ、馬鹿げた一気コール。話題といえば女か、教授の悪口か愚痴。無理やり連れてきた後輩への公然としたセクハラ、パワハラ。
 うぶな女子学生を酔いつぶそうと、酒になにやら仕込む犯罪者まがいの輩(やから)までいた。自分のアパートを「先輩のヤリ小屋」などと誇らしげに自称するやつもいた。さすがは俗に言う〝Fラン大学〟だ。一から十まで下品で、低劣だった。
 ──あいつらみんな、いますぐ死なねえかな。
 口の中で、低く雅也はつぶやく。
 成人過ぎたら政府は一律に知能指数を精査して、平均未満のやつをガス室にでも送っちまえばいいんだ。ただでさえ国力が低下しているいまこそ、優生保護法が必要だ。限りある資源をあんな阿呆どもに使わせてやる義理はない。貴重な酸素を吸わせることさえ、業
腹なくらいだ。
 雅也は構内の舗道を歩きつづけ、テラスつきの学生食堂を素通りした。
 大学の食堂には、彼は滅多に足を踏み入れなかった。
 いい歳をして一人で飯も食えないのか、学生の大半はやたらと食堂で群れたがる。グループをつくり、テーブルを無理に寄せ、大口を開けて咀嚼物を丸見えにさせながらしゃべっては馬鹿笑いする。
 そうして雅也のような学生を、彼らは「ぼっち」と呼んで嘲るのだ。
 いっとき巷(ちまた)で「他人の視線が耐えられず、便所の個室にこもって弁当やパンを食う学生がいる」と話題になったことがあった。さすがにそれは都市伝説だろうと雅也は考えていた。
だがある日彼は、人気(ひとけ)のない非常階段に座ってコンビニ弁当を広げている学生を目撃した。
 小太りの学生は窓もなく、掃除の手も入らない、羽虫や蛾の死骸だらけの非常階段で弁当をかきこんでいた。雅也は足早にその場を立ち去った。その後何日か、その学生の姿が網膜に焼きついて離れなかった。
 ──どうして人は、孤独を恥ずかしいと思ってしまうんだろう。
 ぼんやりと彼は思った。
 超然としていればいいではないか。徒党を組みたがるのは、どうせレベルの低いやつらばかりだ。おれはあんなやつらとはわけが違うのだと、堂々と胸を張っていればいいじゃないか。
 本来の志望大学に、雅也は何度か在学生のふりをして潜りこんだことがある。講義だけでなく、食堂にも、図書館にも入ってみた。
 むろんグループで騒ぎたてるやつらはいた。馬鹿げた歌を大声でがなったり、通りすがりの女子学生をからかっている輩もいた。
 だが三割強の学生は忙しなく一人で歩きまわり、一人で食事をかきこみ、一人で行動していた。そしてそんな彼らに、奇異な目を向ける者は誰もいなかった。
 ほれ見ろ、とそのとき雅也は思ったものだ。
 ほれ見ろ。人の目を気にして、ぼっちだなんだと揶揄(やゆ)し、顔を突きあわせては噂話に興じるやつらのほうがおかしいんだ。やっぱりあれは、低レベルな学生ども特有の感性なんだ。
 だいたいが私立の底辺学生のくせに、「おれは天下の大学生でござい」と大手を振って歩いているのがおかしいんだ。プレ就活の段階でひいひい言っている分際で、親の金で飲み会だ留学だと浮かれやがって。他人の評価ばかり気にするごくつぶしが。セックスと己の見てくれにしか興味がない低能どもが。
 歩きながら、口の中でぶつぶつと雅也はつぶやきつづける。
 ふと、食堂の壁にもたれて煙草をふかしている学生たちが視界に入った。
 大学は教室も講堂も、もちろん食堂も禁煙だ。煙草を吸おうと思えば外に出て、こうして備えつけの灰皿を囲むしかない。すでに灰皿には、溢れんばかりに吸い殻が盛りあがっていた。
 彼らの脇を通りすぎながら、副流煙を吸わないよう雅也は息を止めた。
「いやーもう二時ごろには三万負けててさ、あそこの台やっぱ駄目だわ」
「駄目ってわかってんなら突っこむなよ」
「でもさ、ほら駅前の店はもう出禁になっちゃったじゃん? まあ当たんないからって、がんがん台パンしまくったおれが悪いんだけどさー」
「馬っ鹿、普通台パンくらいじゃ出禁になんねーよ。おれなんかこないだ、あんま当たんねえから台蹴って、ガラスにつば吐いてやったぜ」
 パチスロの話題だろうか。下品な哄笑とともに、煙突のように煙を噴きあげる一団の横を雅也は早足ですりぬけた。
 数メートル過ぎて、止めていた息を長く吐く。一瞬で髪に沁みたニコチンの臭いに顔をしかめる。
 誰も聞いていないのを確認してから、彼は大きく舌打ちした。
 頭上に広がる青空さえ、いまの雅也にはわずらわしいだけだった。降りそそぐ陽光も、目に沁みる芝の緑も、すべてが忌々しかった。
 入学当時は彼も、編入試験を目指していたものだ。本来の志望であった国立大学に三年次編入学するつもりであった。
 だが一年の夏前に、その決心はくじけた。
 一番の原因はまわりの空気に呑まれてしまったことだ。
 周囲の学生はみな、遊ぶことだけに熱中していた。「社畜になる前に遊んどかなきゃ損だろ」とうそぶき、真面目に講義に出席する学生たちをせせら笑い、雅也のようにおとなしそうなやつらを捕まえては、
「出席カード、おれのもお願い」
「代わりにノートとっといてな」
 と馴れ馴れしく肩を抱いてきた。
 大学の数が増えすぎたのが悪いんだ、と雅也は唇を噛んだ。
 昔ならこんなやつら、進学なんて夢のまた夢だったはずだ。高校を卒業したら近場の工場か自衛隊にでもぶちこまれて、性根ごと叩きなおされていたに違いない。そうでなけりゃ、生まれる前に始末されていたようなやつらだ。
 入学して早々、雅也は“彼ら”の洗礼を受けた。
 飲み会に無理やり連れだされ、一気させられ、断ると「ノリ悪わりいな」、「空気読めよ」と尻を蹴飛ばされた。そしてトイレで吐いている間に財布を抜きとられ、
「女の子はタダでいいよー」
 と有り金全部を、やつらが女にいい顔をするためだけに使われた。
 おかげで雅也はその月の生活費を失い、家賃と食費のために、幼い頃からこつこつ貯めてきた貯金を切り崩さねばならなかった。
 同じような目に二度ほど遭ったあと、雅也は彼らの誘いから逃げまわるようになった。
 孫に甘い祖母に泣きついて、小遣いをもらおうかとも思った。だが祖母の口から父にばれるのを恐れ、結局は諦めた。口うるさく支配的な父が、雅也は幼い頃から苦手だった。
 それでも最初のうちは期待があった。酒の席で友達ができるのではないか、女の子と親しくなれるのではないか、という儚い期待が。
 しかし結果は惨敗だった。
 誰も雅也とは、電話番号もメールアドレスも交換したがらなかった。隣の席に座った相手とも会話はなく、「なに飲む?」と訊いてすらもらえなかった。どの飲み会でも彼は空気か、もしくは財布だった。
 風もないのに、どこからか花の香りがただよってくる。歩を進めるうち、大学の裏門が見えてきた。ふいに背後から、
「あの、……筧井くん?」
 とちいさな声がした。
 さっきの男子学生とは正反対と言っていい、おずおずと遠慮がちな声音だ。雅也は足を止め、肩越しに振り返った。
 眼前に女子学生が立っていた。小柄な体をブロックチェックのシャツワンピースで包み、
バインダーを胸に抱いている。小づくりな造作と、黒目がちの濡れた瞳がどこか莵を思わせる。
 ──なんだ、加納(かのう)か。
 雅也は目をすがめた。
 加納灯里(あかり)。義務教育時代、三年間を同じクラスで過ごした女子であった。
 まさかこいつと大学で再会することになるとはな──と彼はひっそり苦笑した。故郷から離れた地で、しかもよりによってこんな大学でだ。
「講義、いま終わったの?」
 灯里が問う。雅也はうなずいた。
「ああ、租税理論。白川先生のやつ」
「そっか」
 灯里が気弱げに微笑む。その顔を眺めているだけで、雅也の胸には苛立ちの波がこみあげる。
 ──ああ、おれって傍目にはこいつと同じレベルなんだよなあ。
 と、現実をあらためて突きつけられた苦さが湧いてくる。
 加納灯里とは小学三、四年と中学二年のときクラスメイトだった。灯里は女子には好かれていたようだが、男子には「どんくさい」、「にやにやしてキモい」といじめられていた。
 かたや雅也は学級委員長だった。
 勉強ができ、運動神経もよく、大人受けのいい態度を習得していた彼は、小中学校を通じて文句なしの優等生であった。そうしてクラスのヒーローだった彼は、「どんくさ」くて「キモい」灯里にも、わけへだてなく優しくふるまった。
 だがいまなら、雅也自身にもわかる。
 あれは勝者の余裕に過ぎなかった。あの頃の雅也は、このまま一生勝ち組として邁進する自分を信じて疑わなかった。
 ──こいつの目に映ってるおれって、まだあのときのままなのかな。
 頬を上気させて見つめてくる灯里は、正直言って不快だった。
 優等生のメッキなどとっくに剥げ落ちた。いまや雅也は〝Fラン大学にいやいや通う、ただのぼっち大学生〟でしかない。それでも灯里の目には、まだそれなりの存在に映っているのだろうか。
 だとしても嬉しくはなかった。むしろ惨めだった。
 小学生の頃は見くだす対象だった灯里と、いまは肩を並べる身だという事実がどうしようもなく恥ずかしかった。屈辱とすら言ってよかった。
 しかしそう思ったそばから、
 ──肩を並べる?
 と自嘲がこみあげる。
 ──いや、どう考えてもいまのおれは彼女以下だろう。
 なぜって加納灯里は、それなりに大学でうまくやれているようだ。友達も多い。サークル活動だってしている。そのかたわらボランティアにも参加しているようで、プレ就活でもなかなかいい結果をおさめたと洩れ聞いている。小学生時代はテストで五十点、六十点をとるのがざらで、
「おいおい、公立小学校レベルのテストで、八十点とれないってどんだけ馬鹿だよ」
 と雅也をいつもひそかに冷笑させたあの加納灯里が、だ。
 ふっと雅也はわれに返った。
 気づくと、目の前で灯里が不安そうに足をもじつかせていた。
 いけない。いつの間にか自分の考えに沈みこんでいたらしい。薄化粧した灯里の頬からは、心なしか血の気が引いていた。
「あのさ」
 雅也はうつろに言った。
「あ、はいっ」
 灯里がびくりと肩をはねあげる。
「──おれ、早く帰って昼メシ食いたいんだよね。べつに用ないんなら、どいてくれる」
 われながら無機質な声だった。
 灯里が慌てたように、真横へ避ける。
「ご、ごめんね」
「いや」
 かぶりを振って、雅也は彼女のそばをすりぬけた。
 まだ背中に視線を感じた。うっとうしかった。その存在だけで、語らずとも彼に「過去の栄光」を思いださせる灯里が腹立たしかった。疼うずく記憶も、彼女をすげなく扱うことでわずかに痛む胸も、なにもかも厭(いとわ)しく、不快だった。
 振りきるように彼は足を速めた。
 くそ、あの女──と、胸中で彼女を罵った。
 あの女、親切ごかしでいちいち話しかけてきやがって。Fラン大にしか入れなかった低レベル女のくせに、何様のつもりだ。まさか立場が逆転したおれを、憐れんででもいるってのか。
 ああそうだ、どうせ陰ではおれを笑ってるんだ。神童も、二十歳過ぎればただの人。そう思ってやがるに違いない。友達やサークルの仲間にも、きっと人を肴にしてあることないことふれまわっているんだ。そうに決まってる。糞が。馬鹿女が。
 声のない罵倒はつづいた。罵ってでもいなければ、わけのわからない感情に押しつぶされてしまいそうだった。
 脇目もふらず雅也は歩いた。
 けっして振り返ることなく歩きつづけ、信号を何度かやりすごし、コンビニを素通りして、気づけばアパートの前だった。
 この住まいは、大学から徒歩十五分ほどの距離にある。昼食は途中のコンビニか弁当屋でなにか買うか、もしくは前日の夕飯の残りでまかなうのが常だった。
 築二十年を過ぎた木造アパートは、ロフトつきのワンルームで家賃六万五千円である。やや高めなのは角部屋なのと、まがりなりにもトイレと風呂が分かれているせいだ。
 手すりに赤錆の浮く外階段をのぼり、『203号室』のドアに鍵を挿しこむ。蝶番(ちょうつがい)が軋み、扉が内側にあいた。
 雅也は目をすがめた。
 郵便配達員が来たらしく、三和土(たたき)に封書が落ちていた。拾いあげてみる。妙にぶ厚い。
 表の宛名書きは父の字だった。封を破ると、中にもう一通封書が入っていた。
 どうやら実家に届いたものをそのまま転送してきたらしい。ダイレクトメールではなく、肉筆での手紙であった。
 ──誰だろう。
 個人的な手紙を送ってくる者など心あたりがない。メールやSNS全盛の時代ということを差し引いても、実家宛ての年賀状すらここ数年はゼロだった。
 封書を拾いあげ、雅也はリターンアドレスに視線を走らせた。(続く)

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